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一人で野宿なんてしたことは無かったけれど、盗賊から襲われる心配はしなくて良い分気は楽だった。
何て言ったって、犬だし。
最初こそぎこちなかった四足歩行も、慣れれば風を切る感覚が楽しかった。
三日三晩走り続けてついた王都は、いつのも平穏な日常を取り戻りしていた。
それどころか普段より空気が澄んでいる気がするのは気のせいだろうか。
あの時の緊迫した状況は夢だったのかと思うくらい、落ち着いた活気ある街だ。
一体なのがあったのだろうか。
とりえず城を目指しながら街を観察していると、食べ物屋の前で立ち話をする恰幅の良い女性が瘴気の話をしていることに気付いた。
私は少し離れた場所に伏せ、静かに聞き耳を立てる事にした。
「あの時は本当にどうなることかと思ったね」
「うちももう駄目かと思って、荷造りしてたよ。聖女様のお陰だね」
「あたしは見たんだよ!聖女様を。艶やかな黒い髪をした女性でね。あっという間にあの瘴気を浄化したんだ」
聖女!?
聞くところによると私が消えたのと入れ違いに、浄化の力を持つ『聖女』が現れたらしい。
しかも聖女の特徴を聞く限り、彼女も異世界から来た可能性が高い。
この世界で黒髪というのはとても珍しく、私も外に出る時は必ずフードを深く被っていた。
一度盗賊に攫われそうになって、ルディに助けてもらった。
『こんな時くらい泣いてもいいんだ』
そう言って押し付けられた胸板に、あの時の私はときめいてしまった。
それと同時に他の女にも同じことを言ってるんでしょ!と可愛げない言葉を返してしまったことに、暫くの間落ち込んでいたことを思い出す。
ルディに会いたい。
とりあえずルディに会いに行ってみようと、疲れた躰で立ち上がる。
私が犬になった事を伝えて、人間に戻る方法を探して貰おう。
変な魔術に詳しいハロルドなら、この状況をどうにかしてくれるかもしれない。
そして、それから…。
そこまで考えて、私の思考はルディと別れた時に遡る。
私別れる時好きだって言ったよね。
大好きだって言ったよね!?
もう会いないからと、今まで意地を張っていた分思い切り告白した気がする。
あれだけ言っておいて今更どんな顔して会えばいいのか。
穴があったら入りたい。
恥ずかしさに転がり回ってしまいたい。
犬ではなく人間だったなら、全身真っ赤に違いない。
恥ずかしさに耐えられなくて実際に穴を掘って転がっていると、興奮気味に話していた女性と目があってしまった。
追い払われるかもしれない。
無意識に腰を浮かそうとした時、女性は目を見開いてずんずんとこちらに向かってきた。
「あらまあ!見てごらん!黒い毛並みの犬なんて縁起がいいわ!」
土埃で灰色になっている私の毛を乱暴にはたくと、徐々に黒い毛並みが露わになる。
それを見た周囲に人達が、本当だねと目を輝かせて近寄ってくる。
ちょ、ちょっと待って!そんなに触らないで!
この国では黒い犬も珍しいことを、今初めて知った。
私の訴えもむなしく周囲はご利益があるかもしれないと、私の身体を撫でまわしてくれた。
もうお嫁にいけないかもしれない…。
いや、犬の時点で無理なのかな。
一人遠い目をしていると、先程の恰幅の良いおねえさまが串に着いた肉を持って来てくれた。
三日間殆ど水だけだっただけに、涎が止まらない。
考える事は山ほどあるけれど、今は目の前のご馳走に集中する事にした。
新たに差し出された皿の上の肉を見て、人間に戻れなくても食事には困らないかもしれないなと尻尾を振る私だった。




