八十一話 同じ釜の飯?
僕たちが案内された先は、ホテルにある広い部屋だった。大人数で集まって何かのイベントでもしそうな場所だ。
従業員がビクビクしながら長机と椅子を準備している。
怪物が十二人もいて、何倍もの兵士が完全武装で取り囲んでいる状況だしね。不安にもなるよ。
旧人類側は、まだ到着していない。誰がくるのかも聞いていない。
多分、政治家とかになるのかな。僕は顔も名前も知らないけど。
なんか、遠くにいるって話だ。東京……だったかな。日本の首都?
首都に新人類の町は作れないから、離れた場所に作ってあって、偉い政治家の先生は首都にいて移動に時間がかかる……みたいな説明をされたけど、僕の頭じゃ理解し切れていない。
要約すると、到着に時間がかかるって意味だ。
こちらはの参加者は、十二月や春夏秋冬、四季を合わせて十二人。
隊長さんもいるから合計十三人だ。隊長さんは、なんだかんだここまでついてきている。
「くっそ、なんで俺が……」
「私は帰っていいって言ったのに」
「だから、暴動が起きている中に取り残されても困るんだ」
「ご両親はいいの?」
「よくないが、電話は通じんし、実家は歩いて行ける距離じゃない。田舎だから大丈夫だと思いたいな」
葉月さんと隊長さんの話を聞いて、僕も少し気になった。
僕の両親のことだ。いまだに両親の記憶はないままなんだよ。
「お姉ちゃん。ちょっと聞いていい?」
「改まってどうしたの?」
「両親のこと。僕は、お姉ちゃんのことは覚えていても、両親の記憶がほとんどなくてさ。他に兄弟がいたかどうかも知らない。子供が二人も新人類になっちゃったら、両親も悲しんでるんじゃないかなって」
「お父さんとお母さんか」
姉は沈んだ顔をしていた。悪いことを聞いたかな。
「うちは、私と春ちゃんの二人姉弟だよ。お父さんとお母さんだけど、春ちゃんがいなくなった時はやっぱり悲しんでたね。私も夏に覚醒して別れちゃったし、今どうしているかも分からない」
「連絡は取らないの?」
「取れないね。子供が二人も新人類になったんだよ。世間からは白い目で見られるし、両親も実は新人類なんじゃないかって疑われる。私が連絡を取っちゃうと、どうなるか分かったものじゃないよ」
「そうなんだ」
呑気に話しているけど、これもアピールのつもりだ。もちろん、両親の話を知りたかったのも本心だけど。
親子、友人、恋人。誰だって大切な人はいる。
大切な人が新人類になってしまった時、自分はどうする?
あるいは、自分が新人類になってしまった時、大切な人はどうする?
しょうがないって言わずに、共存できる道を探りたい。
隊長さんは旧人類だし、僕たちを取り囲んでいる兵士たちも同じく旧人類だ。
この人たちに、新人類を殺すことが正しいか疑問を持ってもらいたい。
以前までなら通じなかった。外にいた頃の僕を思い出しても、新人類になったらしょうがないよねって考えだった。完全に他人事だ。
僕だけじゃなく、他の人もね。自分自身や身近な人が覚醒しない限り、旧人類にとっては他人事だ。
無関心でいるか、憎しみを抱いて殺そうとするかの二択だった。
新人類が続々と覚醒している今なら、「もしかして自分も」と当事者意識を持てるんじゃないかなって思う。
「俺を見ないでくれ。俺が新人類に覚醒したら両親は? とか言いたいんだろ?」
「はい。でも、『戦争はいけないことだから仲良くしましょう』よりも説得力があると思いません? これまでは、『自分は人間であり怪物ではない』って考えでいられたでしょう。今は違いますよね。いつ怪物になるか分かりません」
戦いが終わるなら、保身が理由でも構わない。
自分が怪物になった時、問答無用で殺されてしまう世の中にはなってもらいたくないって。
