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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
20/92

二十話 変態しかいない

平成最後の投稿がこんな内容でいいんでしょうか?

「名乗っておくよ。師走(しわす)カケル。十二月(じゅうにつき)の末席だ」

速峰(はやみね)四季(しき)。十二月を殺す者」


 二人が名乗りを上げて戦い始める。

 僕は地面にへたり込み、紺屋(こうや)さんに介抱されながら戦いを見守る。

 四季と師走の戦闘スタイルは似ている。

 両者とも、武器も何も使わずに、素手によるガチンコ勝負だ。

 拳と拳がぶつかり合うわけだけど、およそ人間が発していい音じゃない。


 とんでもなく重い物、数百キログラムとかありそうな物を二階の窓から放り投げれば、地面にぶつかった時にこんな音がしそう。

 そんな感じの轟音だ。ドカ、バキ、なんて可愛らしい殴り方じゃない。

 僕が全力で壁に体当たりしても、これだけの威力にはならないと思う。

 どちらに殴られたとしても、僕だと即死する。鍛えている人でも耐えられない。

 つくづく、人間じゃないんだなって思い知らされる。


「変です」


 僕が二人の戦いに見入っていると、紺屋さんが呟いた。


「変って何が? あの戦いは、どこをどう見ても変だけどさ」

「そちらではなく、周囲の人々です。これだけの大騒ぎになっているのに、誰も注目していません。遠巻きに眺めるなり、恐れて逃げ出すなりするものだと思うのですけれど」

「言われてみれば」


 四季たちに気を取られていて考える余裕がなかったけど、確かにおかしい。

 喧嘩と呼ぶにはあまりにも物騒な戦いが繰り広げられている。

 二人とも容赦なく暴れているし、力を隠そうとか目立たないようにしようとか、その手の意識は皆無だ。


 絶対に気付かれているのに、誰も注目していない。

 人間離れした戦いだから近寄るのは無理だ。あれに巻き込まれたら死ぬ。

 だとしても、何事だと考えて遠くから眺めるくらいはしてもいい。

 怖がって逃げるのもありだ。僕が第三者の立場なら逃げる。


 何もしていないんだよ。知り合い同士で話したり、どこかのお店に入って行ったり、日常の一コマを平然と過ごしている。

 こっちに視線を向ける人もたまにいるけど、すぐに立ち去る。

 今ここで起きている戦いが、至極当然のものであるかのような態度だ。

 異常に感じている僕の方が異常なのでは? 

 そんな風に思ってしまう。


「死人だから?」

「四季さんがおっしゃっておりましたね。死人だらけだと。ここにいる人が全員死んでいるなど想像したくありません」


 全員が死人ってことはないと思う。四季も半分だって言っていた。

 記憶を操作できるなら常識も操作できるだろうし、四季と師走の戦闘が当然だって刷り込んでいるのかな。

 となると、師走以外の十二月がここにいる?

