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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第2章 後退、復活、再度前進
27/92

二十七話 恋?

 朝からおかしなことが連続していたけど、授業そのものは平常通りだった。

 休憩時間になるたびに、葉月(はづき)さんが話しかけてきたのは少し驚いたかな。

 美人と話ができるのは嬉しい。近くで姿を見ているだけで目の保養だ。


 会話の内容は変だったけどね。僕の体調を心配したり、右腕が痛まないか聞いてきたり、なんでそんなことを気にするのか分からない内容ばかりだ。

 元気だし右腕だって何もない。怪我もしていないし問題なく動く。実はちぎれていますとかあり得ない。


長月(ながつき)はさすがね」

「ナガツキって?」

「なんでもないわ。速峰(はやみね)が元気ならいいの」


 葉月さんと変な会話をしつつ授業を受けて、学校が終わる。

 一つ予想外だったのは、今日が土曜日だったことだ。

 金曜日だと思っていたのに、いつの間に土曜日になったの?

 つまらない授業が半日で終わってくれるのは嬉しいし、素直に帰宅する。

 遊びに行ってもよかったけど、記憶が曖昧だし、帰って休む方がいい。


 大量にある食材を使い切らないともったいないから、昼食は自分で作った。

 結果は……うん、努力は認めて欲しいな。努力は大切だ。

 努力が結実するとは限らなくても、努力することは悪くない。僕は頑張った。


 綺麗事で誤魔化したところで、夜も自分で作る。

 朝と昼に続き、三度目の正直だ。

 努力はしたよ。頑張ったよ。だからいいよね?

 有体に言ってしまうとまずかったけど、とんでもない大失敗はしなかった。下手くそだけど最低限食べられる物はできた。

 朝のもやし燃やし事件だけは例外として。


 料理したことってあったっけ? ない気がするんだよなあ。

 初めて作るのに、下手なりになんとかなるってどういうこと? 僕って、実は隠された料理の才能があるとか?


 酷くどうでもいいことを考えながら夕飯を食べ、自室でのんびりしていた時だ。

 急にインターホンが鳴った。

 こんな時間に誰? もう夜の九時だよ?

 無視するわけにもいかないし、しょうがないから玄関に向かうと、そこには予想だにしない人の姿があった。


「葉月……さん?」


 クラスメイトの美女、葉月(よう)さんだ。


「こんばんは。今、大丈夫?」

「大丈夫だけど、こんな時間に訪ねてくるなんて何があったの?」


 どんな用件か知らないけど、来週学校で会った時じゃダメだったのかな?


「速峰は、明日暇?」

「明日、日曜日? 予定はないよ」


 休日の朝は、二度寝でも三度寝でもできる。好きなだけ寝てから起きればいい。


「……二度寝は神?」

「どうして疑問形なの?」

「ああ、ごめん。とにかく、ぐっすりと寝てから適当に出かけようかなって」


 予定と言えるほどの予定じゃない。

 休日に友達と遊ぶことも……なかったっけ?

