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更新遅くなりました
今日は生憎の雨の為、城内を勝手に散歩する。
すれ違う人達は犬が歩いているのを見ても嫌な顔をせず、逆に今日は良い事がありそうだと嬉しそうに話しかけてくる。
気分次第で触れることを許可しながら歩いていると、香ばしい匂いが鼻をかすめた。
いやしい私は匂いがする方へとふらふらと進んで行く。
どこか通った事のある廊下を歩きながら、犬の嗅覚の良さに感心しているとようやく匂いの元が姿を現した。
お皿の上に置かれているのはジューシーな肉。
でも何故こんなところに置いてあるのだろうか。
不思議に思いながら近づくと、背後からの金属が落ちるような音に飛び上がった。
慌てて見回すと、私は鋼鉄の檻に閉じ込められていた。
なんだろうこのデジャブ感。
「よし!かかった!」
驚いて顔を上げると、そこには紺のローブを着た背の高い男が立っていた。
腰まである銀色の髪を弄りながら、嬉しそうに見下ろしてくるのは私のよく知っている人物だった。
「どうした…。な!?何をしてるんですか!ハロルド様!」
「ああレオナ。ようやく黒の御使いを捕まえたんだ」
「捕まえないで下さい!ほらこんなに怯えてるじゃないですか」
「しょうがないだろう。いくら優しく接しても触らせてくれないんだから。色々研究したいというのに…」
「だから嫌われるんですよ!」
私の言いたいことの全てを、レオナが代弁してくれている。
雑に結ばれた金色の髪に、大きな丸い眼鏡。
背の高いハロルドを思い切り見上げて、早く解放するようにと怒っている。
「黒い犬なんてめったにお目にかかれないだろう?」
「でもこんな事をしちゃ駄目です!」
「でも」
「駄目です!」
レオナの剣幕に渋々と言った様子で、ハロルドが檻を開ける。
それでもまだ諦めきれないと言った様子のハロルドから距離をとり、そっとレオナの足元へ移動する。
ハロルドの研究と言う名の恐ろしさを知っている私は、この姿になってから常に彼からの視線を警戒している。
それなのにこんな古典的な罠に引っかかるなんて恥ずかしすぎる!
「うーん、ちょっとだけ触らせてよ」
嫌です。
「じゃあさ、2、3本毛を貰ってもいい?」
何に使われるか分からないから却下!
「肉、食べたくない?」
…欲しいけど魔術の実験体にされるのは嫌!
「やっぱり意志の疎通が出来てるように感じるな」
「黒の御使いは賢いんですね」
私の視線だけで考えている事が伝わったのか、ハロルドは顎に手を当てて興味深そうに覗き込んでくる。
これ以上思考を覗かれてたまるかと目を逸らす。
ハロルドは空気を読むことは苦手なくせに、人の考えている事を察知するのが得意だ。
「念話は通じないようだ」
「どうして分かるんですか?」
「全く反応がないからな」
ハロルドには遠く離れた人にも、念話という力で話しかけることが出来る。
言葉を返す事は出来ないけれど、その特殊な力はかなり重宝されている。
ふとこちらに歩いてくる足音に気付いて顔を上げると、白髪の長身な男がゆっくりと歩いてきた。
現れたのは副隊長のサミエル。
この状況を一瞬で察したらしいサミエルは、若干眉間に皺を寄せながらもいつもの無表情で溜息をついた。
「懲りないですねハロルドも」
「どういうことかな?サミエル」
「以前にも同じような事があっただろう。実験対象を捕獲して怒られていたことが」
「ああ、ミサキのこと?そんなこともあったね」
そうだ。
ここに来て間もない頃、異世界から来た人間に興味を持ったハロルドが私を追いまわしてきたことがあった。
あの時は、ルディが助けてくれたんだっけ。
「研究とミサキのことになると、周りが見えなくなるのはハロルドの悪い癖だ」
「…君だってレオナの事になると周りが見えなくなるくせに。ああ、そうだ。今日も残業だからレオナは返せないよ」
目が笑っていないハロルドに、絶対零度の表情のサミエル。
間に挟まれる形になってしまったレオナは、顔を青くしながらその場に立ち尽くしている。
私はといえばその場から静かに後ずさりして、さっさと戦線離脱だ。
犬である私にこの場を治めることは不可能だ。
「黒の御使い。今度会ったら触らせてね」
笑っていながらも真剣なハロルドの視線を受けて、私は慌ててその場をしたのだった。




