表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/18

12

お気に入りのシーツに包まり、心地いい朝日を受けて目を覚ます。

どうやら寝坊したようだ。

いつもならば日が昇る前に目を覚ますけど、昨夜は色々考えすぎてなかなか寝付けなかった。

小屋から出てゆっくりと背中を伸ばした私は、少し考えた末いつもどおり鍛錬所に顔を出す事にする。

犬に戻ってしまってから三日が経った。

今この状況を知っているのは、現場に居た三人に加えてハロルドとレオナとサミエル。

レオナには泣いて喜ばれ、絶対に元の姿に戻しますと宣言された。

サミエルはいつもの無表情を少し崩して驚いた後、暫くレオナに会えないなと呟いた。

本当にぶれないよね、サミエルは。

それから小屋で寝るのは可哀想だとレオナの部屋に招待されたけど、それは頑なに動かない事で拒否の意思を示した。

どうしてって、部屋に入ってしまえば自分で出入りする事が出来なくなる。

そうなると色々とストレスだし、色々と困るからだ。

その色々を口に出してきたゲイルの足に噛みつこうとしたけれど、あと一歩のところでルディに邪魔されてしまった。

ゲイルは本当にデリカシーがない。

そういった理由で、いつものように小屋を出た私は歩き慣れた道を進む。

途中顔見知りのメイドさんから干し肉を貰っていると、朝練を終えた騎士達が歩いてきた。


「お、今日は来なかったんだな」


たれ目な騎士が触れようとしてくるのをさっと躱すと、周囲から笑いが聞こえてくる。


「いい加減触らせくださいよ、コタロウさん!」

「見た目と違って暑苦しいぞ、カール」


黒い毛並みの私の事を神の御使いと呼ぶ人も居れば、こうやって縁起物だと触ってこよう人も居る。

私としては後者の方が楽だ。

持ち上げられると勘違いしてしまう性格だし。


「ユーマのところに行こうとしてるのか?あいつなら倉庫の整理してるぞ」

「あ、別に意地悪じゃないっすよ!その代わりに昼飯奢る約束してるんです、聖犬様!」


何故だか必死に弁明され、それがまた周囲の空気を軽くする。

聖犬という新しい称号まで頂いた私は、苦笑しながら彼らにさよならを告げた。

身体が軽くなるような大好きな土に匂いを満喫していると、古びていながらもしっかりした造りの建物が見えてきた。

そこに人の気配がしない事を不思議に思いながら侵入すると、暫くして規則的な呼吸が聞こえてきた。

案の上寝てしまっている悠馬を見つけ、迷った末隣に座りこむことにする。

まだ幼さの残る横顔と、無駄に長い睫毛を見詰める。

初めて会った頃に比べると逞しくなった気がする。

いきなり落ちてしまった異世界を受け入れようと、必死になっている姿は最初の頃の私と重なる。


片付けないと怒られるんじゃない?

「…ん。先に行ってて、陽向」

ほう。幼馴染二人の日常が少し見えたよ

「うん?…あ、コタロウ?」


前足でゆらゆらと揺らされようやく目を覚ました悠馬は、自分の勘違いに気付くと慌てて身体を起こした。

周囲を見回して自分が倉庫に居ることを思い出したのか、転がっていた木剣を慌てて掻き集めた。


「起こしてくれてありがとな。…あ、ミサキさんでしたね」

ミサキさんなんて今更だよね

「え?なんか拗ねてます?」


何故だか私の感情に聡い悠馬は、少しの間の後堪えきれないといった様子で吹き出した。


「コタロウ」

なに?

「ごめん、やっぱコタロウはコタロウだ」


何もなかったような澄ました返事をした私に対して、悠馬は嬉しそうに笑う。


「まさか前聖女様と会ってるなんて思わなかった」

聖女じゃないけどね!

「あ、でもこの話は誰にも言うなって口止めされてるんだ。陽向にもね」

陽向ちゃんにも?


思わず首を傾げる私に、悠馬の表情が暗くなる。


「なんか色々大変みたいなんだ、今」

そうなの?

「だから陽向の周囲はピリピリしてる。何があったのかは教えてくれないけど」


溜息をつく悠馬の横顔は、陽向ちゃんを心配していた。

色々知りたいのに聞きたいのに、言葉が伝わらないって本当にもどかしい。


「心配するなってコタロウ」


ああ、そうか。

優しく微笑む悠馬を見て、この心地よさが何なのかが分かった。

悠馬は犬の私の感情を読んでくれるんだ。

私の言いたいことを理解してくれる悠馬に、私は居心地の良さを感じてるんだ。


昔から動物に好かれる要因はこれだったんだね!動物たらしか!

「うん?…なんかよく分からないけど元気になったみたいだな」


戻れるのはいつになるのか分からないけど、今度は悠馬と語り合ってみたい。

再び思い出したのか慌てて片付けを始めた悠馬を見て、私も頑張ろうと前を向いて走り始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