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進展の無いまま十日が過ぎ、私は相変わらずの犬ライフを送っている。
食べ終えた後の肉の骨をお行儀悪く転がしていると、同じく昼食を終えお腹をさすっている悠馬と目が合う。
「そういえばルディさん最近見掛けな…地雷だったか」
別に気にしてないけどね!
最近陽向ちゃんの周囲が何かと騒がしいらしく、城内を歩くだけでも護衛が付いている。
だからルディを見かける時は大抵陽向ちゃんと一緒だ。
最近のルディは少し怖い顔をしていて、少し近寄りがたい。
そんなルディの隣には、最近陽向ちゃん以外の別の女性が立っている。
褐色の肌のナイスバディな異国の女性。
外交に来ているらしい彼女は、露出の多い服装でルディに腕を絡ませて歩く。
それを振りほどくこともせず、時折笑顔を浮かべるルディ。
この光景を何度見たことか。
「やっぱりここに居たか」
「ゲイル隊長!」
気分が沈んでいたところに、ゲイルが筋肉だらけの身体を晒しながら歩いてきた。
隊長が来たことに慌てた悠馬が、座っていた椅子を譲る。
もちろん遠慮なんてしないゲイルは、椅子に腰かけると床に伏せる私を見てにやりと笑った。
「どうだ。何か変わったことは無いか?」
ないよ!
「そうか。ああいうのに弱いからな、ルディは」
何の話?
「あ、あの!こんな所に来るなんて何か用事があったんじゃ」
完全に戦闘態勢に入った私に、悠馬が間に入ってきた。
そろそろ噛んでも良いと思うんだよね、美味しくないだろうけど。
「ああ。二人一緒にいて何か変化はあったか?」
「何もないです。こうやって一緒に居ても別に…」
「そうか。やっぱり夜も一緒にいるべきなんじゃないか?」
「それは、その…」
悠馬の視線を感じたと思った瞬間、直ぐに逸らされてしまった。
二、三日一緒に過ごすくらいなら私は気にしないのに、肯定の意思を理解してもらえずいる。
それで人間に戻れるというなら是非ともお願いしたいのだけど、ハロルドが何も言わないところを見るとあまり意味の無い行動なのかもしれない。
「まあ、最悪俺が強行突破してやろう!」
「止めてください!俺まだ死にたくないですから!」
死ぬ?
そんな危険な試みなのかと首を傾げていると、ゲイルの視線が悠馬から私へと移る。
「あー最近ヒナタの周りが煩いのは知ってるだろ」
うん
「陽向は大丈夫ですか?」
「今のところはな。少し疲れは見えるが」
「少し会ったり出来ないですか?」
「無理だな。今は外からのお客さんが来てて、城内がピリピリしてる。あと何日かすれば帰るはずだ。それまでの辛抱だな」
「…はい」
悠馬の表情や声からは、悔しさが滲み出ている。
陽向ちゃんの置かれている状況を、ゲイル達は何も教えてくれない。
ちょっと面倒なことになっているからと、悠馬にも曖昧に濁されている状況だ。
大切な人の側に居られない気持ちは私にもわかる。
「そこでだ。ミサキ、お前も念の為注意しておけ」
注意?何を?
「外から来たお客さんは、どうやら聖女様に興味があるらしい。黒の御使いだの、聖女の分身だの言われてるお前に興味が移る事態もありうる、らしい」
聖女の分身って初めて聞いたよ
「そんなに喜ぶなって」
全く喜ぶ要素ないけど!?
「陽向に危険はないんですか?」
「今のところはな。だが万が一の事も考えて、ヒナタには護衛を付けてる。心配するな」
「…はい」
「そう言う訳だ。お前も気にしとけ!」
…りょーかい
相も変わらず暑苦しいゲイルが面倒になって、悠馬にこの場を任せて一足先に離脱にすることにした。
悠馬からの助けを求める視線には気付いていない事にした。
城内で歩けないなら、外を歩けばいい。
砂の上を転がり準備万端な私は、意気揚々と街へ降りる事にした。
誰かに伝言なんて出来ないので、勿論無断外出だ。
城から街までは広い一本道で、その途中城へ荷物を降ろしに行く馬車と擦れ違う。
茶色くて大きなこの馬は何度かあったことがある。
私を見下ろすつぶらな瞳が挨拶をしているような気がして、小さな声で挨拶を返してみた。
暫くすると活気ある街が見えてきた。
日本とは違う外国のような街並みは、いつ見ても外国に来たような錯覚を味わう。
慣れないのはまだ故郷の事を忘れられないからなのかもしれない。
それでも出店の並ぶ賑やかな光景は、沈んだ私の心を元気にしてくれる。
「あら!クロじゃないの」
大通りに響くような声で話掛けてきたのは、この街について最初に肉をくれた肉屋の女将さんだ。
店から出てくると嬉しそうに、私の背中を撫でてくる。
「せっかくの綺麗な色が台無しじゃないか」
そう言って砂埃を払おうとする女将さんに、私は距離をとって拒否の意思表示をする。
わざわざ砂場を転がってきたのは、この黒い身体を気付かれない様にする為だ。
犬であっても黒であることは周囲からの視線を集めるので、それに気付いてからは街に降りる度に砂で汚している。
「汚れるのが好きなんだね。そうだ、肉食べて行かない?」
そう言って持って来てくれたのは、こんがりと焼けたこの店一番人気の骨付き肉だ。
最初の方こそ遠慮していたけど、今ではちゃっかりお言葉に甘えて頂いている。
早速食べ始めた私に、女将さんは嬉しそうに話し始めた。
「実はね、娘夫婦に子供が出来たんだよ」
そうなんだ!おめでとう!
「夫婦になって三年も経つから娘も気にしてたんだけどね。きっとクロのお陰だね」
いや、私何もしてないんだけど…ん?あれ?
とても嬉しい報告を聞いていた時、視界に見知った人物が入ってきた。
いつもの白い制服ではなく、普段着で街を歩くルディだ。
そしてその隣で腕を絡ませようとしているのは、褐色の肌が目を引く外国の女性。
二人が人の波に消えていくのを呆然と見送ってしまう。
「クロ?どうしたの?」
あ、女将さん!ご馳走様!
瞬間的に走り出した私は、慌てて二人の後を追う。
ルディは何をしてるんだろう。
仕事?それとも…。
そこまで考えて私の足は止まる。
同じ光景を見たのは何度目だろう。
何度も傷ついて、何度も誤魔化してきた。
何してるんだろう、私。今日は帰ろ…え?
ルディに背を向けるかのように歩き始めようとした私の視界に、再び見知った人物が入ってきた。
フードを深く被っているけど、時折覗かせる幼い顔立ちと小柄な体型には見覚えがあった。
ちょっ!陽向ちゃん!?
明らかに一人で歩いている陽向ちゃん驚いて声を上げてしまい、周りにいた人たちを驚かせてしまった。
周囲の人混みが開けたのを良いことに、私は陽向ちゃんの背中を追いかける事にした。




