五話 二人の友人
昨日は、四季の事情を聞いたり買い物に付き合ったりして、学校を休んだ。
今日はちゃんと登校する。
四季は僕の家で留守番中だ。一緒に登校しようって誘えば拒否された。
妙に眠そうにしていたんだよね。
昨晩は、買ったばかりのベッドに入って嬉しそうにしていたし、早い時間に寝たはずだ。睡眠時間は足りているのに、今朝はベッドから出ようとしなかった。
自堕落な生活はよくないけど、口論していると僕まで遅刻しそうだったし、好きにさせておくことにした。
登校したいならすればいい。嫌なら家にいればいい。
今頃は夢の中だろう。あったかい布団にくるまれて二度寝するのは気持ちいい。
食事は冷凍食品があるし大丈夫だ。適当に食べてって伝えておいた。
てなわけで、僕は一人で登校した。
「おはよー」
朝の挨拶をしつつ教室に入った。
クラスメイトたちが挨拶を返してくれる。その中には僕と仲のいい友人もいる。
「おっす、春真。生きてたんだな」
彼の名前は如月だ。苗字はなく、ただの如月。
僕の名前は速峰春真だけど、苗字がない人も結構いる。
そこに意味はない。僕がなぜ速峰春真なのかと問われても、そういう名前だからとしか答えられないように、如月はなぜ如月なのかと問われても答えはない。
如月の名前はいいとして、生きていたってのはちょっと酷い。
「勝手に殺さないでよ」
「悪い悪い。昨日休んだから、ひょっとして事件に巻き込まれたんじゃないかって思ったんだ。最近起きてる変死事件」
「昨日の昼頃にも事件があったよね。ショッピングモールで若い女性が死んだ」
「情報が早いな。なんで知ってんの?」
「ちょうどショッピングモールにいたんだよ。変死体も見た。噂で聞く通り、綺麗だったよ。死んでるようには見えなかった」
「物騒だねえ。俺たちもいつ殺されるやら」
被害者に共通点はないと言われている。老若男女を問わずに死んでいるって。
僕や如月が殺されても不思議じゃない。
「どっちかっていうと、殺されそうなのは僕でしょ。如月は大丈夫っぽい」
「なんでだ?」
「だって、如月は体が大きいし、喧嘩も強い。殺人犯とだって勝負できそうだ。足も速いから、逃げようと思えば逃げられる」
「背はそこそこ高いが、喧嘩は別に強くねえよ。殴り合いの喧嘩なんざ碌にやったことねえしな。俺が強いんじゃなくて、春真が弱いんだ。メシ食ってんのか?」
「ちゃんと食べてるよ」
同年代の男子に比べれば食が細いと思うけど、一日三食きちんと食べているし、好き嫌いもない。
食べていても大きくならないのは、僕の責任じゃないよね。体質だ。
「冷凍食品とインスタント食品ばかりで、ちゃんと食べてるって言えます?」
僕と如月の会話に加わってきた人がいる。
クラスメイトの女子で、紺屋宵さんだ。
「おはよう、紺屋さん。痛いところを突いてくるね」
「おはようございます、春真さん。体調不良は治りました? 不健康な食生活をしているから、体調を崩すのですよ」
如月が男子の中で一番親しい友人なら、紺屋さんは女子の中で一番親しい友人になる。僕の食生活も把握されている。
学校がある時の僕の昼食は、いつも菓子パンだ。
それについてチクリと言われ、普段の食事はどうしているのかって質問されたから、四季に答えたのと同様の言葉を返した。
冷凍食品万歳、インスタント食品万歳って。
以来、健康的な食事を取るように注意されている。世話焼きな一面がある人だ。
「不健康な食事は否定できないけど、昨日休んだのは体調不良じゃないよ」
「そうなのですか?」
「春真はさっき、昨日の昼はショッピングモールにいたって言ってたよな。体調不良なら出かけられない」
「うん。色々と買い物があったから休んだんだ。体は健康そのもの」
「体調不良でなかったのはよろしいですけれど、不健康な食事をしていいことにはなりませんよ」
世話焼きな紺屋さんは、この手のお小言も多い。
僕を心配しての言葉だから嫌じゃないけど、恥ずかしい気持ちはある。
同性ならともかく、紺屋さんは女子だからね。
しかも美人だ。背は僕より高くて、出るところが出たスタイルをしている。
美人クラスメイトに注意されたり世話を焼かれたりするのは、僕のプライドが。
じゃあ、世話を焼かれずに済む生活をすればいいって話だけど、僕は料理ができない。できたとしても面倒だから作りたくない。
こう反論すれば、紺屋さんは「私がお弁当を作ります」って言い出す。
僕が「申し訳ないからお気持ちだけで」みたいに断るのがいつもの流れだ。
今日も弁当を作るって提案されて、僕が断った。
