四話 変死事件
本日二話目です。一話目を未読の方はそちらからどうぞ。
なお、明日以降は朝のみの投稿となります。
四季と同居することになったので、彼女の生活に必要な物を買いに行く。
なんといっても、服と下着が必要だ。
ショッピングモールに行き、適当な店に入って見繕う。下着を買う時はさすがに付き添えないから、四季一人で買ってもらった。
友人の女性に頼る手も考えたけど、学校を休ませるのは申し訳ない。
四季だって子供じゃないし、買い物は一人でできる。
特に問題は起きず、服と下着を買ってくれた。思った以上に高くて、僕の懐が痛んだのはちょっと問題かな。
女性用の下着ってこんなにも高いんだね。初めて知った。
「私のブラジャー、見る? 速峰春真を悩殺できるセクシーなブラ」
「見ない。というか、着ける必要あるの?」
「失礼。私もちゃんと膨らんでる」
「そうなんだ」
「膨らみかけがベスト。贅肉の塊は邪道。悪魔。悪魔は死すべし」
僕の友人に、胸の大きな女性がいるんだけどな。
四季に教えると機嫌を損ねそうだしやめておく。
エッチな会話はほどほどにしておくとして、買い物は大体終わった。
歯ブラシやタオルも買ったし、食器も買った。他に必要な物はあったかな。
「そうだ、ベッド。僕が使ってるやつしかないよ」
「ソファー」
「四季はソファーで寝るの? 一晩程度ならともかく、毎日は辛くない?」
「速峰春真が」
「図々しいね。昨晩はベッドを貸したけど、あれは特別だよ。気を失ってる女の子をソファーで寝させるわけにはいかなかったから」
今晩からは、ベッドは僕が使わせてもらう。
同衾するのもダメだし、四季用のベッドを購入しよう。
四季はここでも図々しくて、キングサイズの大きなベッドを選ぼうとした。僕のベッドよりもいいやつだ。
贅沢は許さない。同居するなら、ある程度節約しなきゃ。
シングルベッドを購入して、家まで届けてもらうことにした。
「これでよしと。四季は、他に欲しい物ある? 贅沢品は却下ね」
「避妊具?」
「いりません。使わずにするって意味じゃなくて、そもそも使う行為をしないって意味だからね」
四季は下ネタが好きなようだ。いや、僕をからかうのが好きなのかな。
出会ったばかりなのに、悪い遊び方を覚えてしまった。頭が痛い。
こんな感じで買い物を済ませた。いくつもの店を回ったし、四季は服選びに時間をかけていたから、とっくに正午を過ぎている。
どこかで昼食を食べて帰ろうってなった。
「四季は何を食べたい?」
「満漢全席」
「中華でいいんだね。ラーメンと餃子あたりかな」
四季がふざけた物言いをするのにも慣れてきた。
中華料理屋に行くために歩いていた時だ。
ショッピングモールの一画に人が集まっているのを見かけた。
野次馬根性を発揮した僕は、そこに近付いてみる。
「何かあったんですか?」
「変死事件だよ」
近くにいる人に尋ねれば、簡潔に答えてくれた。
最近よく起きている変死事件だ。
人々が注目する先を覗けば、若い女性が眠るように倒れていた。
昨晩の四季を思い起こさせる姿だけど、気を失っていただけの四季とは違い、彼女は死んでいるみたいだ。
見た感じ傷はないし、服も着ている。綺麗なものだ。
四季のように気を失っているだけだって聞けば信じる。今にも目を開けそうな様子だ。
噂に聞く変死体そのものだね。実際に見るのは初めてになる。
見ていて気分のいいものじゃないし、行こう。
「四季、ここを離れようか」
「警察は?」
「ケイサツ? って何?」
まただ。四季は僕の知らない言葉を口にする。
アイスに賞味期限がないのと同じで、雑学の類かな。
無知な僕に、四季が教えてくれる。
「事件を捜査する人。公僕」
「事件の捜査は、やりたい人がやるでしょ。変死体も誰かが片付けてるしね」
「疑問に思わない?」
「何が? ごくごく普通のことだと思うよ」
「殺人事件が起きている。犯人を捕まえないと安心して暮らせない。治安を守り、人々を守るのが警察の仕事。素人は出しゃばらない」
「そんな仕事は聞いたことないなあ」
殺人犯を野放しにしておくのが不安だって気持ちは理解できる。僕や四季だって被害にあうかもしれないんだ。
でも、犯人を捕まえる仕事は知らない。
自分の身は自分で守る。これが常識だ。
仮に僕が殺されても、その時はその時だ。死にたいわけじゃないけど、しょうがないと思って諦める。
四季が殺されてもしょうがない。友人が殺されてもしょうがない。
もちろん、僕の力で助けられるなら助けようとする。昨晩四季を助けたのもそうだけど、見捨てるのは後味が悪い。
裏を返せば、僕の力が及ばないなら諦める。しょうがない。
何人も殺していていまだに捕まっていないなら、犯人は頭が切れるし力もある。
僕の力で太刀打ちできる相手じゃない。出会えば不運だ。僕にはどうすることもできないし、お手上げとしか言えない。
