表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
21/92

二十一話 明日はこない

 師走(しわす)カケルとの戦闘はあったものの、僕たちはなんとか無事に帰宅できた。

 四季(しき)は怪我をしていたけど、本人曰く「食べて寝れば治る」とのことだった。

 で、今も食事を次々と平らげている。すさまじい勢いだ。


「おかわり」

「またですか? さすがに食べ過ぎでは?」

「全然足りない。私は空腹。おかわり」

「はいはい」


 四季がどんぶり茶碗を差し出したので、紺屋(こうや)さんは白米を山盛りによそう。

 そそり立つ白い山を前にして、四季は山腹を箸でほじり、穴を開ける。

 そこに生卵を割って投入。上から醤油をぶっかけて黒い山に変質させ、山頂から切り崩しにかかる。


 無茶苦茶な食べ方だ。卵かけご飯になっているようでなっていない。

 四季はこの食べ方が好きらしい。醤油かけご飯を食べ進めて、途中で卵が出てくると、味に変化がついてアクセントになるとか。

 通の食べ方だって自慢していたけど、絶対に違うよね。

 醤油かけご飯を黙々と食べながら、四季はどこか不服そうに言う。


如月(きさらぎ)がいないのが口惜しい」

「四人で食べる方がおいしいもんね」

「お寿司。奢り。神」

「酷過ぎる」


 如月の存在価値がお寿司にされている。あんまりだ。

 本気なのか冗談なのか判別がつかない。


「おかわり」

「もう何も言いません。それだけ食べて、なぜ胸に栄養が行かないのかなどと突っ込みません。ぶくぶく太り、醜い外見になっても知りませんとは注意しません」

「悪魔め。速峰(はやみね)春真(はるま)は」

「ロリコンじゃないよ」

「違う。おかずを温める」

「いつの間に?」


 冷凍食品のから揚げやらお好み焼きやらを大量に準備したのに、綺麗さっぱりなくなっている。

 食べる量が尋常じゃない。既に普段の五倍は胃袋に収めている。

 普段から二人前は食べるから、十人前だ。


「僕はてっきり、『食べて寝れば治る』は比喩みたいなものかとばかり」


 冷凍食品をレンジで温めつつ、僕はぼやいた。

 じっくりと療養すればいい、みたいな意味を想像していたんだよ。まさか言葉通りだとは驚きだ。

 紺屋さんも四季の食欲に呆れている。


「病気の時は、栄養のある食事を取って休むのが一番ですけれど、怪我も同じでよかったのでしたっけ?」

「私ならいける」

「呆れた頑丈さですね。まあ、他に方法がないとも言えますか」

「四季が大丈夫って言うなら信じるけど、病院に行かなくていいの?」


 レンジで温めた春巻きと肉団子を渡して、僕はなんの気なしに発言した。

 深い意味はなかったのに、四季は箸を動かす手を止めた。

 紺屋さんも不思議そうに首を傾げる。


「速峰春真は、なぜ『病院』を知っている?」

「そもそも、ビョウインとはなんでしょう?」

「……あれ?」


 二人に言われて僕も気付く。

 そうだよ。病院って何?

