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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
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二十二話 敵とは思えないけど

 日曜日は家の中で過ごすことにした。

 外に出て、十二月(じゅうにつき)に見つかってしまうのを避けるためだ。

 昨日、四季(しき)師走(しわす)と戦って怪我をしたせいで、本調子じゃない。

 今の状態で戦うのは不利と判断し、家で休む。

 休むのはいいとして、問題が一つあった。


「お腹空いた……」

「四季が昨日食べ尽くしたせいでしょ」


 お米は一粒たりとも残っていないし、冷凍食品やインスタント食品もほぼ全滅した。わずかに残った分も、朝食で食べ切った。肉や野菜などの食材もない。

 そのせいで、もうすぐお昼なのに、何もなくて困っている。

 水道は使えるから水だけは飲めるけど、食べ物が一切ない。

 買い物に行かなきゃダメだ。


「出前。お寿司」

「僕の家に、お寿司屋さんのメニューとかはないんだよ。電話番号を知らないし注文できない。電話帳もないしね」


 僕は、冷凍食品万歳、インスタント食品万歳ってタイプだ。

 高いお金を支払ってまで、お寿司やピザを注文しない。

 直接お店に行けば買えるけど、どうせ外出するならスーパーに行くよ。買い溜めしておかないとまずい。


速峰(はやみね)春真(はるま)は使えない。如月(きさらぎ)のお寿司。神よ」


 四季の中で、如月とお寿司がイコールで結ばれている。

 そのうち、如月と書いてお寿司と読むようになるんじゃないかな。


「外に出る? 四季の怪我が大丈夫なら、三人で買い物に行きたいけど」

「お肉」

「肉が食べたいの? だったら買いに行かなきゃ」

「私のためを想うなら、速峰春真のお肉を」

「怖いよ!」

「待って。速峰春真は食いでがなさそう。紺屋(こうや)(よい)は、無駄な脂肪の塊をぶら下げているし、私が食べても許される」

「冗談だよね?」

「一応冗談だけど、私は餓死したくない。危険でも買い物に行く」


 一応ってついているのが不穏だ。

 飢えに耐え切れなくなった四季は、外に出る道を選ぶ。

 僕だってひもじいのは嫌だし、買い物に行くのは賛成だ。

 紺屋さんも誘い、三人で出かける。

 外を歩いている時、空腹の四季が紺屋さんを見て、じゅるってよだれをすすったのはドン引きだ。


「私は、十二月に保護してもらう方が安全のような気がします」

「紺屋さんが食べられないうちに、どこかで外食しようか。買い物は満腹になってからにしよう」

「大丈夫ですか? 四季さんの空腹を満たす量を飲食店で食べた場合、値段が恐ろしいことになりそうです」

「二人前までにしといてもらおうかな。四季は何が食べたい?」

「中華料理」


 ご要望通り、中華料理店に向かう。

 昨日も行ったし、あの時は店員が出てこなかった。死人になっていたのかもしれないけど、今はどうなっているんだろう?


