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僕たちは明日に向かう  作者: ともむらゆう
第1章 停滞、前進
19/92

十九話 師走カケル

 師走(しわす)カケルと名乗った男は、十二月(じゅうにつき)の一人だ。

 外見は完全に人間だし、特別強そうにも見えない。僕は師走から金属バットをもらっており、彼は素手だ。

 僕が弱くても、素手の人間を金属バットでタコ殴りにすれば勝てる。

 あいにく、師走は怪物だ。四季(しき)よりも強い相手だ。僕じゃ多分勝てない。


 いざとなれば戦うけど、それよりも時間を稼ぐ方が有効だと思う。

 時間を稼げば、いずれ四季が助けにきてくれるはずだ。他力本願なやり方だけどね。

 口が軽そうな相手なので、色々と聞き出したい気持ちもある。


如月(きさらぎ)を連れ去ったのは、あなたですか?」

「そうとも言えるし、違うとも言える。如月は十二月に覚醒したんだ。で、俺たちはそれぞれ引かれ合う習性があってね。お互いの居場所がおおよそ分かる。未覚醒の十二月は無理だよ。覚醒すれば、本能的に分かるようになる」

「覚醒した如月が、あなたに接触した?」

「うん、大体正解。より正確に言うなら、俺じゃなくて霜月(しもつき)だけどね」


 さっきも聞いた名前だ。霜月ヨルだったっけ。


「霜月のことを知りたい? 霜月夜流(よる)。夜が流れるって書いてヨルだ。外見は三十歳くらいの男で、男なのに髪を腰まで伸ばしている。長髪はいいけど、霜月がやると嫌悪感しか湧かないね。軽佻浮薄(けいちょうふはく)を絵に描いたタイプになる。もっとも、俺も軽佻浮薄だけど」


 仲間の情報をペラペラしゃべる師走は、確かに軽佻浮薄だ。霜月って奴を悪く言えない。

 僕としては、教えてもらえて助かる。


「最近、この辺りを騒がせている変死事件を知っているかい? あれの犯人が霜月だよ。人を殺し、人形のように操る。タチの悪いお人形遊びだね。記憶も操作できるし、死んだ時の記憶を消しておいて、生前と同じように動かすこともできる。もしくは、霜月の命令に従うようにして、好きに動かすこともできる。怪物に変化させることもなんでも、自由自在ってわけ」

「なんでそんなことを?」

「弱者を殺すのが好きだから。霜月は性根が腐っているんだよ。俺も正直嫌いだ。俺以外の十二月にも、霜月を嫌っている奴は多いね。葉月(はづき)とは犬猿の仲だ」


 一枚岩じゃないのか。十二人もいれば、ウマの合う人、合わない人がいる。

 中でも霜月は嫌われ者だと。


「ぶっちゃけるけどさ、君たちが霜月を殺してくれるなら、俺は諸手を上げて歓迎するね。仲間内での争いは基本的に禁止だし、そもそも俺は末席で霜月よりも下だし、俺じゃ殺せない。ほんと、あいつは死ねばいいのに」

「殺せないというのは、力が及ばないから? あるいは、目上の相手に逆らうことは許されないから?」

「後者だね。力はどうだろ。俺の方が上だと思う」

「序列は実力順ではないんですか?」

「おおよそ実力順だよ。覚醒したばかりの如月がまだ弱いように、例外はあるけどね。霜月は嫌いだけど、死人を操作できるのは俺にない能力だ。殴り合いをすれば俺が勝っても、殴り合いだけが能力じゃない。俺もあいつの力は認めている。なまじ有能だから忌々しい」

「よっぽど嫌いなんですね」

「大嫌いだね。睦月(むつき)も頭を悩ませている。頻繁に注意しているけど、なかなか聞き入れない。ここが霜月の狡猾な部分で、やり過ぎない範囲、言い訳がきく範囲を見極めている。やり過ぎれば、十二月の仲間とはいえ、睦月から制裁されるよ」