 可能性はある。怪しいのは、師走が散々悪く言っていた霜月(しもつき)だ。


「紺屋さん、いつでも逃げられるように心構えをしておいて」

「私一人で逃げるのは嫌ですよ。春真(はるま)さんも一緒ですよね?」

「もちろん。僕だって死にたくない」

「師走さんに無謀な戦いを挑んだではありませんか。私がどれほど心配したか」

「心配かけてごめん」


 四季が助けてくれなかったら、僕は今頃殺されていた。

 首を絞められている感触が残っている気がする。

 凄い力だった。あのまま首をへし折られるか、ぶちっとちぎられるかだ。

 僕じゃ何もできない。力が足りない。心底痛感したよ。


 ここで四季の戦いを見るしかできない。

 手は出せないから、正直見守る意味もない。逃げてもいいけど、迂闊に動くと怪物が現れるかもって恐怖がある。

 お店で十体以上も出現したし、あんな感じでそこら辺を歩いている人が怪物になるとか。いくらでもあり得る話だ。


 今、僕たちの周辺には人がいない。

 四季と師走の激しい戦いが繰り広げられているだけだ。

 戦いの渦中にいるのが一番安全っぽいって皮肉な状況になっている。

 安全そうなうちはここにとどまるけど、霜月とかが襲ってくれば話は別だ。すぐに逃げなきゃいけない。


 座っていたら逃げるのが遅れるし、立ち上がっておく。

 紺屋さんも立ち、二人で手をつなぐ。

 僕たちが準備を整えるのを待っていたわけじゃないと思うけど、現れた。

 黒髪の人物。十二月だ。

 ただし、霜月じゃない。

 師走の話だと、霜月は三十歳程度の長髪の男ってことだ。


 僕たちの前に現れたのは幼い少女だった。

 四季も幼く見えるけど、もっと幼い。小学校低学年ほどだ。十歳にも届いていないように見える。

 無表情でお人形さんみたいに可愛らしい子だ。おかっぱ頭なのも人形っぽさを助長する。

 可愛いのはいいとして、なんでこの服装?

 体操着だよ。下はブルマだよ。めちゃくちゃ犯罪臭がする。


水無月(みなづき)?」

「ボクを知っているの?」

「だって、書いてあるじゃん」


 体操着の胸元には、でかでかと「みなづき」の文字がある。

 ご丁寧にひらがなだから、余計に幼さが強調されるし犯罪臭も増す。

 似合ってはいるけど、これはちょっと。


「春真さん……まさか、こんなにも小さな子に?」

「ないから」

「無がお好みで?」

「ないから」

「ボク、可愛くない? 卯月(うづき)は可愛いって言ってくれた。この服もプレゼントしてくれた」


 僕の中で、卯月って奴は変態野郎(ロリコン)としてイメージが固まった。


「可愛いかどうかは置いておいて、君は水無月なんだよね?」

「うん。ボクは水無月。ただの水無月。十二月の一人で序列は六位」

「師走よりも上なんだ」


 今も戦闘中の師走を横目で見る。

 楽しそうに四季と戦っている。形勢は互角ってところだ。

 まあ、僕は戦闘に造詣が深いわけじゃないし、いい加減な見立てだ。

 非常識な力を発揮する師走は末席で、水無月は彼より上の序列六位だと言う。

 外見に騙されちゃいけないってわけだ。

 僕も紺屋さんも警戒するけど、水無月は両手を上げて無抵抗の意を示す。


「ボクは戦いにきたわけじゃない。荒事は苦手。下から二番目」

「十二人の中で十一番目だって?」

「うん。ボクは、直接的な戦闘よりも、特殊能力に秀でるタイプ。この場所も人払いの結界を張っている。死人はともかく、生きている人間は気付かないし近寄らない」


 注目されていないのは水無月のせいか。


「荒事が苦手って話だけど、少なくとも一般的な人間よりも強いよね?」

「強い」

「分かんないな。四季は師走の相手をするだけでいっぱいいっぱいだし、僕を殺して紺屋さんを連れて行けるんじゃないの?」

「殺さないし連れて行かない。それは師走の役目。ボクの役目は結界の維持」

「役割分担なんだ。だとすると、なんで姿を見せたの?」

「卯月の指示。可愛い服を見せびらかしてこいって」

「アホだね」


 緊迫感がないなあ。すぐ横では死闘が行われているし、水無月も敵なのに。


「幼い子供に体操着を着せて露出プレイ……ふしだらです! はしたないです!」

「いや、紺屋さん? 露出はしてないんじゃ?」

「似たようなものです! 卯月という男性は、全女性の敵です!」

「卯月は女性」


 水無月から訂正が入ったけど、女性なんだ。

 ますますアホだね。女性同士で何をやっているんだよ。

 それとも、まさか。


「水無月は男の子? 一人称も『ボク』だし」

「女の子」


 少し不機嫌そうになって、水無月は答えた。


「ごめんね。どこからどう見ても女の子だとは思ったけど、卯月が女性だって聞いたからもしかしてって。にしても、仲間の誰かが止めればいいのに」

文月(ふみつき)が止めている」

「文月って人はまともなんだ」

「体操着じゃなくて、裸エプロンがいいって。男の夢だって」

「変態しかいないの!?」


 十二月に対する僕のイメージが……変死事件を起こす悪い奴ってイメージが崩れ落ちる。学校で友達同士がバカをやるノリにしか聞こえない。


「うん」

「今の『うん』は、何に対する肯定?」

「変態しかいない」

「そこは否定して!」

「変態が多い。まともなのが少ない」

「ちょっとはマシになったけど、まともなのは誰?」

睦月(むつき)葉月(はづき)

