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連れて来られたのは宿舎の部屋だ。
お気に入りのシーツに包まれていた私をそっと降ろすと、人差し指を口元へ立てる。
「向かいはゲイル隊長の部屋なんだ。静かにしろよ」
そう言ってベッドへと腰掛けた悠馬を横目に、私は室内をゆっくりと見回す。
見回すと言ってもそんなに広い部屋じゃない。
外国人サイズなベッドと小さな洗面所。
窓際にある小さな椅子には、悠馬の服が何枚か掛けられている。
私が使わせてもらっていた部屋とは大違いだ。
陽向ちゃんも私と同じように、広いホテルの様な部屋で生活してるんじゃないだろうか。
それなのにどうして。
異世界人を歓迎するこの国の人達が、悠馬を蔑にするはずはない。
ということは、悠馬がこの環境を望んだ?
不思議に思って顔を上げると、悠馬が窓の外を見て目を細めていた。
「ここは月が二つあるんだな。さっきゲイル隊長に聞いた。見た時は世界の終わりか何かと思ったよ」
そう言えばこの姿になってから二月夜は初めてだ。
突然雨が降るように二月夜も不定期に現れるので、何か月も見ない事もあれば毎日現れる事もある。
「ファンタジーだな」
だね。
つい頷く私に気付いて、悠馬が楽しそうに笑った。
「お前ってほんと犬っぽくないよな」
犬だけど犬じゃないからね
「この世界の犬って皆こんな感じか?」
うーん、私は別枠かな、たぶん。
気が付くと雷の音は遠くなっていた。
これで落ち着いて眠れるかもしないと、ベッドと窓の隙間に伏せる。
「冷たくないか?」
そう言って布団とシーツを丁寧に敷いてくれる。
私はそれをぐしゃぐしゃにして身体に巻きつけると、そのままゆっくりと目を瞑る。
「そっちの方がいいのか」
悠馬の笑っている声が心地いい良くて、訪れた眠気に身を任せた。
「おやすみ、コタロウ」
「おやみすみ、悠馬」
「…あ?」
「…うん?」
「ちょ、ちょっと待て!コタロウ!?」
「なに?私もう眠たくて…。え?」
半分寝ぼけたまま身体を起こすと、ベッドに胡坐をかく悠馬と目が合う。
先程とは違う視線の高さに下を向くと、そこには黒い毛並みではなく白い太ももがあった。
恐る恐る触れると、それはまさしく私の足だった。
「ちょっと待って。うわっ!」
驚いた悠馬が派手な音を立てて、ベッドから転がり落ちる。
慌てて立ち上がった私は、恐る恐る声を掛けた。
「大丈夫?」
「あ、うん。えっと、コタロウ?」
「はい、コタロウです」
遠雷だけが狭い部屋の中に響く。
ベッドを挟んで笑顔で間をつなぐ私に対して、悠馬はそわそわと視線を泳がす。
「意味が分からないんだけど、とりあえず服を着て話そうか」
「あっ」
見れば私はシーツ一枚纏っているだけだ。
私は滑り落ちそうになっていたシーツを胸元で掴むと、慌ててベッドの隙間にしゃがみ込んだ。
「ごめん!」
「いや、なんか俺の方こそごめん!とりあえず俺の服を」
「おい!ユーマ!」
「ひゃっ」
悠馬が立ち上がったその時、部屋のドアが大きく叩かれた。
思わず上げてしまった声に口を塞ぐも、相手には聞こえてしまったらしい。
一瞬の間の後、楽しそうに再び扉を叩いてきた。
「ユーマ!何を騒いでるのかと思えば、女を連れ込んでるのか!」
「ゲイル隊長!違うんです!これは…」
「どうしたんですか、隊長」
深夜にもかかわらずどこかからかう様な怒鳴り声を上げるゲイルに、他の騎士達が眠そうな声で問いかけている。
こんな格好で外に出る事は出来ない。
顔色を悪くする私の上に、突如布が落ちてきた。
何だろうと手に取ると、悠馬のシャツとのズボンだ。
扉を背に早く着ろとばかりに頷く悠馬に、慌ててシャツを被る。
「何をしてるんだ。騒がしい」
廊下から聞こえた声に、思わず息を飲む。
「おお、ルディ。ユウマが女を連れ込んでるんだ」
「ユーマが?…とりあえず全員部屋に戻るんだ」
「えーでも」
「こんなに騒がしいと女性も出てこれないだろ」
ルディの言葉に仕方なくといった様子で、騎士達が部屋に戻っていく気配がする。
安心したのも束の間、悠馬を諭すような声音でルディが声を掛けてきた。
「ユーマとりあえず開けるんだ。一緒に居る女性には色々と配慮しよう」
「あの、ちょっと待ってください!俺にもよく分からなくて」
「おう!ユーマ!宿舎に女を連れ込むことは禁止されてるんだぞ。まーお前がそんなことすることはないだろうと言わなかった俺にも落ち度はあるが」
「連れ込んでません!」
どうしていいか判断に迷っている悠馬に、ゲイルが笑いながら話しかけている。
渡された服になんとか着替え終えた私は、ベッドの隙間から出て悠馬へと近づく。
「今回はこのゲイル隊長が大目に見てやるから早く開けろ」
「でも、その」
「まさかヒナタか?」
「違いますよ!」
全力で否定した悠馬の脇に手を伸ばした私は、そっと部屋の鍵を回した。
私が背後にいることに気付いていなかった悠馬は、目を大きくして振りかえる。
「ったくもう少し遅かったら蹴破ってやろうと…。あ?」
「久しぶり、ゲイル」
「なっ…!?」
ゲイルのこんなに驚いた表情を見るのは初めてで、ちょっとだけ気分が良い。
そして体格の良いゲイルの後ろで、同じように固まっている人物へ視線を向ける。
「久しぶりだね、ルディ」
「ミサキ…」
さて、どうしよう。
思い切って出てきたは良いものの、緊張で何から話せばいいのか分からない。
吸い込まれそうな青い瞳から目を逸らした瞬間、ゲイルの蛙みたいな声が聞こえ気がした。
次の瞬間、私はルディの腕の中にいた。




