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人の足元をすり抜けるようにして走り、陽向ちゃんの元へと急ぐ。
城内でも一人で出歩けない状況の陽向ちゃんが、どうしてこんなところに?
なんとか人混みを抜けた私は、人の波の先にフード姿の陽向ちゃんを見つける。
なんだか挙動不審な様子で周りを見回している陽向ちゃんは、私から離れて行くように歩きはじめる。
人の多さにたたらを踏んでしまい、その間に陽向ちゃんの姿を見失いそうになってしまう。
ちょっと、待って!陽向ちゃん!
焦った私は陽向ちゃんに向かって大声で吠える。
周囲が驚いて私から距離をとるように止まった瞬間を見計らって、脚に力を入れて一気に走り抜けた。
人混みから抜け出し慌てて視線を上げると、辛うじて確認出来る距離に居た陽向ちゃんが路地裏に入って行く。
路地裏って嫌な予感しかしない。
全走力で後を追う私に、擦れ違う人達からの視線を感じる。
角を曲がって暫く走ると、一人歩く陽向ちゃんを見つけた。
勢いを殺せないまま、私は陽向ちゃんのコートの裾に噛みついた。
「きゃっ!」
思った以上に引く力が強かったらしい。
バランスを保てなかった陽向ちゃんが、私に向かって倒れてくる。
完全な無防備な陽向ちゃんに、私は潰される覚悟で受け止めよう目を瞑った。
…あれ?
予想していた痛みや重さを感じず、恐る恐る目を開けると陽向ちゃんが誰かに支えられていた。
褐色の肌に藍色の目をした少年の表情には、少し怒りの色が見える気がする。
「リトくん…」
え、知り合いなの?
少年から陽向ちゃんに視線を移した瞬間、身体中に電気が走った。
「コタロウちゃん!」
陽向ちゃんの焦った声を聞きながら、私は意識を手放した。
あー頭が痛い。
目を覚ますとそこは見覚えのある部屋だった。
この間と同じように、机には青い花が飾られている。
違う事といえば、今日は一人では無いと言う事かな。
「ヒナタを連れ帰ってくれた事には礼を言う。だがコタロウのこの状況はどいううことだ」
「いや、てっきりヒナタを狙う悪い奴だと思ってさ。だから、びりびりっと」
「犬がか?」
「…ずっとヒナタの後を追いかけてたんだぜ?挙句の果てには吠えて噛みついてたからよ、てっきり悪い奴の手下かと。あんただって凶暴な犬がいるって聞いて追いかけてきたんだろ?」
どうやら陽向ちゃんを追いかけている最中、街の人達から通報があったらしい。
まだ大人になりきれていない高い声の主は、さっきの褐色の少年?
少年に対して、珍しくルディが怒っているのが感じられた。
重たい身体で寝返りを打つとルディと陽向ちゃん、そして謎の少年と目が合った。
「ミ、コタロウ。大丈夫か?」
うん、ちょっと頭が痛いけど
労わるようなルディの口調に、少しだけ涙腺が緩む。
あっと今の出来事だったし怖い思いをしたわけではないけど、こんな風に甘やかされると意味も無く泣いてしまいそうになる。
優しく頭を撫でてくれるルディの手に、この思いを誤魔化すように擦り寄る。
「ごめんね、コタロウちゃん。私のせいで」
ベットの脇に屈んで視線を合わせてきた陽向ちゃんの目は、泣いたのか赤く潤んでいる。
大丈夫だよ!それより何であんな所に居たの?
「入るぞ!」
扉が開くと同時に入ってきたゲイルは、許可を得ているようで得ていない。
いつもの事だと皆気にしていないけど、少年だけは少し驚いている様子だ。
「お、目を覚ましたか。お犬様」
うん、おはよう
「うちの弟がご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません」
いきなり目の前に現れ女性に驚いた私は、ベッドの上に姿勢を低くして立つ。
それを見た女性が申し訳なさそうに、赤い唇を歪める。
「驚かせてしまったようでごめんなさい。私はミナハナール国の使者、リオと申します」
リオと名乗ったこの女性は、最近ルディの側に居る妖艶美女だ。
犬である私に対してこんな風に謝ってくるなんて、実良い人なのかもしれない。
「リトがご迷惑をお掛けしました。ごめんね、ルディ」
前言撤回。
謝りながらルディに腕を絡ませる美女を見て、私はベッドから降りゲイルの陰に隠れた。
「違う!違うから、ミ、コタロウ!」
「ルディ?どうしたの?ほら、あんたも謝りなさい」
「俺は別に…。ご、ごめんなさい!」
リオさんの笑顔に、少年が慌てて頭を下げた。
どうやらお姉さんには弱いらしい。
「動けるってことは、特に問題はなさそうだな。いや、まだ回復して無さそうだな」
そう言って私を抱え上げてきたゲイルに反射的に抵抗しようとしたけど、軽い眩暈と頭痛で断念してしまった。
仕方なく太い腕に顔を乗せ目を瞑ると、頭上からゲイルの含み笑いが聞こえてきた。
「愉快だな。さて、なんでヒナタは街に降りたんだ?」
「えっと…これ」
陽向ちゃんは逡巡しながらも、スカートのポケットから白い封出してきた。
それを受け取ったルディは、美女の腕を解き中に入っていた一枚の紙に
目を通す。
「これは文字か?どこかで見たことがあるような…」
「はい、日本語です。私の国の文字です」
日本語!?
ルディからゲイルへと渡った紙を、私は覗き込むように見る。
そこには確かに日本語で書かれた文章がある。
綺麗な字で書かれた内容を要約すると、日本に帰る方法を知っているから一人で指定の場所へと来て欲しい、そう書かれている。
「おい、見えん」
凝視しているとゲイルが抱え直すよう、肩に乗せられてしまった。
あの、お腹苦しいんですけど!?
抗議しようとゲイルを振り向こうとした瞬間、誰かに抱えられて宙に浮いた。
見上げると不機嫌そうなルディが居た。
「軽傷とはいえ気を失ってたんだ。もうちょっと丁寧に扱え」
「あー悪い悪い。で、何て書いてあるんだ?」
「えっと」
「ゲイル、場所を移そう」
「あら、別にいいじゃない。何て書いてあるのか私も気になるわ」
「申し訳ないですが、他国の貴女方には関係の無い事です」
笑顔できっぱりと断るルディに、美女は仕方がないわねと肩を竦めた。
「行くわよ、リト」
「でも」
「これ以上迷惑を掛ける訳には行かないわ。でも今回聖女様を助けたという事実は変わりないんだから、このお返しはきちんとして頂くわ」
首を傾げてさらりと揺れる髪に目を取られていると、少年と目が合った。
睨まれているのは、私が誤解を招くような事をしてしまったからかな。
不可抗力ではあるけど、ちょっと悪い事をしてしまったかもしれない。
少年の視線に落ち込んでいると、ルディがゆっくり背中を撫でてくる。
嬉しけど、恥ずかしい。
そんな葛藤をしている間に、二人は部屋から出て行ってしまった。