 一日が経過しても記憶があやふやだな。もやがかかっている感じがする。


「予定がないなら、私とデートしてくれない?」

「デート? 葉月さんと?」

「ええ。ダメ?」

「ダメというか……」


 なんで僕を誘うの? 他にいくらでも相手がいそうなのに。

 葉月さんは美人だ。デートするお相手として僕は適さない。


「難しく考えないで、私と一緒に遊びに行こうってだけよ」

「誘ってもらえるのは光栄だしデートするのも歓迎だけど、僕のエスコートは期待しないで。葉月さんを楽しませられるかどうか」

「難しく考えないでいいって言ったでしょ。デートするので決まりね。時間は」


 ざっくりと明日の予定を決める。

 午後に葉月さんが迎えにきてくれることになった。朝は僕が二度寝したいだろうからって。

 どこかの店で昼食を食べてから、その辺をぶらつく。暗くなる前に解散だ。


「夜も期待していた?」

「ちょっとだけ。いざ誘われたら、僕はヘタレて逃げそうだけどね」


 からかうように質問してきた葉月さんには、正直に答えておいた。

 明日の予定も決まったので、葉月さんは帰って行く。


弥生(やよい)に嫉妬で刺されそうだわ」


 帰り際、何かを言っていた。

 こうして、ひょんなことからデートをする流れになり、日曜日を迎える。

 デートは初めての経験だし、妙に緊張して朝は早く目覚めた。二度寝する気分でもなく、適当に時間を潰す。


 朝食を作るのは諦めた。僕は料理に向いていない。

 隠された才能とか錯覚だよ。現実は非常なのだ。

 冷凍食品万歳、インスタント食品万歳だ。

 三日坊主どころか、一日しかもたなかったね。

 余った食材はどうしようか。葉月さんにでもあげようかな。

 こんな物をもらっても困るかもだけど、断られたら捨てよう。


 そんなことを考えつつ、ぼけっとしているのも暇なので、掃除をする。

 一人暮らしにしては広い家だから、掃除は面倒なんだ。使わない部屋も多い。

 使わなくても、たまには掃除しておかなきゃ埃がたまる。

 各部屋に掃除機をかけて回るけど、何かおかしいな。

 変わった物があるんじゃなく、何もないからおかしいんだ。


 引っ越し業者が荷物を全て運び出したようにがらんとしている。家具も何もないし、埃が積もってもいない。

 僕は無精して掃除をサボりがちだから、こんなにも綺麗なのはおかしい。使わない荷物を適当に放り込んでおいた覚えがある。最近は掃除もしていない。


 それとも、記憶が曖昧だから忘れているだけ?

 だとしても、一つの部屋だけじゃなく、三つもこんな感じだったんだよね。

 誰かが住んでいて、痕跡を丸ごと消した。

 ホラーのような想像をしてしまう。なんか怖い。

 怖いから努めて考えないようにして、掃除を済ませた。

 正午を回り、お腹が空いたなって思っていると、葉月さんが迎えにきてくれる。


「こんにちは、葉月さん。今日も綺麗だね」

「口がうまいわね」

「お世辞じゃないよ。本気で綺麗だと思ってる」


 葉月さんは、特に露出の多い格好はしていない。

 黒を基調にしたブラウスとスカートで、大人っぽい服装だ。

 葉月さんの外見は大人びているからよく似合う。


「今日は誘ってくれてありがとう。葉月さんとデートできて光栄だよ」

「意外とプレイボーイ? 聞いていた話と違うわね」

「聞いていた? 誰から?」

「友達よ。鈍感で朴念仁だって話だったわ」

「酷いけど否定できない」

「じゃあ行きましょうか」


 二人で並んで歩く。

 すると、葉月さんが腕を絡めてきた。大きな胸が当たっている。

 恥ずかしい気持ちはあるけど、嬉しい気持ちの方が大きいので振り解かない。役得だと思っておく。


「よくも私の春真(はるま)さんに……」

「おい、紺屋(こうや)。前に出過ぎだ。見つかる」

「お二人とも呪います。恨みます。春真さんは、私にはあんなセリフを言ってくれたことがありませんのに」

「うん?」


 背後から変な声が聞こえたので振り向いてみたけど、誰もいない。

 気のせいかな。もしくは、誰かが葉月さんに見惚れていたのかもしれない。


「後ろを見てないで歩きましょう」

「そうだね。ごめん」

「尾行……もとい、周囲の目は気にしないで」

「葉月さんだけを見ろってこと?」

「それでいいわよ。今日はデートだものね」


 せっかくデートするんだし、楽しい一日にしたい。

 まずは適当なお店に入り、昼食にする。葉月さんのリクエストで中華にした。

 なんか……この中華料理屋には、頻繁にきているような……


「挙動不審になってるけど、どうかしたの?」

「妙な既視感があるというかなんというか」

「やっぱり、完全に消すのは無理ね。ほころびが見えるわ」

「ほころび?」

「さて、注文しましょうか。何を食べる?」


 誤魔化すように葉月さんが言い、各々注文する。

 僕は、男子にしては食が細い方だけど、葉月さんも食べる量は少なかった。

 食べ過ぎないのが抜群のスタイルを維持する秘訣かな。

 ……は、僕の二倍は食べていたの……に?

