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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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八十話 バカをやって、笑って、泣いて

「怪物だ!」


 誰かが悲痛な声で叫んだ。

 僕と冬将(ふゆまさ)を指差している。白髪を見て、怪物だと気付いたみたいだ。

 平和な日常に怪物が紛れ込めば大変だけど、元々がパニック状態だったから、あまり変わらない。僕たちに近寄ろうとせずに逃げ惑っている。

 逆に、近寄ってくる人もいた。覚醒したばかりの新人類だろう。


「お前らも新人類か? 協力しろ。こいつらをぶっ殺すんだ」

「私たちは、戦いにきたわけじゃないのよ」

「殺さなきゃ殺されるだろうが! 甘えたこと言ってんじゃねえよ!」


 新人類の男性は激怒していて、葉月(はづき)さんを責め立てる。

 仲間もいるけど、全員殺気立っているね。包丁とか鉄パイプとか、武器になりそうな物を持っていて、血に濡れている。

 殺されないために戦っていたんだ。

 なのに、葉月さんは戦いにきたんじゃないと言っているし、男性はその発言に激怒している。


睦月(むつき)、この人たちの相手をお願い」

「俺が? 面倒だな」

「あっちにいる兵士と交渉してくれる?」

「こいつらの相手でいい」


 交渉するのは大変だと判断して、睦月は葉月さんの指示に従う。

 皐月(さつき)文月(ふみつき)師走(しわす)秋陽刀(あきひと)も睦月に協力する。一応、隊長さんもだ。

 残りのメンバーは、兵士に接触しよう。


 ガチガチに装備を固めている人たちがいるし、一般人との違いは一目瞭然だ。

 特別な服というかスーツというかを着て、透明な盾も持っている。武器も持っているけど、使っている様子はない。間違えて旧人類を射殺してしまうと一大事だからかな。


 ただし、トリガーには指を引っかけている。

 撃とうと思えばいつでも撃てるってことだ。僕たちに対して撃ってきそうだし警戒しよう。


「話を聞いてもらいたいの。リーダーは誰?」


 両手を上げて抵抗の意思がないことを示しながら、葉月さんが声をかけた。

 相手の返答は、言葉ではなく殺意のこもった乱射だった。


「葉月さん!」


 僕と冬将が前に出て、葉月さんを守る。

 警戒しておいてよかったよ。撃ってきそうな雰囲気を感じたんだ。

 春と冬の頑丈さなら、攻撃にもギリギリ耐えられる。


 僕たちは耐えられても周囲の人は耐えられない。流れ弾が周囲の人に命中しているし、倒れる人が続出した。

 随分と短絡的な行動だ。後先を考えているようには見えない。


「こいつら!」

卯月(うづき)! やめなさい! 私たちは戦いにきたんじゃないの!」


 相手を叩きのめし、力の差を見せつけてから交渉する手もある。

 それだと交渉にならない。暴力を背景に無理矢理言うことを聞かせるだけだ。


「私の首でよければあげるわ。代わりに話を聞いて。お願い」

「聞いてねえぞ。(よう)さんは死ぬつもりかよ」

「死にたくはないけど、他に方法がないなら命も懸けるわよ。前任の睦月たちも、命を賭していた。私も、曲がりなりにもリーダーをしているし、本気でやらなきゃね。そっちの人たちも聞いて。私は、新人類の町で十二月(じゅうにつき)のリーダーをしている葉月葉。話し合いをしにきたの」


 葉月さんは両手を上げたままだ。無抵抗を貫こうとしている。

 しかし、脅えている様子は欠片も見せない。凛とした空気を纏い、正面から見据えている。


「今は、日本中で新人類が覚醒しているんでしょ? 新人類は滅ぼせないの。殺しても殺しても、新しい新人類が覚醒する。今まで普通の人間だった人が、ある日突然新人類に覚醒するわ。もちろん、あなたたちの中からもね。殺して覚醒して、殺して覚醒して、この繰り返しよ。戦いは永遠に終わらない」


 どこまで伝わったかは不明ながら、攻撃は止まったし、相手はざわついている。

 チャンスだ。葉月さんは、ここぞとばかりに畳み掛ける。


「新人類は滅ぼせない。絶対に滅びない。新人類の町を襲ったのと同時に、大勢が覚醒している。この状況が、ただの偶然だと思う? 偶然じゃないの。あなたたちが戦いを継続しても無意味よ。賭けてもいいわ」


