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目を覚ましたのはその日のお昼だった。

見覚えのある部屋に居ることが、夢でなかったことを伝えている。

ベッドから飛び降りた私は、自らのふさふさの前足を見て溜息をついた。

また犬になってしまった。

扉を開けることが出来ない私は、部屋の中をうろうろ見回ってみる。

昨夜は散らかっていた机の書類はきっちり整理されていて、見た事の無い青い花が飾られている。

椅子の上に飛び乗り窓の外を見てみると、台風が去った後のような澄みきった空があった。

結局昨日は何だったんだろう。

暫くの間真っ青な空を見詰めていると、廊下を歩く足音が聞こえてきた。

相手のノックに返事をすると、静かに扉が開いた。

顔を覗かせたのはやっぱりルディで、椅子に座っている私を見て一瞬困ったような表情を見せた。


「おはようミサキ」

おはようルディ


挨拶を返したことが伝わったかどうか分からないけど、ルディは小さく微笑む。

ルディとこんな風に会話をしたのは久しぶりだ。

会話として成立しているかどうかは不明だけど。


「一応医者、いや獣医に診てもらったんだけど、どこか痛いところはないか?」

大丈夫だよ!

「…あー大丈夫、だよな?」


頭に手をやり困っているルディが可愛くて、こんな状況にもかかわらず笑ってしまう。

少しの沈黙の後、ルディがそっと私の頭に触れようとした。

その行動に一瞬固まってしまった私を見て、頭上にあるルディの手が止まった。


「…嫌か?」

…えっと、別にその嫌じゃないけど


口にしたところでルディには伝わらない。

私は椅子を降りてルディの足元に近づいて、そっと頬を寄せる。

凄く恥ずかしいことをしている気がするけど、今にも泣き出しそうな顔をしたルディを拒否する事なんて出来なかった。


「ミサキが居なくなって六月だ」

そんなに経ってた?全く時間間隔が掴めないな


ゆっくりと屈んだルディは、優しい手つきで私の頭を撫でてくる。

あまりの気持ちよさに目を瞑ると、ルディが小さく笑う。


「ミサキは故郷に帰って幸せに暮らしてるんだって、そう思ってた」

うん

「ごめんな。辛かったな」

いや…犬生活自体は意外と充実してました。


今まで何もしてこなかった自分に罪悪感が湧いてきた。

もし逆の立場だったら。

目の前でルディが消えてしまったら。


ごめんね、ルディ。心配掛けて。


大きな掌に擦りつけるようにする私を、ルディがしっかりと受け止めてくれる。

その時、廊下からこちらに向かって走ってくる足音が聞こえた。

無意識に立てた耳に気が付いたのか、ルディが扉へと視線を向けた。

足音は部屋の前で止まり、直後ノックも無しに扉が開かれた。


「ミサキ!」

あ、ハロルド


綺麗な銀髪を乱したハロルドは、ルディの側で座り込む私を見て嬉しそうな顔をした。


「早速研究させてくれ!」

断る!


ハロルドに拒否に意志を示すため、ルディの背後へと隠れる。

そんな私を見て物凄く残念そうな表情を浮かべるハロルドを、ルディは呆れたような目で見ている。


「もっと他の言い方はないのか?」

「身体中を調べさせてくれ」

もっと駄目でしょ!

「もっと駄目だろ」


無意識に唸ってしまっていた私を落ち着かせる為か、ルディがさり気なく撫でてきた。

人前でそんな事をされたことが恥ずかしくて、首を振って跳ね除けると悲しそうな顔をされてしまった。


「嫌われてるね、ルディ」

べ、別に嫌ってるわけじゃないよ!


言葉が伝わらないってもどかしい。

誤解されるのも嫌で、ルディの足に少しだけ身体を預けてみる。


「お、人間のミサキより素直だね」

うるさいよ!ハロルド!


今度は故意的に唸ってみるけど、ハロルドは口元を楽しそうに上げて肩を竦めた。


「快適な犬生活を送ってたみたいだけど、ずっとこのままって訳にはいかないだろう?とりあえず必要最低限の協力はしてもらうよ、ミサキ」

うん、よろしくお願いします


当たり前のように人間に戻る方法を探してくれようとしているハロルド。

私は足元に移動することで感謝の気持ちを伝えると、ハロルドが屈んで頭を撫でてきた。


「やっと触らせてくれたな」

「とりあえずミサキを元に戻す方法と、これからの事を考えないとな」

「俺はミサキの研究…、いや戻す方法を考えるよ。あとのことはルディ達に任せた」


立ち上がったハロルドはまたあとでと言い残して、さっさと部屋から出て行ってしまった。



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