四季は、大きくため息をついていた。呆れている様子だ。
「警察がいない。救急車もないって言ってた。医者は?」
「イシャ?」
「分かった。医者もいない」
「イシャもケイサツみたいな職業なの?」
「怪我や病気を治療する人。大怪我をしたり病気になったりしたらどうする?」
「自分で治す」
自分の身は自分で守るのと同じだ。怪我をすれば自分で手当てするし、病気になれば市販薬を飲んで大人しく寝ている。
治ればいい。治らなかったら諦める。
「医者も警察もいない。無茶苦茶」
「四季の言っている意味が、僕には理解できないよ。イシャとかケイサツとか、どこで得た知識なの?」
「常識」
「常識じゃないって。他の人に聞いても、僕と同じ答えを返すよ。行き倒れが原因で頭が混乱してる?」
「私は正常。速峰春真が異常」
言って、四季は一人で歩き出す。
僕も後を追いかける。どこに行くのかと思えば、中華料理屋に入った。
変死体を見かけても食べるんだね。神経が図太い。
まあ、僕もお腹が空いているし、食べるけど。
繁忙時間帯を過ぎているおかげで、店内には客が少ない。
二人でテーブル席に座り、注文する。
料理を待つ間は、四季が変な話をし出す。いつもの下ネタだ。
「ロリコンの速峰春真が、私を襲うとする」
「ロリコンじゃないし襲わない」
僕もいつも通りロリコンを否定するけど、四季は言葉を止めない。
「仮定の話。速峰春真が私を襲い、私は抵抗空しく犯される。性犯罪者を捕まえてくれる警察がいないと私が困る。速峰春真は調子に乗って私を襲い続ける」
「長続きしないと思うけどね。いつか四季に殺されるよ。殺されないとしても、二度と女性を襲えない体にされちゃうとかさ」
「私が速峰春真を殺してもいいの?」
「僕の自業自得でしょ。殺されたくないなら、四季を襲わなければいい」
因果応報ってやつだ。僕が悪いことをしたなら、相応の報いを受ける。
ケイサツなんてわけの分からない連中に殺されるよりも、被害者である四季の手で殺される方が自然だ。
最近起きている変死事件だって、犯人が見つかれば誰かに殺されるね。
「私の報復が怖いなら、犯してから殺せばいい。速峰春真は捕まらない」
「うまくいけばそうなるね」
「警察がいれば、事件を捜査して犯人を捕まえてくれる」
「ケイサツがいなくても襲うのは躊躇するよ。うまくいくとは限らない。失敗したら四季に殺される」
「たとえば、このお店で食い逃げしたら?」
「さあ? 試したことないから分からないけど、捕まってボコボコにされた挙句、お金を奪われるとか? 二度とお店を利用できなくなるだろうし、僕が困るね」
うまく逃げ切ったとしても、顔は覚えられてしまう。
すると、次にこの辺りを訪れた時に捕まる。
二度と近寄らないって手もなくはないけど、店を利用できないのは不便だ。
この中華料理屋に限った話じゃない。店同士、横のつながりがあるだろうから、僕の悪事は周辺の店にも伝わる。全ての店で出入り禁止処置を取られてしまう。
冷凍食品も買えなくなるのに、どうしろっていうのさ。リスクとリターンが釣り合わない。
「速峰春真の理屈だと、殺されたり報復を受けたりする心配がなければ、なんでもやっていいことになる?」
「いいとは言わないけど、やろうと思えばできるね」
僕に強い力があるとしよう。四季を襲い、彼女が僕に報復しようとしてもねじ伏せられる力だ。
食い逃げをしても、追いかけてきた店の人を殺せる。買い物だって、出入り禁止にするなら殺してしまえばいい。
僕に逆らう奴らは全員殺す。僕を否定する奴らは全員殺す。敵は皆殺しだ。
これなら好き勝手できるけど、そこまでの力を持つのはあり得ないから、仮定する意味がないね。
「第一、ケイサツがいても一緒じゃないの? ケイサツに抵抗できる力があれば恐れなくていい。ケイサツを無視して好き勝手できる」
「そうだけど……」
「四季が何を心配してるのか、僕は知らない。でも、心配はいらないよ」
「速峰春真が守ってくれる?」
「守らないね。僕は腕っぷしが弱いから、守りたくても守れない。そもそも、守ろうって気もない。もしも変死事件の犯人と出会えば、大人しく諦めるよ。それは相当運が悪いし、気にするだけ時間の無駄。僕が守らなくても生活できるって言いたいの」
四季は納得していなかったけど、料理が運ばれてきたので食事にする。
四季は健啖家だ。僕はラーメン一杯だけなのに、彼女は大盛りのラーメンに加えて、チャーハンとか餃子とかもバクバク食べている。デザートに杏仁豆腐まで注文した。
小さな体のどこに入っているんだか。
「おいしい」
「それはよかったけど、お金が」
「食い逃げする?」
「しないよ。まだ足りる」
今日は足りる。将来的にどうなるかは不明だ。
お金、大丈夫かな? いずれ、本気で食い逃げする羽目になりそうで怖い。




