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「コタロウか」
腰に下がった剣に手を掛けていたルディは、私を見て直ぐに警戒を解いた。
というか、私は『コタロウ』で認識されているみたいだ。
…別に気にはしていないけど。
「ヒナタ。勝手に抜け出さないでくれ。心配する」
「ごめんなさい!直ぐに出ます」
ここに瘴気が無いことを感じ取ったのか、陽向ちゃんがいる壁の向こうへと声を掛ける。
陽向ちゃんが温泉から慌てて出てくる気配を感じて、思わずルディの真正面へと立ちはだかる。
そんな私を見てルディは一歩下がって苦笑した。
「覗いたりしない」
わ、わかってるよ!
ルディがそんな事をしないのは分かっているけど、板一枚挟んだ先に裸の陽向ちゃんが居ると思うとなんだか落ち着かない。
ルディはどうなんだろうと様子を疑うと、特に気にした風も無く平然としている。
それはそうか。
ルディは私には想像がつかないくらい女性に慣れているんだろうし。
「おいで」
…いや。
いつの間にかタオルを手にしていたルディが、座り込むようにして手招きしてくる。
動物にも優しいルディ。
そんな姿に馬鹿な私の胸は高鳴る。
「風邪引くぞ」
ルディの優しい笑顔に負けそうになる。
でも私は乙女だ。
いくら犬になったからといって、これ幸いとばかりに擦り寄る訳にはいかない!
悠馬に撫でて貰っている事は棚にあげながら、全速力でルディから脱げ出した。
カラッと晴れた昼間が嘘のように、雨風の激しい夜になった。
大地を裂くような雷の音が、丸まった身体を震えさせる。
特別雷が嫌いな訳では無かったけど、鳴り響く度に心臓が痛い。
せめてもの救いは、今日が二月夜なこと。
不思議と雨雲にも負けない月たちが、暗闇を明るく照らしてくれる。
今日は眠れないかもしれない。
そう思いながらも、再び寝る体制をとる。
誰かが作ってくれた豪華な家は犬小屋というには豪華で、冷たい風が入ってくることも無い。
お気に入りのシーツもふかふかで、私が居ない間に洗濯してくれているのかいつもお日様の匂いがする。
小屋も城内にあるので、雨が降っても心配は無い。
みんな優しく声を掛けてくれるし、食事の心配だっていらない。
寂しいな。
この姿になって考えようにしてきたことが、脳裏を駆け巡る。
誰にも気付かれないまま、犬としての生涯を終えるんだろうか。
訴えても気が付いてもらえても、人間の姿に戻れないかもしれない。
ずっと犬のままだったらどうしよう。
答えが出てしまうのが怖くて、何も出来ない私。
でも、一人は寂しいよ。
誰も居ない空間に、小さな鳴き声が響く。
窓の外が光ったのを感じて、くるであろう雷音に耳を塞ぐ。
「コタロウ?」
大丈夫か。
挫けそうな私の前に現れたのは恐い雷では無くて、同じ髪の色をした悠馬だった。




