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「ミサキ」
「どうしたの?」
膝を抱えて座る私の前からは、ぱちぱちと薪の弾ける音がする。
今夜は二月夜の為、焚き火の明かりが無くても十分に明るい。
二つの月が存在は、ここが異世界である事を実感させる。
「昼間ハロルドとどこに行ってたんだ?」
「うーん、適当に散策かな」
「最近仲が良いな」
「そうかな?」
月から視線を外してルディを見ると、不満げな表情で顔を逸らされる。
最近のルディはこんな表情を見せる事が多い。
自意識過剰じゃなければ、それは私の態度が原因だろう。
割り切る事が出来なくなった。
笑っているのが難しくなった。
今のままで良いと、胸を張って言える自信がなくなった。
だからこそ少し距離を置いて、自分の気持ちを整理していた。
今日も私の知らない美女と話すルディを見て、ハロルドを巻き添えにその場から逃げ出した。
私の気持ちに気付いているハロルドからは色々とお小言を頂いたけれど、この感情をルディに気付かれるのは恐かった。
ルディの側に居られなくなるのが、恐かった。
「今日は静かだね」
「二月夜だからな」
二つの月がでる夜は加護の力が強まるらしく、普段獰猛な獣は息を潜めている。
ふと視線を合わせてきたルディに、今度は私が目を逸らす。
「み、みんな遅いね!探してこようかな」
二人きりの空気に耐えられなくなって立ち上がった瞬間、大きな手が私の腕を掴んだ。
それだけで痛くなる程脈打つ心臓に、わたしはどうしていいか分からなくなる。
「離して」
「嫌だ」
どうしよう。
月明かりに照らされる碧い瞳から目が離せない。
真っ直ぐ私だけを見るその視線に、何も考えられなくなる。
その広い肩に厚い胸に太い腕に、胸が苦しくなる程優しい笑顔の貴方に飛び込んでしまいたくなる。
全てを忘れて、ただ温もりに溺れたくなる。
そんな私の気持ちを後押しするように軽く引かれたその腕に、私は全てを預ける事にした。
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!?」
飛び起きた瞬間あげられた叫び声に、驚いた私はもう一度飛び上がる。
警戒態勢をとり周囲を見渡せば、ここは見慣れたいつもの回廊だ。
目の前で呆然と転がっているのは、勝手に親友認定している悠馬だ。
「ど、どうしたコタロウ。すごい吠えてたけど…」
あ、吠えてたんですね。驚かせてごめんなさい。
「怖い夢でも見たのか?」
聞かないで!ああ恥ずかしいっ!
「おいっ、そこは掘れないぞ。お前掘るの好きだよな」
夢。
そう夢だ。
現実にあった話ではあるけれど、あの時はゲイル達が戻ってきたんだ。
悶絶する私を不思議そうに見ている悠馬の側に伏せると、落ち着かせるようにゆっくりと背中を撫でてくれる。
最初こそ戸惑ったけれど、犬としての欲求が勝ってしまった。
悠馬の手はとても優しくてどこか懐かしくて、私の色んな感情を落ち着かせてくれる。
ミサキ
聞くことのなくなったルディの声がする。
このまったりした時間は大好きだけれど、ずっとこのままでいい訳は無い。
答えをしってしまう事に怯えて留まっているけれど、そろそろ動かなければいけない。
誰にも届かないことを良い事に、私は最愛の人の名前を何度も呼んだ。