 仲間内の争いは基本的に禁止だと言っていた。

 基本的になので、やり過ぎれば制裁を食らうんだ。

 霜月は、制裁されずに済むように、ある程度は抑えているってことか。

 話を聞く限り、霜月は危険だけど、睦月や師走は常識人っぽい。

 師走は話が通じそうだし、戦闘を回避できるかもしれない。

 僕は淡い期待を抱く。


「そちらが正直に話してくれたので、僕も正直に話します。僕は、十二月にはさほど興味ありません。友人の如月さえ返してもらえればいいんです」


 四季は十二月を殺すと言っていた。

 僕は別に殺したいと思っていない。変死事件を追いかけていたのは、怪物にならずに済む方法などを知りたかったからだ。


「如月は覚醒したと言っていましたよね。それが本当だとして、元に戻る方法はないんですか?」

「ないね。意地悪で教えないわけじゃなくて、本当にない。如月のことも諦める方がいいよ」

「如月は、今どこに?」

「葉月に保護されている。霜月に接触したって言ったでしょ。よりによって、なんであいつに接触するかなって思ったよ。最悪の選択肢を引き当てた。霜月は、覚醒したての如月に色々と教えるって名目で、死人を量産した。如月に教えるためだって言い訳を使い、自分の欲求を満たしたんだ。これじゃあ睦月でも制裁できない」


 町に死人が増えていたのはそのせいか。

 如月がどこまで手を出したか分からないけど、大半は霜月の仕業だ。


「俺が保護しようとしたところで、葉月がその役目を買って出てくれた。霜月には任せておけないって言って、如月を保護した。霜月も序列が上の葉月には逆らえないし、最初から如月を保護しようとしていたわけでもない。欲望を満たす名目が欲しかっただけだ。素直に如月を引き渡した。顛末はこんなところだね」

「如月に会わせてもらうことは?」

「できないね。如月も会いたがっていないし、会えば殺し合いになる。お互い不幸になるだけだよ」


 如月には会えない。会いたがっていない。

 でも、無事なんだ。保護されているなら、酷い目にもあわされていない。

 これが判明しただけでも嬉しい。

 あとは紺屋(こうや)さんだけど。


「紺屋さんを連れて行くのはやめてもらえませんか?」

「無理。本来は、如月も弥生も覚醒するまで待つ予定だったんだ。ところが、覚醒した如月が霜月に接触し、面倒なことになった。弥生まで同じになられちゃこちらが困るから、先手を打って保護しておこうってね」

「紺屋さんは白髪ですよ? 覚醒すると決まったわけじゃないでしょ?」

「うん、そうだね。弥生候補は他にもいる。全員保護するよ。弥生にならなかったらちゃんと返すから、今は渡してもらえないかい?」


 返してくれるんだ。弥生にならなかったら殺すかと思っていたのに。

 やっぱり、師走は話が比較的通じるタイプだ。善人とは言えないけど、まるで話にならない相手でもない。

 今だって、僕と会話をする必要はない。

 僕をさっさと殺し、紺屋さんを連れて行けばいいのに、渡してくれってお願いしている。


「紺屋さんは渡さない。って言ったら?」

「力ずくで。金属バットをあげたんだし、戦おうよ。俺は霜月と違う。弱者を蹂躙する趣味も一方的に殺す趣味もないから、戦う手段をあげたんだ」


 話は通じるけど、なんでもかんでも言うことを聞いてくれるわけじゃないか。

 金属バットを握る右手に力が入る。

 左手は紺屋さんにつかまれているから、離してもらわないと。


「紺屋さん、手を」

「ダメです。春真(はるま)さんを戦わせるわけにはいきません。それなら、私はこの人と一緒に行きます」


 手を離してって言おうとしたのに、途中で遮られてしまった。

 僕を危険な目にあわせたくないから、自分が犠牲になるって言っている。

 それは認められないね。


「うんうん、そうしてくれると助かるな。悪いようにはしない。約束する。俺を信用できないなら、葉月でもいいよ」

「如月さんを保護している方ですか?」

「葉月は女性だし、女性同士で安心できるんじゃない? フルネームは葉月(よう)。俺たちの仲間は現状九人……如月が加わったから十人か。十人の中で一番信用できるのは誰かってなると、俺は葉月を推すね。ちなみに美人だよ」

