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青い空を見上げ、雨の匂いの残る空気を思い切り吸う。

今日は朝から暖かい風が吹き、すれ違う人達の表情はどこか柔らかい。

こんな日はいつもとは少し違う事がしたくなる。

私は練習場に行こうとしていた足を止めて、急遽城の外へ行く事にした。

裏門にいる衛兵さんに挨拶をして暫く歩くと、山道が見えてくる。

薬草や食物など資源が豊富で、護りの山と呼ばれている。

整備された道を進む途中の立ち入り禁止の札を無視して脇道に入ると、暫くして目的地が見えてくる。

板で作られた壁の向こうから、ほんのりと白い湯気が漂っている。

そう、ここは温泉だ。

ここは私が迷子になった末に発見した秘湯なのだ。

さて温泉に浸かろうと心躍らせていると、水の揺れる音とともに少女の声が響いた。


「誰か、いるの?」


こんなところに私以外の人間?が居る事に驚いて、慌てて壁の向こうを確認する。

そこ居たのは顎まで温泉に浸かり不安そうに見ている、聖女と呼ばれいてる陽向ちゃんだった。

この場に居るのがひなたちゃんだった事に安心した私と同じように、相手も私を見て安心したように微笑んだ。


「びっくりした。コタロウちゃんだったのね」


笑いながら手招きする陽向ちゃんを見て、私はゆっくりと温泉に入る。

人間には少し温く感じるけど、犬の私には丁度いい湯加減に思わず欠伸が出る。

そんな私を見て、ひなたちゃんは楽しそうに笑う。


「コタロウちゃんもお風呂が好き?でもあんまりここに来ちゃ駄目よ。普段は瘴気がでてるから」


ここに来る前に立ち入り禁止の札があったのは、この温泉周辺からは微量な瘴気がでているからだ。

この場所は浄化すれば消えてしまう瘴気とは違い、祓っても源泉のようにあふれ出てくるのだ。

微量であるため放置していてもさほど害はないけど、十分この場に留まれば普通の人間なら体調不良を訴える。

けれど浄化の力を持っていた私は、この場に留まることが出来た。

そして犬になっても浄化の力を失っていないらしい私は、たまにここに来て日頃の疲れや汚れを落としていた。

犬になっても一応女の子だからね!


「ここはね、前の聖女様が作ったんだって」


話しかけてくる陽向ちゃんに、私はなんとも言えなくなる。

いや言っても伝わらないんだけどね。

ここはたまたま見つけたこの場所を気に入った私が、勝手に抜け出して入り浸っていただけだ。

この場所へは城の裏門を通らなければ入れない上に、立ち入り禁止であるこの場所に人が来ることはほとんどない。

それでも瘴気を祓っているこの場に、獣が近寄ってくることもある。

それを心配したルディがわざわざ目避けの壁を作ってくれて、見張りをしてくれていた。

この場を作ってくれたのは私の我儘に付き合ってくれたルディだ。

それにしても私には聖女と呼ばれる程の力は無いのに、どんな風に伝えられているんだろう。


「ねえ、コタロウちゃん」

なに?


ゆっくりと話しかけてきたひなたちゃんを見て、聞こえる事はないだろう返事をする。

少し寒いのか健康的な肌をお湯で隠しながら、私の側に寄ってくる。


「悠馬は元気?」

うん。元気だよ。昨日もゲイルに思い切り絞られて動けなくなってた。


手を差し伸べてきたひなたちゃんに近づくと、濡れた毛を丁寧に梳いてくれる。

気持ち良さで目を瞑る私は、完全に犬だ。


「コタロウちゃんが羨ましいな」


消えてしまいそうな声に落ちてしまいそうだった意識を呼び戻すと、ひなたちゃんは今にも泣きだしそうにしていた。

私の何が羨ましいのか首をかしげていると、壁の向こうから駆けてくる人の足音がした。

それに気付いた私は、慣れない犬かきを駆使して温泉から出る。

水分の含んだ重さが不快で、思わず身を震わせると駆け込んできた人物が声を上げた。

見上げるとそこには金色の毛並み、いや髪が眩しいルディが立っていた。


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