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前哨戦

 歩きなれた街道を歩く。

 気分はすっかり会社に向かう前のサラリーマンだ。

 駅から仕事場に向かうまで、こんな気持ちになっていたことを思い出す。

 思い出してから、あの頃は傍に誰かがいるなんて事はなかったけどなと考えて苦笑い。


「最初はグー!ですよ、良いですか…最初はグーですからね?」

「いいですよ、どちらの実力が上か…今日こそ白黒つけましょう……戦いは、じゃんけんで決めますか?」

「当然!あっち向いてホイ!心理戦、互いの動きの見極め、ほんの少しの運が絡むあっち向いてホイで戦います、それが流儀!」


「それ、そういう遊びじゃねーから!!」


 こいつらとじゃんけんをすると、型を出す最初の瞬間に動く指の筋肉なら空気のほんのわずかな揺れを感じてくるから怖い。

 言ってみれば技術と身体能力で発動する後天的な後出しだ。

 以前、どちらが俺と最初に…と決めた時、お互いに決着がつかなくて殴り合いのケンカになりかけた。






「っていうか、お前ら緊張感もてねぇの? …これから今まで戦ってきた中でもトップクラスのヤバい相手と戦いあいだぞ?」


 俺なんてさっきから緊張しっぱなしだ、何せ悪食の王が相手を食べる事で自身を強化する変異型だとしたら

 アイリとシフォンは圧倒的に強すぎる。

 勿論、どれだけ悪食の王が強くなっているかにもよるが…万が一にでもある程度二人に匹敵する実力を有しているとしたら?