「怪物のくせに、脳内お花畑かよ……って言える状況じゃねえよな。確かに、平和平和って口にするよりも、自分が新人類に覚醒した時に困るからの方が説得できそうだ」
「私もその方向で交渉するつもりよ。私よりも、睦月の方が適任の気もするわね」
年齢的な問題で、葉月さんは舐められやすい。町でも長月を表向きのリーダーとしていたし、話し合いの時は彼が表に出た。
今回も睦月の方がいいんじゃないかって話だ。
「睦月じゃ無理無理。このおっさん、マジで頼りないからな」
「秋陽刀に言われると腹が立つが、俺が頼りないのは事実だ。葉月がやってくれ」
「私、外の常識に疎いわよ。日本の総理大臣すら、顔も名前も知らないわ」
「フォローできる部分はフォローする」
「俺と神無月もフォローを引き受けよう」
ざっくりと役割分担を決めていく。
リーダーは葉月さんで、彼女が中心になって交渉する。
大人であり、記憶を奪われていない睦月、卯月、神無月がフォロー役だ。
隊長さんはよく分からないけど、邪魔はしないって言っている。
残りのメンバーは、交渉ではたいした力になれない。外の常識に疎かったり、子供だから力不足だったりする。
いざという時のために警戒しておこう。
あらかた決まったところで、奇妙な音が聞こえた。怪物のうなり声みたいな恐ろしい音だ。
何事かと警戒心が高まるけど、なんてことはない。
「お腹空いた……」
四季のお腹の音でした。緊張感ぶち怖しだ。
ぐーとかきゅーとか、そんな可愛らしい音じゃないのが四季らしいね。
「食べる物をいただけます? 食糧が少ないので出せませんか?」
葉月さんが頼み、軽食を出してもらえることになった。
サンドイッチだ。お寿司じゃなかったけど、量はたくさんあるおかげで四季も満足気だ。
「この状況で、よく食えるな。俺は食欲もないってのに」
「隊長さんも食べておく方がいいですよ。僕たちは、食べなくてもある程度耐えられますけど、隊長さんは人間ですし」
「サンドイッチよりも別のにする。なあ、レーション持ってないか?」
レーションとは、軍事行動中に配給される戦闘糧食らしい。携帯性や保存性に優れていて便利だとか。
隊長さんは、兵士からレーションを分けてもらっていた。睦月たちに捕まり、案内役にされてからそのまま一緒にいるし、自分では持っていなかった。
ついでとばかりに、兵士たちも小休止する。
僕たちが何かしでかさないように包囲しているけど、ずっと気を張っていたらへばるしね。休憩は必要だ。
「見た目がおいしそうじゃないんですけど、なんでわざわざ?」
「食い慣れてるもんの方がいい。味も意外といけるぞ。昔はクソまずかったそうだが、今じゃ改良されてる。一口食うか?」
「僕は遠慮しておきます」
「私は食べる。あーん」
「お嬢ちゃんだと、一口が全口になりそうなんだが」
短い付き合いの隊長さんにまで、四季の食い意地を知られていた。
四季は、なおも口を開けている。餌を待つ小鳥のようだ。
隊長さんは、一口サイズにちぎって口に放り込んであげていた。
もむもむ咀嚼する四季の姿は、完全に小動物だ。戦闘能力は僕たちの中でもトップクラスなのにね。
「本当においしい」
「だろ?」
「あーん」
「ほいっと。これ、おもしれえな。ペットに餌をやってるみたいな気分になる」
四季を餌付けする隊長さんを見て、僕の脳裏にはある言葉がよぎった。他のみんなも同じだろう。
ロリコン、と。
「ロリコンじゃねえぞ」
周囲の視線を感じ取ったのか、隊長さんが弁明した。いまいち説得力に欠ける。
兵士たちから笑いが漏れて、上官に注意される一幕もあった。
同じ釜の飯を食って、仲良くなれたってことになる? 同じ釜じゃないけど別にいいよね。
どうでもいいことを考えつつ食事休憩だ。