 二倍も食べる? 誰が?

 あの人は、確か……


「四……」

「速峰!」

「あ……な、何?」


 葉月さんが大声で僕を呼んだ。慌てている様子だった。

 声をかけたのはいいけど、言いたいことはないようで言葉を詰まらせている。

 そこで、怪しい声が聞こえる。


「でゅふふふふ。ウェイトレスの中華服は最高でござるな。スリットがエロくてたまらないでござる。水無月(みなづき)たんにも着せて、ボキにご奉仕とか……でゅふふふふ」


 物凄く目立つ男性がいた。

 人様の外見を悪く言うのはあれだけど、デブでニキビ面の男性だ。たいして暑くもない店内なのに、汗だくになっている。

 アニメ顔の美少女がプリントされたシャツを着て、でゅふでゅふと気持ちの悪い笑い声を出しているせいで、お客さんはドン引きしている。

 ちなみに、僕も割とドン引きだ。


「凄い人だね」

「え、ええ、凄いわね……文月(ふみつき)、ナイス。でもキモい」


 葉月さんもドン引きで、半笑いの表情になっている。

 変な人を見かけちゃったけど、料理はおいしくいただいた。会計を済ませて店から出る。


「割り勘でよかったの?」

「いいのよ。高校生のデートだし、無理にどっちかが奢る必要はないでしょ」


 最初は僕が支払おうとしたのに、葉月さんは割り勘にすると言い出した。

 甲斐性なしかとは思ったけど、お言葉に甘えて割り勘にさせてもらった。


「こ、高校生? ババアの分際で高校生を名乗るとは、笑止千万でござる。女子(おなご)はティーンになる前までが旬でござるよ。水無月たん……でゅふふふふ」

「あいつは、あとでコロス」


 例のデブな男性が笑っていて、葉月さんも不機嫌だった。

 美人は不機嫌な顔でも美人だ。割り勘にしてくれるように謙虚な人でもあるし、僕の中で葉月さんへの好感度がグングン上昇している。


 食事の次はゲームセンターに入った。

 僕を気遣ってくれたみたいだ。服なんかを見て回るよりは、ゲーセンの方がいいだろうって。

 葉月さんへの好感度がますます上昇する。ほぼ最大値だ。


「信じられません。春真さんは、恋する少年のような顔をしています。私にはあのような顔を見せてくれたことがありません」

「おい、紺屋。落ち着け。姿と殺気を隠せ」

「落ち着けるわきゃねえですわよ。呪ってやりますです。末代まで呪いまくりのくりっくりです」

「口調が変だし意味が分からん。水無月、卯月(うづき)、頼むから助けてくれ。俺一人じゃ抑え切れん」


 また変な声が聞こえる。ゲーセンには人も多いし、誰かが揉めているのかな。

 そっちは無視して、葉月さんと対戦ゲームを楽しむ。

 どっちもさほどうまくないから、低いレベルでいい勝負が繰り広げられた。

 いくつものゲームをプレイして、戦績は僕の方が若干上だった。

 花を持たせてくれたのかな。葉月さん、素敵だ。


「落ちてます! あれ、完全完璧に落ちてます! 私でも四季さんでも如月(きさらぎ)さんでもなく、ポッと出の葉月さんが春真さんのハートを射止めるとはっ!」

師走(しわす)、文月。紺屋を連れて撤退だ。これ以上はマジでバレる」

「とんだ伏兵です! はしたないですっ!」


 周囲の雑音も気にならない。葉月さんの顔ばかりを見ていた。

 これが……恋?

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