表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
4/92

四話 変死事件

本日二話目です。一話目を未読の方はそちらからどうぞ。

なお、明日以降は朝のみの投稿となります。

 四季(しき)と同居することになったので、彼女の生活に必要な物を買いに行く。

 なんといっても、服と下着が必要だ。

 ショッピングモールに行き、適当な店に入って見繕う。下着を買う時はさすがに付き添えないから、四季一人で買ってもらった。


 友人の女性に頼る手も考えたけど、学校を休ませるのは申し訳ない。

 四季だって子供じゃないし、買い物は一人でできる。

 特に問題は起きず、服と下着を買ってくれた。思った以上に高くて、僕の懐が痛んだのはちょっと問題かな。

 女性用の下着ってこんなにも高いんだね。初めて知った。


「私のブラジャー、見る? 速峰(はやみね)春真(はるま)を悩殺できるセクシーなブラ」

「見ない。というか、着ける必要あるの?」

「失礼。私もちゃんと膨らんでる」

「そうなんだ」

「膨らみかけがベスト。贅肉の塊は邪道。悪魔。悪魔は死すべし」


 僕の友人に、胸の大きな女性がいるんだけどな。

 四季に教えると機嫌を損ねそうだしやめておく。

 エッチな会話はほどほどにしておくとして、買い物は大体終わった。

 歯ブラシやタオルも買ったし、食器も買った。他に必要な物はあったかな。


「そうだ、ベッド。僕が使ってるやつしかないよ」

「ソファー」

「四季はソファーで寝るの? 一晩程度ならともかく、毎日は辛くない?」

「速峰春真が」

「図々しいね。昨晩はベッドを貸したけど、あれは特別だよ。気を失ってる女の子をソファーで寝させるわけにはいかなかったから」


 今晩からは、ベッドは僕が使わせてもらう。

 同衾するのもダメだし、四季用のベッドを購入しよう。

 四季はここでも図々しくて、キングサイズの大きなベッドを選ぼうとした。僕のベッドよりもいいやつだ。

 贅沢は許さない。同居するなら、ある程度節約しなきゃ。

 シングルベッドを購入して、家まで届けてもらうことにした。


「これでよしと。四季は、他に欲しい物ある? 贅沢品は却下ね」

「避妊具?」

「いりません。使わずにするって意味じゃなくて、そもそも使う行為をしないって意味だからね」


 四季は下ネタが好きなようだ。いや、僕をからかうのが好きなのかな。

 出会ったばかりなのに、悪い遊び方を覚えてしまった。頭が痛い。

 こんな感じで買い物を済ませた。いくつもの店を回ったし、四季は服選びに時間をかけていたから、とっくに正午を過ぎている。

 どこかで昼食を食べて帰ろうってなった。


「四季は何を食べたい?」

「満漢全席」

「中華でいいんだね。ラーメンと餃子あたりかな」


 四季がふざけた物言いをするのにも慣れてきた。

 中華料理屋に行くために歩いていた時だ。

 ショッピングモールの一画に人が集まっているのを見かけた。

 野次馬根性を発揮した僕は、そこに近付いてみる。


「何かあったんですか?」

「変死事件だよ」


 近くにいる人に尋ねれば、簡潔に答えてくれた。

 最近よく起きている変死事件だ。

 人々が注目する先を覗けば、若い女性が眠るように倒れていた。

 昨晩の四季を思い起こさせる姿だけど、気を失っていただけの四季とは違い、彼女は死んでいるみたいだ。


 見た感じ傷はないし、服も着ている。綺麗なものだ。

 四季のように気を失っているだけだって聞けば信じる。今にも目を開けそうな様子だ。

 噂に聞く変死体そのものだね。実際に見るのは初めてになる。

 見ていて気分のいいものじゃないし、行こう。


「四季、ここを離れようか」

「警察は?」

「ケイサツ? って何?」


 まただ。四季は僕の知らない言葉を口にする。

 アイスに賞味期限がないのと同じで、雑学の類かな。

 無知な僕に、四季が教えてくれる。


「事件を捜査する人。公僕」

「事件の捜査は、やりたい人がやるでしょ。変死体も誰かが片付けてるしね」

「疑問に思わない?」

「何が? ごくごく普通のことだと思うよ」

「殺人事件が起きている。犯人を捕まえないと安心して暮らせない。治安を守り、人々を守るのが警察の仕事。素人は出しゃばらない」

「そんな仕事は聞いたことないなあ」


 殺人犯を野放しにしておくのが不安だって気持ちは理解できる。僕や四季だって被害にあうかもしれないんだ。

 でも、犯人を捕まえる仕事は知らない。

 自分の身は自分で守る。これが常識だ。

 仮に僕が殺されても、その時はその時だ。死にたいわけじゃないけど、しょうがないと思って諦める。

 四季が殺されてもしょうがない。友人が殺されてもしょうがない。


 もちろん、僕の力で助けられるなら助けようとする。昨晩四季を助けたのもそうだけど、見捨てるのは後味が悪い。

 裏を返せば、僕の力が及ばないなら諦める。しょうがない。

 何人も殺していていまだに捕まっていないなら、犯人は頭が切れるし力もある。