「残念です。では、食事は置いておくとしまして、学校を休んだ件です。買い物でしたら、休日にすればよかったのではありませんか? 学校をサボるのはよくないですよ」
「緊急で必要になったんだよ。服とか下着とかね。紺屋さんに付き合ってもらおうかとも考えたけど、サボらせるのは悪いからやめたんだ」
「春真さんはエッチです! 春真さんの下着を私に選ばせるなんて! そりゃあ見てみたいかと問われれば見たいですと全力で頷きますし見るだけにとどまらず脱がせる場面を妄想したりも……」
「僕の下着じゃないから。女の子の下着だから」
「春真さん……女性用下着を着用するご趣味が?」
「ちっがーう!」
紺屋さんがとんでもない誤解をしていたので、大声で突っ込んだ。
僕の言い方がまずかった部分もあるけど、紺屋さんの発想もおかしい。なんで僕が着るって考えになるかな。
「女の子の下着を必要とするのは、女の子に決まってるでしょ」
「わ、私へのプレゼント? 春真さん好みの下着を贈りたいと?」
「それも違う。えっとね」
紺屋さんと如月に、四季を助けたことを伝える。彼女には家がないので一緒に住むことになり、私物も全然持っていなかったから買いに行ったって。
「春真の同居人ってことか。いいんじゃないか。困ってる時はお互い様だし、助け合わないとな」
如月は簡単に納得してくれた。
年頃の男女が同居する是非についてはあれこれ言わず、心配もしていない。
僕を信用しているってよりは、如月は性的なことに疎いんだ。
如月の外見は男前だ。背も高いし顔も整っている。
異性にもモテそうなのに、まるで興味を持っていない。
かといって同性愛者でもない。年端のいかない子供しか愛せないとか、逆に老婆が好みとか、倒錯した趣味もない。
性欲自体を持っていないんだ。美女だろうと美少女だろうと何も感じない。格好つけているのでも強がっているのでもなくて、本気で興味がない。
おそらく、恋愛感情もないと思う。友情はあっても、男女の愛情はない。
この辺は個人差だね。如月みたく異性に興味を持たない人もいるし、僕みたくスケベな人もいる。
で、紺屋さんは僕寄りだ。
「高校生の男女が二人、一つ屋根の下で同棲生活……ふしだらです!」
「何もしてないから」
「しかし、可愛い子なのですよね?」
「可愛いよ。幼い外見だけど間違いなく可愛い」
「ムラムラしません? つい襲ってしまい、四季さんも受け入れ、肉欲に溺れた性活になったりしません?」
「いくらなんでもならないよ。興味はあるけどね」
「……今日の放課後、春真さんの家にお邪魔します」
「面白そうだな。俺も行く。四季って子に会ってみたい」
「構わないけど」
紺屋さんと如月が、僕の家に遊びにくることになった。
話がまとまったところで授業が始まる。
昨日は休んだけど、普段の僕は真面目に授業を受けている。居眠りはしない。
今日もしっかり勉強した。
昼は紺屋さんや如月と一緒にご飯を食べて、午後から再び授業だ。
満腹になった直後に英語の授業は眠くなる。僕の苦手科目だし、先生が何をしゃべっているかさっぱりだ。
学校の勉強だから、苦手でもなんでも割り切って覚えるしかない。
放課後になれば、約束通り三人で僕の家に行く。
紺屋さんは夕飯を作ってくれるって言い出した。
申し訳ない気持ちはあったけど、食材は僕と如月が折半して買えば、罪悪感も薄れる。おいしい食事にありつきたいとも思ったし、お言葉に甘える。
買い物をしてから僕の家に。
玄関のドアを開けて家に入れば、中からドタバタした音が聞こえてきた。
そして、四季が出迎えてくれたんだけど。
「おかえり、春真」
「目潰しです!」
「うぎゃっ!」
四季が姿を見せた途端、紺屋さんは僕の目をチョキで潰した。
両目を押さえ、僕は苦しむ。
「ふしだらです! はしたないです! なんという格好をしているのですか!」
「サービス」
「サービスじゃありません!」
「ご奉仕」
「ご奉仕じゃありません!」
「私は嫌だって言った。でも、速峰春真が無理矢理。家に住まわせて欲しければ、僕を悦ばせる格好をしろって」
「春真さんは、そのようなことを要求する人ではありません!」
「ちぇっ」
「やはり嘘でしたね!」
紺屋さんが怒鳴り、四季はのらりくらりとかわす。
四季は下着姿だったんだ。ブラジャーとショーツのみだ。
そりゃあ紺屋さんも怒るよ。
ちなみに、如月の目は潰されていない。異性に興味のない彼は、下着姿の美少女を見ても反応しないからだ。
「面白い子だな」
呑気に笑っているね。僕だけが割を食った気分だ。
二人を招いたのは失敗だったかもしれない。