「トップがまともなのは不幸中の幸い……なのかなあ?」

「睦月は苦労人。いっつも胃を痛めている。ストレスで禿げそうって言っている」


 またしてもイメージが崩れる。

 悪の首魁を想像していたのに、疲れ切った表情でため息をついているおじさんに早変わりだ。睦月って人に同情するよ。


弥生(やよい)

「私は弥生ではありませんけれど、なんですか?」

「睦月は弥生を欲している。まともな味方が欲しくてたまらない。如月(きさらぎ)が加わってくれて、一番喜んでいるのは多分睦月」

「嬉しくない求められ方ですね」


 そりゃそうだろうね。僕が紺屋さんの立場でも嫌だ。

 悪の組織に加わって悪事に手を染めるのも嫌だけど、変態集団に加わるのは別の意味で嫌だ。


「あまり内情を暴露すると、ボクが卯月に怒られる。話はここまで」


 水無月は話をやめて、四季と師走の戦いを見学し始めた。

 さっきまでは形勢が互角だったけど、徐々に傾いている。

 四季が優勢だ。

 師走の右腕がなくなっている。切断したっていうよりは、強引に引きちぎったみたいな感じだ。

 片腕だと思うように戦えないのか、明らかに押されている。

 なのに、表情は楽しげなままだ。あいつは戦闘狂なのかな。


「いいよいいよ四季! この痛み、最っ高だね!」


 師走の叫び声が聞こえた。

 ……戦闘狂じゃないね。ドMのド変態だね。

 変態しかいないって言葉の意味を理解した。これは酷い。

 師走が変態だとしても、四季が優勢には変わらない。このままいけば勝てる。

 って思ったのに、師走の姿がいきなり消えた。

 そして、水無月の傍に現れる。


「師走は手酷くやられた」

「たはは、ふがいなくて申し訳ない。ちょっと舐めてたね。ここまで強いとは思わなかった」

「戦闘能力だけに限定するなら八番目? 九番目?」

「そこら辺だろうね。水無月も手を出さない方がいいよ。ちっとばかり厳しい」

「退く?」

「今回は退こう。速峰春真、弥生、また今度ね」

「バイバイ」


 水無月と師走は、僕たちに手を振りながら消えた。

 あれが師走の能力なのかもしれない。最初に現れた時もいきなりだったし、金属バットを取り出してもいた。

 遠くの物を取り寄せたり、自分たちが移動したりできるんだ。


「終わった……のでしょうか?」

「多分。また急に現れる可能性はあるけど」

「それでは安心できませんね。いつどこで襲われるか分かりません」

「心配ない」


 僕と紺屋さんが不安を吐露していたら、四季が会話に入ってきた。

 師走ほどの大怪我じゃないけど、四季も結構傷付いている。血も流しているし、見える範囲で体に青あざができている。


「四季の怪我は平気?」

「食べて寝れば治る。傷の痛みよりも、十二月を逃がしたのが痛い」

「瞬間移動になるのかな? あれじゃあ逃がすのも仕方ないよね」

「瞬間移動は瞬間移動でも、遠くには行けない。今も近くに転移しただけ。そこから別の手段で逃げたと思う」

「遠くに行けないって考える根拠は?」

「末席だから。どこにでも自由自在に移動できる能力を持つなら、席次はもっと上になっている」


 単純な戦闘能力だけじゃなく、総合的な能力で判断されるってことか。

 四季と互角の力に、転移の能力まで持っていて末席っていうのも恐ろしい。


「師走よりも水無月が気になる」

「結界を張るって言ってたね」

「私とキャラが被る。ロリコンの速峰春真を」

「誘惑も籠絡もされてないしロリコンでもない」

「機先を制された。話を戻すと、とにかく師走はあまり遠くに転移できない。他にも制約がありそう。現れるにしても必ず予兆がある」

「そうなんだ」

「お話も結構ですけれど、帰宅しましょう。四季さんの傷も心配です」


 如月を探しにきたけど、彼らの話だと葉月に保護されているらしいし、探しても見つからない。

 無事だと判明しただけでも収穫だと考えて、今日は帰る。

 水無月がいなくなり、人払いの結界とやらも効果が切れたんだろう。怪我をしている四季は注目を集めている。

 ややこしくならないうちに退散だ。

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