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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
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二十四話 親友同士の殺し合い

「おっす、春真(はるま)。久しぶりだな。紺屋(こうや)も久しぶり」


 如月(きさらぎ)は、まるで朝の挨拶のように飄々と発言した。

 外見はいなくなる前と変わったところはない。僕の知る如月のままだ。

 ただ、なんて言えばいいんだろう。

 得も言われぬ風格みたいなものを纏っている。強者の風格なのかな。昔とは違うんだって分かってしまう。


 僕は如月を探していたし、こうして会えたのは喜ばしいことのはずだ。

 事実、無事な姿を目にできて、喜んではいる。

 今みたいにパニックになっている状況じゃなきゃ、もっとよかったね。感動の再会になった。


「状況が状況だけに、素直には喜べないけど……如月が無事でよかったよ。師走(しわす)から少し話は聞いてたけど、直接会えると無事だったって実感できる」

「春真は相変わらずだな。よく言えば優しい、悪く言えば甘ったれている」

「僕、如月に『優しい』とか『甘ったれている』とか言われたことあったっけ?」

「なかったか? まあいいや」

「うん、こんな話はどうでもいいね」


 話したいことはいくらでもある。昔みたいに他愛もない雑談をしたり、一緒に遊びに行ったりしたい。

 それを実現するためには、必要なことがある。


「今の如月は、十二月(じゅうにつき)の仲間になってるんだよね? 戻ってきてよ。僕たちと一緒に暮らして一緒に遊んで、学校でつまらない授業を受けてさ。昔みたいに過ごそうよ」

「できない相談だな」

「十二月に覚醒しちゃったから? だからなんなのさ。人間でも怪物でも、如月は如月だ。僕の親友だ。僕も手伝うから人間に戻る方法を探そう」


 四季(しき)は如月を殺すつもりだけど、僕がさせない。

 力で言うことを聞かせるのは無理だ。力がないなら、どんな手を使ってでも四季を説得する。

 僕に続き、紺屋さんも如月を引き戻そうとする。


「私も如月さんに戻ってきてもらいたいです。大切な友人ですからね」

「春真がいればいいんじゃないのか?」

「意地悪な質問をしないでください。春真さんと如月さん、片方しか選べないなら春真さんを選びます。だからといって、如月さんがどうなってもいいとは思いませんよ。私は贅沢な人間です。お二人とも欲しいんです」

「もう一度言うよ。お願い、戻ってきて」


 僕と紺屋さんが二人がかりで説得しても、如月は首を縦に振らない。


「悪いができないんだよ。理由は色々あってな。そもそも、今の俺は学校を襲うテロリストだぞ」

「てろりすと?」


 如月が口にした単語の意味が理解できない。

 紺屋さんも理解できていないみたいだ。

 意味不明な単語を口にするのは四季の専売特許かと思ったのに、如月まで同じになっている。

 覚醒したせいで新しい知識を得た?


「テロリストが通じないのか。俺も覚えたてだしな。要するに今の状況だ。無関係の人々を巻き込み、破壊や虐殺を行う犯罪者。悪い奴」

「悪いことだって自覚があるならやめようよ。水無月(みなづき)もね。この前、中華料理屋で会った時は、いい子だなって感じた。師走も比較的話が通じるし、卯月(うづき)は変人だけど水無月を大切にしてるみたいだったよね」


 僕がこれまで出会った十二月は、如月を除くなら三人だ。

 師走、水無月、卯月。三人とも根っからの悪人じゃなさそうだった。

 卯月は、水無月に変な格好をさせるのがあれだけどね。

 今だって、水無月はなぜか水着姿だ。真っ白なスクール水着。

 真面目な話をする場には不釣り合いになっている。


「卯月はボクに優しいよ。この水着もプレゼントしてくれた。可愛い?」

「可愛いけど、恥ずかしくないの?」

文月(ふみつき)に言われた格好よりもマシ。水着の一部を破くのがロマンって言っていた。こことかこことか」


 水無月が指差したのは……アレでナニな場所だった。

 聞いているこっちが恥ずかしくなる。


「変態だね」

「変態。ハサミを持ち出して破こうとして、卯月にぶっ飛ばされていた」

「本気で変態だね。如月も止めなよ。序列は上なんでしょ?」

「文月を止めてこれになったんだ。俺を責められても困る」

「それはごめん」


 バカげているとしか思えないけど、楽しそうとも言える。

 十二月は残虐非道な怪物集団じゃない。僕や如月、紺屋さんがやっていたことと同じなんだ。


「文月はよく分からないけど、聞いた話だと睦月(むつき)はまともなんでしょ? 葉月(はづき)もいい人なんでしょ?」

「睦月の性格は俺もよく知らんが、葉月さんには世話になったな。文月も変態趣味を持つだけで悪い奴じゃねえよ。愉快な奴だぞ」

「如月も含めれば、過半数が話の通じる人だ。争う必要もないと思う」


 まともな人が一人や二人いても、数の暴力で負けてしまう。

 異常者ばかりの状況だと、異常が正常になり正常が異常になる。

 一人や二人じゃない。七人もいる。弥生(やよい)神無月(かんなづき)は未覚醒だし、十人中七人がまともだ。

 明確に悪い奴って言えるのは、変死事件の犯人である霜月(しもつき)だけになる。

 皐月(さつき)長月(ながつき)の詳細は知らないけど、この二人が霜月側だとしても、七人もいればたいした脅威じゃない。


「僕は、四季の目的を知らないし、十二月の目的も知らない。秩序と破壊とは聞いたけど詳しくないんだ。これだけなら、お互いに相容れられない目的に聞こえる。だからって戦わなくてもいいじゃない。話し合いで妥協点を探るとか」

「できないんだよ。ただまあ、俺も春真は殺したくない。てことで、妥協点って話なら提案がある。春真と紺屋が俺たち側につけばどうだ?」

「僕が十二月に?」


 未覚醒の弥生である紺屋さんだけじゃなく、僕まで?