「お店の人は無事なの? 死人になっていたら、まともな食事が出てくる?」

「行ってから確かめる。変な物なら食べずに逃げればいい。ちょっとくらいなら変でも食べる」


 空腹に負けた四季は、早足で中華料理屋に向かって歩いている。

 昨日は十二月がいたり怪物がいたりして物騒だったショッピングモールだけど、今日は平和なものだ。

 この中の何人が死んでいるのかは知らない。

 聞くと怖いので聞かないでおく。お願いだから平和だと思わせて。


 目当ての中華料理屋に入ると、昼時ということもあってお客さんが多かった。

 みんな普通に食事をしている。ガヤガヤと喧騒に包まれているし、おかしな点はなさそうだ。

 僕たちも、店員に案内してもらい席に着く。

 ここら辺も普通だ。お冷を出されるけど変哲のない水だし、おしぼりは清潔だ。

 心配し過ぎたかな。すっかり日常の風景に戻っている。


 三人で注文をして、料理を待っていると、店員さんがやってきた。

 料理を運んできたわけじゃなく、相席してもいいか聞きにきたようだ。

 僕たちは三人で六人掛けの席を使用している。たまたまここが空いていたからだけど、混雑しているし相席を求められたんだ。

 構わないと答えれば、二人組の女性が現れたけど。


「み、水無月(みなづき)!?」

「どうも。昨日ぶり」


 十二月の一人である水無月だった。

 特徴的な黒髪は隠している。犬の着ぐるみっぽい物を着ていて、フードも被っているから隠れているんだ。

 少し見えているけど、注意しなければ気付きにくい。


「ボクたちは食事をしにきただけ。争う気はない」

「水無月ちゃんの知り合い? 昨日ってことは師走と戦った四季って子?」

「四季と弥生(やよい)と速峰春真」

「弥生はどうでもいいけど四季ちゃんはちっちゃくてプリティ! ちょっと育ち過ぎの気もするけど全然守備範囲内! わたしは卯月(うづき)ねよろしく!」


 水無月と一緒にいる女性は卯月と名乗った。こちらも十二月の一人だ。

 かなり怪しい風体をしている。


 身長はさほど高くない。僕と同程度だろう。

 髪の毛は染めているのか白髪だけど、やけに長い。オシャレのために伸ばしているというよりは、ずぼらで切らないだけに見える。

 前髪は鼻の辺りまで伸びて目元が隠れているし、背中に流した後ろ髪はところどころ跳ねている。

 顔がよく見えないせいで、年齢も判別しにくい。僕と同年代っぽくはあるけど。

 服装は、よれよれのシャツにジーンズだ。これもオシャレさは皆無だね。


 水無月と卯月は席に座り、気まずい空気が流れる。

 位置関係は、四季を中心にして両側に紺屋さんと卯月が座る。向かいの席では、僕と水無月が隣同士だ。

 気まずく感じているのは僕たちだけのようで、四季の隣に座る卯月は大興奮だ。鼻息を荒くしている。


「可愛いめちゃ可愛い食べちゃいたい水無月ちゃんと一緒にベッドの上でペロペロハスハスクンカクンカ」

「うざい」

「冷たい態度も素敵」


 卯月は早口だ。よく舌を噛まないと思うスピードで話す。

 水無月に体操着を着せた人物だったはずだけど、なんか納得した。

 まごうことなき変態だ。

 紺屋さんには興味を示さず、四季に夢中になっているし、幼い外見の少女が好きなんだろう。水無月もロリだしね。


「ねえ、水無月。卯月はいつもこんな感じなの?」

「いつもこんな感じ。睦月(むつき)がいなかったら、今頃ボクは……」

「苦労してるんだね」

「わたしは文月(ふみつき)よりまともよ」

「どっちもどっち。ボクに色んな格好をさせようとするのは、文月も卯月も一緒」

「わたしは可愛い格好をさせて文月はスケベな格好をさせる違いがある」

「文月は眺めるだけで指一本触れない。卯月は、隙あらば取って食べようとする」

「わたしは自分がブスで可愛い服が似合わないのを知ってるから水無月ちゃんに着てもらいたいだけでついでに食べちゃおうとしてるけどギリギリ自制心は保ってるつもりなんだよ」

「……苦労してるんだねえ」


 どうしよう。水無月がかわいそうで涙が出そうだ。

 和んでいい相手じゃないのに、敵だっていう感覚がない。


「卯月も文月も変態だけど、ボクは嫌いじゃない」

「わたしはまだしも文月みたいなキモオタに気を許しちゃダメよ」

「外見が悪いからって、中身まで悪いわけじゃない」


 水無月がいい子だ。四季よりもいい子かもしれない。

 僕はロリコンじゃないけど、こんな妹がいたら猫可愛がりするね。シスコンになる自信がある。

 ほっこりした気持ちになっていると、会話に加われていなかった紺屋さんが発言する。


「ここで出会ったのは、本当に偶然なのですか?」

「偶然。ボクたちは食事をしにきただけ。このお店はお気に入り」

「例外はいるけどわたしたちも飲食は必要なのよ」

「私を連れて行く気はないと?」

「今は休戦する」

「わたしは四季ちゃんを連れて帰りたいお姉さんがイイコトしてあげるから」

「うざい」


 四季は迷惑そうにしているけど、まあ大丈夫そうかな。

 変な五人組になって料理を食べる。先に注文したのは僕たちだから、こっちが先に運ばれてきた。少し遅れて卯月と水無月の分も届く。


 食事中も、卯月は四季にちょっかいをかけて嫌がられている。

 水無月は黙々と食べ進めるし、性格が全然違う。

 四季がデザートのゴマ団子を食べているところで、他のメンバーは食べ終えた。


「わたしたちは帰るけど四季ちゃんはいつでも歓迎するよ」

「卯月がうるさくしてごめんなさい。じゃあ、また」


 嵐のような二人が去ると、急に静かになった。

 別れ際のセリフからしても、水無月はいい子だって分かる。

 水無月は、まともなのは睦月と葉月(はづき)だって言っていたけど、そこに彼女自身も加えたいね。


「恐ろしい怪物とは思えませんね。人間味があり過ぎます」

「僕も思ったよ。卯月は変人だけどフレンドリーだし、水無月はいい子だし」

「いい子だろうと悪い子だろうと、十二月は敵」


 僕と紺屋さんは好印象を抱いていて、四季は相変わらず敵認定だ。

 なんかやりにくいなあ。

 十二月と会って、話せば話すほど敵とは思えなくなる。

 もっと分かりやすい「敵」なら憎めるし、戦う気にもなれる。

 次々と変死事件を起こし、如月を連れ去った悪人だ。

 これなら戦いやすい。四季が十二月を殺しても、悪人を倒して偉いなってなる。


 少し話しただけだから、本性はまた別かもしれないけど、現時点では死んで万々歳って思える相手じゃない。むしろ仲良くできたらなって思う。

 敵とは思えなくても戦わなきゃダメなのかな。戦いたくないな。


 口には出さないけどね。四季は「敵は殺す」って言うに決まっているし、僕が何か口を出しても「理想論者」って否定される。

 四季に守ってもらっているだけの人間が、上から目線で偉そうに講釈を垂れる資格もない。

 僕が何も言えないでいると、代わりに紺屋さんが口を開く。


「十二月は何をやりたいのでしょう? 四季さんが邪魔であれば、総力を挙げて潰しにくればいいはずです。一枚岩ではないにしても、数人が協力するだけで簡単に勝てます。昨日は、末席一人と互角でしたし」

「今の私が弱いのは事実だけど、はっきり言われると腹が立つ」

「しかし、私の考えが間違っていますか? 四季さんを倒すにせよ私を連れて行くにせよ、どこか中途半端な感じはぬぐえません。行動がお粗末です」

「ここで話すのもなんだし、帰ってからにしない? 買い物をして帰ろう。四季は一番食べるんだし、荷物持ちを頑張ってよ」


 お米を数十キロ単位で買い込んでおかないといけないし、僕一人じゃ持てない。

 手伝いはするけど四季にも頑張ってもらいたい。


「おいしいご飯のためなら頑張る」


 四季の現金なセリフを聞きつつ、会計を済ませて店を出る。

 以降は特に問題も起きず、食料品を大量に買い込んでから帰宅した。

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