 もしも…もしも俺が相手を食べる強化方法があれば相手に一滴でも血を流させて逃げだし、後日その相手の血がしみこんだ土を食べる。

 それで少しでも強化されたら、後は少しずつ狙っていけば良い。


 最悪の場合は、排泄物で試してみるのも良いかも知れない…。

 ゾッとするような考えだが、身体から出てきたモノと考えればそれもありだろう。


 つまり相手方の勝利条件は生き残る事、ソレがどんな手段でアレな。

 俺達の勝利条件は、相手を完全に殲滅しきること。

 出来れば解体を進め素材を大量に持って帰れたりすれば、最高だ。


 この勝利条件だけを見ても、不利だということは一目瞭然。

 リーゲン氏の手前強がってみたものの、危ないとわかれば撤退して人海戦術に切り替えるべきだろう。




「森が見えて来ましたね…コウタ様、全滅したPTはあの森から三日ほど進んだ所で敵と遭遇したそうです」

「彼らの進撃の速度を考えると、ボク達はもうすぐ遭遇するかもって感じらしいです!」


「そうか、二人ともありがとう……森か」


 思い返されるのは数ヶ月前の出来事。

 初めて、人間サイズの魔物を殺した時のあの小さな村落はアレから逃げていたのかもしれないな。

 期間が結構あることを考えると、獲物になるような存在が少なくなってきたりでもしたのだろうか。


 うーん…考えれば考えるほど、いろいろと深みにはまっていく気がするな。

 横に目を向けると、あの日俺達が入った森が広がっていた。

 何一つとして代わりのない光景に感慨深いものを感じながら通り過ぎる。







 一時間も歩けば、その森も見えなくなり、ひたすら退屈な道が続いていく。

 代わり映えのしない街道は、退屈だがこんな事は今までの生活の中で何度も経験をしてきた。

 気にならないと言えば嘘になるが今は気にしない。


 何度か頭の中で例の魔物に対する行動をシミュレーションしてみたり

 或いは隣にいる二人に危なくなったら逃げる、という念を押したり。

 その度にやけに好戦的な状態の二人に励まされたり、やることは沢山あった。



「コウ様、待って…魔物が近づいてくるよ」




 30パターンほど、オークキングを対策が整った辺りでシフォンとアイリの足が同時に止まる。

 お互いに揃って身をかがめると、道の向こうを指差して俺に告げてきた。



 とりあえず、それに習ってその場に屈みこんでおく。



「魔物って…俺の目には何も」


「はい…まだ少し遠いですが…気配は確かにあります。…数は少ないので、恐らくは先遣隊的なモノかと」


 やっぱりこいつらスゲェわ。

 見晴らしの良い場所で姿が見えないってことは、まだ遠い……はずで、って考えてから思いだした。

 姫さんや大将の騒動に巻き込まれた時もこんな感じだった…アイリやシフォンに間違いはないなぁ…しみじみ。



「何分で接近するかわかるか?」


「はい、この速度ですと10分程…ですね」

「アイリさんに付け足すと、相手は少ないどころか一体…急ぎながらも気を使ってる感じだけど、雑なんですね!」


「…このまま進もう、野宿の準備なんて殆どしてない…今日の間に、仕留める」

「かしこましました」


 二人の返事が重なると、俺達は魔物が近づいてきていることなんて気にも留めずに歩き出す。

 俺達?…うん、シフォンとアイリは確かにそうだろう。

 内心を言うと、俺なんかは既にガチガチに緊張してしまっているんだけどな。




 さて、しばらく歩いていると俺の耳にも聞こえてきた。

 生き物が思い切り走って、地面を踏みしめる音だ。


「おぉー本当に来た、来た…走り方なんかから、相手の実力は推測できそうか?」

「雑魚です」

「雑魚だね!」



 きっぱり言い切りますか。

 なるほど、なら安心しても良いだろう…リラックスした状態で、敵を待つことにする。

 …なんか一番俺が、役立たずとか思ってはいけない、絶対に、絶対にだ。



「見えてきたな」


 ポツリとつぶやく頃には、結構な速度で地面を蹴り

 かといってそれを苦にした様子も見えない、屈強なオークの姿が見え始めていた。

 オークといえば一般的に考えれば豚の魔物。

 だが走ってくるオークを見る限り、相手の腹に無駄な贅肉はあらず、肉体そのものは引き締まっている。

 呼吸こそ、走り通しで乱れているような雰囲気だが、その眼光は鋭いように見えた。


「――プギ…ギャァギャァ!」


 剣とナイフの中間程度の長さを手にしたそいつは、俺達を見つけるとしっかりと伸びきった指をこちらに向けてくる。

 凄い、ゴブリンならまだわからないでもないがオークのような魔物がこんなに人の形をとっているなんて。

 ただ人間の言葉を模倣するほどの知能はないのか、ゴブリン同様にギャァギャーと喚きたてながら、立ち止まり手にした剣を構えてきた。


「どうやらコイツは露払いのような存在みたいですね…戻ってこなければ、異常有りと判断する程度の使い捨て…でしょうか」

「ソレをするだけの知能が、オークに備わってるんですか…ボクには信じられません」


「二人とも、おしゃべりは後だ…今はこいつをたお――――」



 倒すぞ、と完全に言い切る前にアイリとシフォンが一気に前方へと跳躍。

 結構な距離があったにも関わらず3人の間合いは、ほぼゼロへ。


 豚はそれに気がつかない。

 いや、唐突に自分の目前に現れた相手に意識が追いついていないのだろう。


「……んふっ」

「どーん!」


 そのまま掛け声と共にアイリのナイフが煌き、シフォンの拳が振るわれる。

 ここ数ヶ月の訓練のお陰で何とか追いかける事が出来るようになった白銀の奇跡は、死という絶対的な概念を伴ってオークの眉間を穿つ。

 一方で、シフォンの拳は彼女の健康的な見た目とは裏腹に、豪腕として風を裂き進んでいく。


 世界は広く、異世界が俺の知っている法則からいくつも外れているとはいえ、拳が風切り音を鳴らす光景と言うのは凄く珍しいだろう。

 無慈悲な一撃はそのまま、オークの腹へと打ちつけられる。

 

 勢いづいた拳撃はしかし、オークの肉体をブチ抜く事はない。

 普通あれだけの攻撃なら腹を貫通してしまうだろうに……そこがシフォンの恐ろしい所だと、俺は知っている。

 今のパンチでオークの内臓は重大なダメージを一瞬にして受けて破裂。

 そうでない部分も様々な変調が始まり、結果として…生命活動を停止、即死するのだ。



「――――――」



 頭にナイフ、腹部には拳。

 それぞれの攻撃を受けたオークは自分にどんな結末が訪れたのかを知ることもできず。

 最後の声をあげる事すら許されないまま絶命した。




「やった!僕の勝ち!」

「違いますよ、シフォン…今のが私が殺しました」


「そんな事ないよぉ!ボクのほうが早かったです!」

「いいえ、ナイフのリーチの分だけ私の勝ちです」

「身体能力で言えばボクのほうが上だし!アイリ様より早く拳を突き出したし!」


 …絶命したオークの身体はどさりと、崩れ落ちるようにして地面に横たわる。

 その姿を最後まで確認する事無く二人はまた言い争いをし始めてしまう。

 

 夜はそれなりに仲が良いと言うのに、ケンカ? にも満たない言い争いを続けている気がするな。


 とりあえず言い争う二人はほうっておくとして、俺は倒れた魔物に目を向ける。

 人間の成人男性より頭一つ程度低いであろう身長の引き締められた肉体。

 身長の割には人間の倍近い重量を持っているらしい。

 なるほどパワーだけは十分にありそうだ。


 が、今はそんなことは問題ではない。

 引き締められた肉体、ここが問題だ。

 事前に集めた情報ではオークは現代日本で一般的に想像される通り、醜悪な肥えた豚の魔物。


 それが、今目の前に転がる死体は明らかに鍛えられている。

 魔物が訓練をしているとでも言うのだろうか…だとしたら、一体誰が?

 …答えは決まっている。


 悪食の王は、配下の魔物を鍛えるだけの知能さえ持ち合わせている。


 たった一つだけ確認できたその事実が、俺の心を更に不安にさせるのだ。












 それから、倒したオークの討伐証明部位だけを切り取って歩く事数十分。

 先ほどの戦闘の興奮も何処へやら、本当に魔物はこの方面から来るのだろうか…いや来るはずだろう、こないとおかしい。

 なんて不安と確認を繰り返していると、アイリの足が止まった。

 

 どうかしたか、とは聞かない。

 代わりに深呼吸を繰り返しながら、前を見つめて楽しそうに表情を綻ばせるシフォンの方を見る。

 あらやだ、この子…なんでこんなに楽しそうなのかしら。



「来ます、20分です」

「複数、その中に一匹だけ強いのが混じってます!」



「来たか…」



 お互い、短く告げるだけで伝わることに少しだけ嬉しくなりながら深呼吸。

 それから自らのズボンやポーチ、片方の肩にかけた背嚢などを確認していく。


 不備はない。

 大丈夫だやれる、いざとなれば逃げる。


 最初からそのつもりでいれば、不思議と気持ちは軽かった。



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