「十二月になれって意味じゃない。つうかなれない。紺屋は弥生に覚醒するかもしれんが、春真は違うんだ。俺はそう聞いてる」

「俺は? 曖昧な言い方だね。僕に何かあるみたいにも聞こえる」

「意外とあるかもしれないぞ。別にないならないでいい。俺たちの仲間になれよ」

「仲間になったらどうなるの?」

「さあな。俺は、序列こそ二位になってるが新参者だ。知らない情報はごまんとある。睦月辺りが決めるんじゃねえの? ま、悪いようにはしない」

「四季は?」

「四季ちゃんは無理だろ。どんな言葉も届かない。俺たちを殺すのが使命みたいなもんだ。もうじきやられると思うぞ」


 如月に言われて、戦っている四季の様子を見る。


「四季!?」


 大ピンチになっていたせいで、思わず大声が出た。

 師走と霜月を相手にしていたはずなのに、今は大量の怪物に囲まれている。

 でかい顔の怪物もいるし、他の怪物もいる。

 一人で何十という数を相手にすると、いくら四季でも勝てない。


「霜月が用意したんだ。学校内で変化したやつじゃなく、外から連れ込んだ」

「まさか、最近多かった欠席者?」

「だな。ぶっちゃけ、俺は胸糞悪いと思うぞ。あの中にはクラスメイトもいる」


 遠目からじゃうまく判別できないけど、おそらく本当にいる。美央(みお)さんたちだ。

 クラスメイトが醜い怪物になったと知り、紺屋さんはショックを受けている。

 僕もショックだ。クラスメイトを含んだ学校の生徒たちがああなってしまったことも、如月が加担したこともだ。


「師走も気が進まない様子だったが、胸糞悪かろうが気が進まなかろうが協力してる時点で共犯だな。春真は、こんな俺をどうする?」


 答えられない。

 腹も立っているけど、悔しいって気持ちが強い。

 僕自身の無力さがだ。

 僕たちに構わず如月は話す。


「俺たちの狙いは二人。四季ちゃんを殺し、弥生候補の紺屋を連れて行くことだ。一応、他の生徒は狙わない手はずになってるが、巻き込まれて死ぬかもな。そこまでは責任持てねえよ」

「……なんでこんな回りくどい真似を? 四季を殺したいなら、生徒を怪物にする必要はない。十二月が数人出張ってくれば済む話だよね」


 結界で閉じ込めているのは、四季や紺屋さんを逃がさないためと考えられる。

 生きている生徒たちを人質にしているわけだ。

 でも、最善の方法とは言えない。

 結界で閉じ込める必要はない。生徒を怪物にする必要もないし、学校中を巻き込んでパニックを引き起こす必要もない。

 四季よりも強い十二月が襲ってくればいいんだ。


「俺も知らねえよ。作戦を立案したのは霜月だ。こっちは分かりやすくて、単に弱い奴をいたぶりたいだけだな。意外なのは、睦月が許可を出したことなんだ。乗り気だったかっていうとそうでもなかったが、とにかく霜月のゲスい作戦に許可を出した。睦月が認めなけりゃ実行に移せない。認めたからこうなってる」

「よく知らないのに、如月は参加してるの?」

「リーダーである睦月が認めた。この方法がふさわしいと判断した。多分、全てを知っているのは睦月だけだ。俺たちは手駒として言われた通り動く。胸糞悪いと思いつつ、強固に反対しなかった俺は、どっかおかしくなってるんだろうな」


 自分のことなのに、如月は他人事のように語る。

 外見は変わっていなくても、心が変わっている。怪物になっている。

 そう言いたいようだ。


「俺と違って、葉月さんは反対してたな。あの人、優しいんだよ。無駄な犠牲を出すのが嫌なんだ。春真が言った通り、回りくどい真似をする必要はないって主張した。十二月のメンバーを三、四人連れてけば事足りるって」

「反対している葉月は言われた通りに動かない。ボクたちの邪魔をしかねないし、今回の作戦からも外された」


 如月の言葉を水無月が補足した。

 話の分かる葉月がいてくれればいいと思ったけど、いないのか。


「葉月さんがいて欲しいって考えたか? あいにくいないんだよ。学校にきてるのは四人だ。四季ちゃんと戦ってる霜月と師走に、ここにいる俺と水無月。あっちはじきに勝負が着く。んで、春真は? 最後通牒だ。俺たちの仲間になるか……ここで俺に殺されるか」

「どっちもごめんだよ。もちろん、四季は殺させないし、紺屋さんも渡さない」

「じゃあ、俺とやるか? その金属バットで戦うか?」

「戦う」


 如月とまともに喧嘩したことはない。

 もし、以前の如月と殴り合いの喧嘩をしたらって考えれば、僕が負けるね。

 人間だった頃でもそうなんだ。覚醒した如月に僕が勝てる可能性は、万に一つもない。

 絶望という言葉ですら足りない戦いだ。


「俺と春真の仲だ。俺の手で殺してやる。他の奴には渡さん」

「如月をぶん殴って、目を覚まさせる!」

「威勢がいいな。だが、いつまで続く?」


 僕と親友の殺し合いが始まる。

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