 葉月さん自身は否定していたけど、リーダーの資質がある人だ。

 堂々とした態度に、はきはきとした物言い。声はたいして大きくないけど、綺麗だしよく通るし、聞きやすい。

 気が付けば、兵士たちはもちろん、周囲の人たちも耳を傾け初めていた。


「あなたたちは何がしたいの? 新人類を全滅させたい? 力をひけらかし、武力で制圧して、いい気分に浸りたい? 違うわよね。国や国民を守りたいし、平和をもたらしたいんでしょ? 立派だと思うわ。立派な志を達成するためには、戦うべきじゃない。戦っても平和は得られない」

「……わけ知り顔で話しているが、証拠はどこにある?」


 無言で聞いていた兵士の一人が、ここで会話に応じた。

 疑っている様子だけど一歩前進だ。


「具体的な証拠は出せないわ。今伝えたのが全て」

「つまり、状況証拠か」

「そうね。でも、本気で偶然だと思っているの? 新人類の町はほぼ壊滅よ。生き残りは百人もいない。同時に、日本中で新人類が覚醒した。ただの偶然であり、覚醒した新人類を皆殺しにすれば問題が解決すると考えるなら、やってみなさい。一体、何百万人、何千万人を殺すことになるかしらね。殺し尽くした先には何が残るかしらね」

「単なる脅し……とは言い切れないか」


 話が通じた!? まだ安心はできないけど、解決の道筋が見えている。

 兵士の中でもそれなりの立場にあるだろう人が、どこかと連絡を取っている。

 僕たちは、うまくいってくれるよう見守るだけだ。


「葉月さんって凄いね。できるオンナって感じだよ。憧れるなあ」

「お姉ちゃんが葉月さんみたいに? ……夢を見るのは自由だよね」

「春ちゃん、失敬だよ」

「ごめんね」

「いいけど、それよりも怪我は平気? 葉月さんを守って怪我したよね?」

「痛いね。ただ、痛い程度で済んでいるのは助かるよ。春の力のおかげだ」


 姉とバカな会話をする余裕もある。

 緊張を解くのは早いから、警戒はしているけど、僕たちがあまりピリピリしていると相手を刺激してしまう。


 バカな会話をするくらいがちょうどいい。

 僕たちに戦う気はない。交渉をしたがっている。

 この事実を理解してもらうんだ。


速峰(はやみね)春真(はるま)

「どうしたの?」

「お腹空いた」

「……交渉時に、なんか食べさせてもらおっか」

「お寿司。今なら十人前、ううん、二十人前はいける」

「四季の胃袋の構造がどうなってるか、不思議で仕方ないね。お寿司を食べたいなら、僕に言わないであの人たちに頼んでよ」


 四季もこれだ。

 知り合って間もない卯月と神無月(かんなづき)は、僕たちのノリが分からず呆れている。


「敵地のど真ん中なのだがな。いつ何が起きてもおかしくない。遠距離からライフルで射殺されるかもしれないし、ここの連中が総攻撃を加えてくるかもしれない」

「僕たちは、話の通じない怪物じゃないって主張してるんですよ。外の人たちとなんら変わりません。家族や友人とバカをやって、笑ったり泣いたりするんです」

「物は言いようだな」

「でも、わたしはこの方がいいと思うよ。バカなノリに賛成」

「神無月までか」


 卯月は真面目な性格みたいだ。神無月は、どっちかっていうと僕たち寄りだね。


「あんたらねえ。私がこれだけ頑張ってるのに、何をしてくれるの」

「まったくだ。葉さんの頑張りを無駄にするんじゃねえ」

「冬将だけが味方だわ。ありがとう」

「げへへへ」


 冬将は葉月さんにデレデレだ。演技か本心かは分からない。

 少しはアピールにつながったかな。仲間を大切にしているし、恋愛感情も持つ。僕たち新人類はちゃんと人間なんだって。

 こんなやり取りを続けていると、相手は連絡を取り終わったみたいだ。


「ついてきてもらいたい。全員だ」

「私たち全員でいいの? 戦力を分散させるかと思ったわ」

「むしろ、散らばられる方が面倒だ。固まっていてくれる方がいい」


 睦月たちも呼んで、全員でどこかに行くことになった。

 交渉ができるといいけど。

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