 いや、意味は理解しているんだ。理解しているけど、本来なら理解できるはずのない単語だ。

 だって、そんな機関は町に存在しないんだから。


「ひょっとして、私が警察を思い出したのと同様ですか?」

「紺屋さんと? どうだろ?」

「私の場合は、知らないはずの言葉を不思議と知っている気がしました。記憶の奥底に封じられているとお伝えしたかと思います」

「似てる……のかな? なんかさ、怪我をした四季を見ていたら、病院で傷の手当てをしてもらうってイメージがふっと湧いたというか。あれだ。医者だよ医者」


 四季と出会ったばかりの頃、医者の話題が出ていた。

 医者は怪我や病気を治療する人だって話だ。「大怪我をしたり病気になったりしたらどうする」って質問されて、僕は「自分で治す」って答えた。

 ところが、今は医者と病院を理解している。自分で治せるほどの軽い怪我ならいいけど、大怪我の場合は病院に行って医者に診てもらう。


「イシャやビョウインは、私では理解できない言葉です。春真さんは、警察はどうですか?」

「そっちはピンとこないね」

「個人差があるのでしょうか? だとしても、急に変化したのはなぜでしょう?」

「師走たちと出会ったから? 四季は原因が分かる?」

「分からない。ただ、速峰春真の記憶に変化があったのは好ましい」


 四季は嬉しそうに食事を再開した。

 びっくりしたのは、食べている最中に怪我が治り始めていることだ。体にあった痛々しい青あざが薄れている。


「どんな回復力なんだよ」

「私は特別。そもそも、普通の人間があんな力を発揮できるわけがない」

「納得した」


 以前もそうだった。僕のことは人間だって言い切ったのに、四季のことは断定を避けて言葉を濁した。

 怪物と真正面から殴り合ったし、普通の人間じゃないんだろうなって考えた。


「食べながらでいいから聞いてもらいたいんだけどさ」

「何?」

「四季はどんな存在なの? この前は、詳しく言えないとか僕が理解できないとか答えてたよね。こんな状況になったし教えて欲しい」

「……失敗作。廃棄物。そんな感じ」

「気持ちのいい言葉じゃないね」


 人間に対して使うべき言葉ではない。

 僕はいい気分じゃないし、紺屋さんも眉をひそめている。


「私はこの世界の人間じゃない。外からやってきた」

「言ってたね」

「外には世界がある。でも、速峰春真は外を知らない。外を知らない人間じゃ理解できない」

「四季が外の情報を教えてくれるのは?」

「教えるよりも自分で思い出して。医者と病院を思い出したように」

「できるかなあ」

「ならヒント。今日は何年何月何日?」


 変な質問をされたけど、さして難しい内容でもないので答える。


「二〇二九年一月一日」

「明日は? 明後日は? 昨日は? 一昨日は?」

「二〇二九年一月一日」

「おかしくない?」

「そう? どこが?」

「日数が経過しているのに、日にちが変化していない。月日がずっと同じまま」

「んん? 紺屋さん、分かる?」

「すみません。無理です」


 僕は医者や病院を思い出し、紺屋さんはケイサツを思い出した。

 でも、四季の言っている意味は理解できない。


「私が初めて十二月(じゅうにつき)の話をした時、速峰春真は十二月(じゅうにがつ)の言い間違いだと考えた。一月や二月なんかの月は知識として持っている」

「持ってるね」

「曜日の概念もある。平日と休日も区別している。月日の知識を持ち、毎日暮らしているのに、今日も昨日も明日も二〇二九年一月一日と考える。異常」


 あー……ダメだ。さっぱり意味不明。

 四季は隠し事が多そうだし、全部話してくれればいいのにって思うけど、こりゃ話せない。聞く僕がちんぷんかんぷんだ。


「この世界に、本当の意味での『明日』はこない」

「ごめん。僕はギブアップ。悪いけど、四季が何を言っているのかさっぱりで」

「今はいい。いずれ思い出して」


 いずれ、か。

 理解できる日がくればいいけど。


「僕の頭が追い付かないのは置いておいて」

「おかわり。紺屋宵は白米、速峰春真はおかず。生卵も追加で」


 真面目な話をしようとしたのに、これだよ。

 家にある食糧が食い尽くされそうだ。お金もピンチだし、どうしよう。


「食費でしたら、私も出しますよ」

「ありがとう紺屋さん。お願いしていい? 受け取るのは申し訳ないとか、見栄を張っていられる状況じゃないんだよ」


 十二月に殺されるよりも、食費が尽きて餓死する方が先になりかねない。

 笑えないね。

 僕と紺屋さんで、無限の胃袋を持つ怪物(しき)におかわりをあげる。


「真面目な話をするけど、今後はどうするの? 十二月から如月を取り返すのは無理っぽいし、あいつらは紺屋さんも狙ってる」

「逆に聞く。速峰春真はどうしたい?」

「如月には悪いけど、無事みたいだし一旦優先順位を下げる。助けるのを諦めたわけじゃないよ。助けてみせるし、人間に戻る方法も見つけられるなら見つけたい」


 僕の力で可能だとは思えないけど、気持ちは変わらない。

 如月のことも考えるとして、今は紺屋さんの方が優先順位は上だ。

 状況が変わったからね。この前までは如月が上で、今は紺屋さんが上になった。


「如月よりも紺屋さんが心配でさ。十二月には渡さない」

「ついに私の時代が到来ですね! 四季さんや如月さんに奪われたヒロインの座を取り返しました!」

「奪われてもないし、取り戻してもない気が……」

「非常に嬉しいです! 喜んでいる時ではないのは承知していますよ! 春真さんには危険な真似をしてもらいたくありませんよ! ですけれど、守ってもらえて嬉しい気持ちは消せないのです! 浅ましい私を許してください!」

「僕には守れる力もないけど……」


 突っ込んでも紺屋さんは聞いていない。妄想の世界へと旅立っている。

 四季は四季で食事に夢中だし、こんなのでいいのか心配だ。

 我が家の米を食らい尽くした四季は、食後のお茶をすすりつつ話の続きをする。


「紺屋(よい)を守るのは問題ない。十二月をおびき寄せる餌があれば私も助かる」

「私は餌ではありません。春真さんにパクリといただかれてしまうのでしたらありですけど! 言葉通りの食べるでも性的な意味での食べるでもバッチこいです!」

「妄想は自重してね。どっちもないから。前者は特にあり得ない」


 人間の肉を食べる趣味はないよ。猟奇的なのは勘弁して。


「妄想は無視して、これからは僕と四季で紺屋さんを守るってことでいい?」

「いい」

「変死事件はどうする?」

「見つかりそうにないから放置」


 方針がコロコロ変わっちゃっているけど、次なる目標は紺屋さんの護衛だ。

 これまでの方針って、満足に成功した試しがないなあ。常に後手に回っている印象がある。


「ちなみにだけど、僕たちの方から乗り込むのは……さすがに無謀か」

「無謀。場所も不明。現実的な案じゃない」


 水無月(みなづき)は、四季の戦闘能力を八番目か九番目と評価していた。

 僕から見れば破格の力を持つ四季でも、十二月の中だと下の方ってことだ。

 おまけに、こちらで戦えるのは四季一人、あちらは十二人。なんて戦力差だよ。


「しょうがないんだろうけど後手に回るなあ」


 何もできていない僕に言えた義理じゃないね。

 僕と紺屋さんは足手まといって状態はよろしくない。

 なんとかしたいけど、怪物と戦う力なんか今日明日に手に入るものじゃない。金属バットも効果なしだった。

 方法を考えないと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