 僕の力で太刀打ちできる相手じゃない。出会えば不運だ。僕にはどうすることもできないし、お手上げとしか言えない。

 四季は、大きくため息をついていた。呆れている様子だ。


「警察がいない。救急車もないって言ってた。医者は?」

「イシャ?」

「分かった。医者もいない」

「イシャもケイサツみたいな職業なの?」

「怪我や病気を治療する人。大怪我をしたり病気になったりしたらどうする?」

「自分で治す」


 自分の身は自分で守るのと同じだ。怪我をすれば自分で手当てするし、病気になれば市販薬を飲んで大人しく寝ている。

 治ればいい。治らなかったら諦める。


「医者も警察もいない。無茶苦茶」

「四季の言っている意味が、僕には理解できないよ。イシャとかケイサツとか、どこで得た知識なの?」

「常識」

「常識じゃないって。他の人に聞いても、僕と同じ答えを返すよ。行き倒れが原因で頭が混乱してる?」

「私は正常。速峰春真が異常」


 言って、四季は一人で歩き出す。

 僕も後を追いかける。どこに行くのかと思えば、中華料理屋に入った。

 変死体を見かけても食べるんだね。神経が図太い。

 まあ、僕もお腹が空いているし、食べるけど。


 繁忙時間帯を過ぎているおかげで、店内には客が少ない。

 二人でテーブル席に座り、注文する。

 料理を待つ間は、四季が変な話をし出す。いつもの下ネタだ。


「ロリコンの速峰春真が、私を襲うとする」

「ロリコンじゃないし襲わない」


 僕もいつも通りロリコンを否定するけど、四季は言葉を止めない。


「仮定の話。速峰春真が私を襲い、私は抵抗空しく犯される。性犯罪者を捕まえてくれる警察がいないと私が困る。速峰春真は調子に乗って私を襲い続ける」

「長続きしないと思うけどね。いつか四季に殺されるよ。殺されないとしても、二度と女性を襲えない体にされちゃうとかさ」

「私が速峰春真を殺してもいいの?」

「僕の自業自得でしょ。殺されたくないなら、四季を襲わなければいい」


 因果応報ってやつだ。僕が悪いことをしたなら、相応の報いを受ける。

 ケイサツなんてわけの分からない連中に殺されるよりも、被害者である四季の手で殺される方が自然だ。

 最近起きている変死事件だって、犯人が見つかれば誰かに殺されるね。


「私の報復が怖いなら、犯してから殺せばいい。速峰春真は捕まらない」

「うまくいけばそうなるね」

「警察がいれば、事件を捜査して犯人を捕まえてくれる」

「ケイサツがいなくても襲うのは躊躇するよ。うまくいくとは限らない。失敗したら四季に殺される」

「たとえば、このお店で食い逃げしたら?」

「さあ? 試したことないから分からないけど、捕まってボコボコにされた挙句、お金を奪われるとか? 二度とお店を利用できなくなるだろうし、僕が困るね」


 うまく逃げ切ったとしても、顔は覚えられてしまう。

 すると、次にこの辺りを訪れた時に捕まる。

 二度と近寄らないって手もなくはないけど、店を利用できないのは不便だ。

 この中華料理屋に限った話じゃない。店同士、横のつながりがあるだろうから、僕の悪事は周辺の店にも伝わる。全ての店で出入り禁止処置を取られてしまう。

 冷凍食品も買えなくなるのに、どうしろっていうのさ。リスクとリターンが釣り合わない。


「速峰春真の理屈だと、殺されたり報復を受けたりする心配がなければ、なんでもやっていいことになる?」

「いいとは言わないけど、やろうと思えばできるね」


 僕に強い力があるとしよう。四季を襲い、彼女が僕に報復しようとしてもねじ伏せられる力だ。

 食い逃げをしても、追いかけてきた店の人を殺せる。買い物だって、出入り禁止にするなら殺してしまえばいい。

 僕に逆らう奴らは全員殺す。僕を否定する奴らは全員殺す。敵は皆殺しだ。

 これなら好き勝手できるけど、そこまでの力を持つのはあり得ないから、仮定する意味がないね。


「第一、ケイサツがいても一緒じゃないの? ケイサツに抵抗できる力があれば恐れなくていい。ケイサツを無視して好き勝手できる」

「そうだけど……」

「四季が何を心配してるのか、僕は知らない。でも、心配はいらないよ」

「速峰春真が守ってくれる?」

「守らないね。僕は腕っぷしが弱いから、守りたくても守れない。そもそも、守ろうって気もない。もしも変死事件の犯人と出会えば、大人しく諦めるよ。それは相当運が悪いし、気にするだけ時間の無駄。僕が守らなくても生活できるって言いたいの」


 四季は納得していなかったけど、料理が運ばれてきたので食事にする。

 四季は健啖家だ。僕はラーメン一杯だけなのに、彼女は大盛りのラーメンに加えて、チャーハンとか餃子とかもバクバク食べている。デザートに杏仁豆腐まで注文した。

 小さな体のどこに入っているんだか。


「おいしい」

「それはよかったけど、お金が」

「食い逃げする?」

「しないよ。まだ足りる」


 今日は足りる。将来的にどうなるかは不明だ。

 お金、大丈夫かな? いずれ、本気で食い逃げする羽目になりそうで怖い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