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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第3章 明日への一歩
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五十八話 遅い決断

前話に続き三人称視点です。

次から元に戻ります。

 速峰(はやみね)春真(はるま)が使者として外に出てから、早五日が経過した。

 戻ってくる気配はなく、連絡の一つもない。

 まだ五日だ。一日二日程度で話がまとまるとは思えず、それなりの時間を要するであろう。電話もメールもできないとなると、連絡を取るのも一苦労だ。


 焦らずに吉報を待てばいいとも言えるが、全員が不安になっていた。

 特に、如月(きさらぎ)弥生(やよい)は、すぐにでも外に出て行きそうな勢いだ。

 今もリーダーの葉月(はづき)に直談判中である。


「春真が出て行ってから五日ですよ。戻ってこないのは、何かあったに決まっています。俺を外に行かせてください」

「私も行きます。葉月さんが行くなと命令しても、無視して行きます。春真さんは捕まっていて、私の助けを求めているはずです」


 家主が不在となった速峰家にて、葉月は二人から詰め寄られ、困り果てていた。

 気持ちは痛いほど理解できる。

 葉月とて春真が心配だ。恋愛感情ではないものの彼は好きだし、死んで欲しいとは思っていない。無事を祈っている。

 後先を考えずに飛び出したい気持ちもある。

 だが、リーダーとして許可できるかというと別問題だ。


「認めないわ」

「命令は無視します、と言いましたよね」

「あのねえ……長月(ながつき)もなんとか言ってやって」


 ナンバーツーの長月も巻き込み、二人の説得を試みる。

 なお、他のメンバーは学校だ。ここにはいないが、考えはおおよそ聞いている。

 春真とそこまで親しくない卯月(うづき)水無月(みなづき)は、心配はしていても外に行くと言い出さないので助かる。

 冬将(ふゆまさ)神和(かんな)も、このまま待つ考えだ。


 この四人は、春真も覚悟の上で外に出たと判断している。

 殺されるかもしれないし、捕まってしまうかもしれない。自分の身が危険にさらされることを承知で、あえて使者になったと。


 四季(しき)の考えは、如月や弥生に近い。春真のお姉ちゃんを自称するだけあり、弟の身を案じている。

 如月や弥生と合わせ、三人で外に出て行きかねない様子だ。

 ただでさえ少ない戦力が分散しては困るため、葉月と長月で説得したい。


「……葉月」


 説得を頼んだはずの長月は、如月や弥生ではなく葉月の方を見ていた。


「そろそろ限界かもしれんぞ」

「限界って……」

「食糧の残りも少ない。スーパーも個人商店も品切れになる店が続出しているし、飲食店は食材が手に入らず休業状態だ。生きている住人たちも騒いでいるのを知っているだろ?」

「知ってるけど、まだもつわよ」

「底をつくまで粘っても仕方あるまい。捕虜に与える食事もほとんど残っていないぞ。あいつらが持ち込んだ分がなくなればどうする? 空腹に耐えかねて何をしでかすか分からん」