「男性よりは安心できますね」

「じゃあ決まりだね」

「決まってないです」


 二人だけで話を進めないでもらいたい。

 紺屋さんを振りほどき、両手で金属バットを握る。


「やめてください春真さん!」

「ごめんね。これは僕の意地だ」


 何もせずに、おめおめと渡してなるものか。

 意地でも阻止してやる。


「弥生の意見を尊重してあげればいいのに」

「紺屋さんが、心の底からあなたたちの仲間になりたがっているなら、僕も尊重しますよ。消極的な賛成であって、本心は嫌がっているなら戦います」

「いいねえ。霜月なんかよりも、君が仲間になってくれればいいのに」

「褒めてくれてどう……も!」


 会話をしつつ、僕は金属バットをフルスイングした。

 人を殴るのに抵抗はあるけど、そんなことを言っている場合じゃない。

 師走の顔面を狙ったのに、あっさりと受け止められてしまった。


「非力だね。少し鍛えた方がいいんじゃないかい?」

「荒事は苦手なんですよ!」


 まともに喧嘩をしたことのない僕は、腕力にも自信がない。

 金属バットを振り回しても、迫力は欠片もない。ぶうん、ぶうん、って情けない音が出るだけだ。

 (くう)を鋭く切るような音を期待したけど、うまくいかない。

 師走は苦もなく避けている。

 何度も空振りすると、僕は何もされていないのに足をもつれさせた。

 本気で情けない。


「このっ!」


 倒れそうになりながら、師走の胴体を薙ぐように攻撃した。

 僕の攻撃は当たったけど、ダメージはなさそうだ。コンクリートの壁を殴ったような感覚があり、手がしびれてしまう。


「ま、人間じゃこんなもんだよ。勇気は認めるけどね」

「あいにく、僕は勇気なんて持ってませんよ! 力も覚悟も持たない人間です!」


 嫌になるほど考えた。

 僕は、映画の主人公のように勇敢じゃない。

 最近になって舞台に上がったばかりのサブキャラだ。やられ役の木っ端だ。

 四季にも言われている。力も覚悟も持たないと。


 僕自身も自覚がある。

 でも、たとえサブキャラだとしても。

 もがいてもがいて、しょうがないと言うその日まで。

 前に進むと決めたんだ!


「うあああっ!」


 やけっぱちになって、師走の顔面を殴ろうとした。

 それは簡単につかまれ、なんと金属バットをへし折ったんだ。

 僕よりマシとはいえ、師走は決して強そうな外見をしていないのにだ。

 筋骨隆々の大男がやるならギリギリ納得できても、平凡な男性がやるのは悪夢でしかない。


「本当にいいね。速峰(はやみね)春真だっけ? 気に入った」

「気に入ってくれたなら、紺屋さんを見逃してくれます?」

「それとこれとは別問題」


 師走は右手で僕の首をつかみ、持ち上げた。

 苦し……息が……

 意識が途切れようとした時、いきなり解放される。

 僕を助けてくれたのは四季だった。師走を殴り飛ばしたんだ。

 僕が金属バットを使って手も足も出なかったのに、四季は素手で殴り飛ばす。

 おっかないね。おっかないけど頼りになる。


「速峰春真は弱いくせに無茶をし過ぎ」

「ごめん」

「下がって」


 僕に代わり、四季が師走と対峙する。

 何もできずにバトンタッチした僕は、紺屋さんに介抱されている。


「四季、気を付けて」

「大丈夫。私は強い」


 四季は自信ありげだ。十二月には勝てないって言っていたのに臆していない。


「シキ? ああ、四季か。例のイレギュラーだね」


 師走は四季を知っているみたいだ。

 怪物を倒して回っていたからかな。イレギュラーの意味は気になるけど、


「私が相手になる」

「美少女からのお誘いは、非常に魅力的だ。ここだけの話、君は俺の好みだよ。その小さな胸とか大好きだ。ビューティホー」

「十二月は敵だけど、私のよさを理解している部分は神」

「贅肉の塊は邪道だ。葉月も弥生もでか過ぎるんだよ」

「全面的に同意する」

水無月(みなづき)は小さいけど、あれは小さいっていうか無だね。無よりも膨らみかけがベスト。つまり四季がベスト」

「神」


 なんて会話をしているんだよ。

 真面目なのか不真面目なのかよく分からない状況だけど、二人が敵であることには変わらない。

 四季と師走がぶつかる。

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