「それは……」


 外の兵士たちは、肉や野菜を持ち込んだわけではない。

 携行するのに便利で、少ない量でも十分なカロリーを摂取できる物だ。味はおいしくないし満足感とも程遠い。

 現状でも不平不満は多く聞かれ、まともな食事をよこせと言われている。

 住人が優先なので与えていないが、彼らが持ち込んだ分を消費してしまえば町の食糧を分けるしかない。

 追い詰められている状態だ。


「速峰春真が懸命に交渉しているなら、俺たちが出て行くのはあいつの頑張りを無駄にすることになる。が、既に殺されでもいていれば、いくら待っても無駄だ」

「春真さんを殺さないでください! 春真さんは生きています!」

「仮定の話だ。落ち着け。それで、どうする? ナンバーツーの俺は、外に攻め込むことを提案する。リーダーの意見は?」


 リーダー。

 この肩書きがこれほど重いとは。

 葉月としては待ちたい。ここで攻め込むのは、完全に戦争をすることになる。

 新人類側が全滅するまで終わらない戦争だ。そんなもの、誰がやりたがる。


 リーダーが待つと決めれば、長月たちは従ってくれる。如月や弥生は怪しいが、言い聞かせられなくはない。

 しかし、待って事態が好転すると信じられるほど楽観的にもなれない。

 ただ待っているだけで全てが解決する。

 春真ですら、ここまでの理想論は述べない。


「進むも地獄、退くも地獄、か。勘弁して欲しいわ」


 少しだけ愚痴を言わせてもらってから、葉月は決断する。


「外に攻めましょう」


 葉月の決断に、如月と弥生は笑みを浮かべた。長月は神妙に頷く。

 交渉を求めるのではない。攻めるのだ。

 こちらは再三にわたり交渉を求めてきた。見せられる限りの誠意を見せた。

 ところが無視されている。


 こちらの対応も完璧ではなかったかもしれないし、知らず知らずのうちに礼儀を欠いた行動をしていたかもしれない。

 不備があったとしても、こうまで舐め切った対応をされるいわれはない。

 交渉に応じるとも応じないとも、一切の連絡がないのだ。

 春真が向かってもダメだったとなれば、もはや戦う以外に道はなかった。


「そうと決まれば、全員に連絡して準備しないとね。今すぐ攻めるのは無理よ」

「後始末も色々あるな。住人の中で生きている者、死んでいる者をどうするか。捕虜はどうするか」

「生きている人は、このまま町に残ってもらうしかないわよね。食糧も少ないけど耐えてもらうわ」


 死んで怪物になっている者は、先の戦いで多く失ったが、まだまだ残っている。

 半分は護衛として町に残し、半分は連れて行くのがベターか。

 護衛にもならない気がするが、全員を連れて行っても動きが遅くなるだけだ。


「捕虜は殺すか? 一番手っ取り早いぞ」

「殺さないわよ。好きにさせるわ。町に残ってもいいし、私たちと一緒に外に行ってもいい。生き恥をさらしたくないから死ぬって言い出すなら止めない」


 外と交渉ができない以上、捕虜がいても役に立たない。

 皆殺しにはしなくないため、自由意思に任せる。

 家族や恋人に会いたがっている者もいた。町で探し、一緒に暮らすのであればそれでいい。近いうちに町は滅ぼされるだろうが、短期間だけでも再会してもらう。

 外に帰りたいなら認める。攻撃されては困るので武器は返さないが、命が助かるだけでも十分ではないか。贅沢は言わせない。


 後始末を終えるには、二日は欲しい。今日と明日で終わらせ、明後日攻めよう。

 この場にいる四人の中では、ざっくりと予定が決まった。

 他五人にも意見を聞いてみて、残るか外に行くか決めてもらう。





 だが。

 決断は少々遅かった。

 攻めると決めた翌日、決行日前日の昼に、それは起きた。

 外の襲撃だ。外の方が決断は早かった。


 外の襲撃は警戒していた。

 連絡がなかったのは、時間稼ぎと考えるのが妥当だ。交渉すると言ってしまえばしなければならないし、しないと言ってしまえば攻撃されてしまう。

 何も反応せず、こちらが動かずに待つ状態を作ろうとした。

 その間に外は悠々と攻める準備を整えられる。


 思惑に見当がついていながら決断が遅れてしまったのは、大失態だ。

 前回の襲撃は三百人だったが、今回は規模が違う。ざっと一万人を超える人数がいて、水無月の結界でも把握し切れなかった。


「あーあ、戦争になっちゃった。神和は可愛く死にたいのにな。ねぇ、四季。今のうちに神和を可愛く殺してくれない?」

「分かっ……」

「リーダーの私が認めないわ」


 可愛く死にたがる神和と、了承しようとする四季をたしなめた。

 ただし、たしなめた葉月自身、それも一つの手だと思い始めている。

 この場にいる十二月(じゅうにつき)は七人。

 七人を殺し、四季の力が増して、外の連中を追い払えるならありではないか。

 戦って無駄死にするなら、勝ち目のある方法を選択し、四季の糧となる。


「逃げの思考になるな。俺は十二月最弱だが戦う。葉月も逃げるな」

「ええ、ごめんなさい」


 長月に思惑を見抜かれていたらしい。

 四季に殺されることは考えず、戦おう。


「ボク、戦いは専門外だけど」

「水無月ちゃんはわたしと一緒よ最後の最後まで一緒水無月ちゃんペロペロ外の連中にはペロペロさせないロリコンどもの考えはお見通し水無月ちゃんを捕まえて未成熟な肢体を貪るの」

「卯月さんの言い方は露骨ですけれど、あり得そうなのが嫌ですね。私に触れていいのは春真さんだけです」


 卯月や弥生が心配しているように、戦争を理由にすれば強姦程度はやる。

 怪物に人権はなく、非人道的な扱いだと責任を追及されることもない。都合よく抱いて捨てられる。

 住人の女性も危ないし、ここにいる女性陣も危ない。


「俺には理解できないな」

「如月は性欲がないからだ。外の連中はある。葉月も気を付けろ。お前の胸は、ある意味凶器だ。狙われやすい」

「普段ならセクハラするなって怒るけど、今は忠告ありがとって言っておくわ」

「神和も危ないよぉ。神和は可愛いもん」

「お前に手を出す物好きは……意外といそうなのがこええな」

「私の膨らみかけが男を惑わす。罪な女」


 各々好き勝手言っていた。

 ふざけているようであり、ある種の挨拶でもある。

 別れの挨拶だ。生きて再会することは、おそらくあるまい。

 外に出た春真との再会も叶わない。


「行くわよ」


 葉月が声をかけ、九人が戦いに赴く。

 願わくは、あの世でもいいから再会したい。

 睦月(むつき)たちもいるだろうし、全員での再会を。

 後ろ向きで悲しい望みを抱いた。

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