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ギルドを出て宿で一晩を明かして

 冒険者登録を終え、手続きの為の料金を二人分支払い終えると、後は行く所は街に出るか、簡単な依頼を受けるかくらいしかなくなってしまう。

 街に出ても、既に昼はとっくに過ぎている為に、街を見て回れる時間は少ない。

 依頼を受ける時間となればもっと少ない。

 という事で併設されたレストランで適当にお茶と、代わりのサンドイッチをいただく。

 どちらかと言えばパニーノの近いそれは、流石は冒険者が集まる場所と言うだけあってか、味は非常によかった。


 昨日の晩も思ったが、やはり美味くて暖かい飯は良い。

 人間として腹が減ると良い事など何一つもありはしないのだ。

 そんな風に実感しながら、ついおかわりを頼んでしまいつつ店を出る。


 膨らんだ腹を撫でながらアイリと二人並んで歩く。

 彼女の方も満腹になり気分が良くなったのか、俺と腕を組んではご機嫌な様子だ。


 時々だが、すれ違う最中に視線をコチラによこす人に手を振ったりなんかしている。

 俺も特に咎めるような事はなく、もう宿の看板が見えてくる事になってあることに気がついた。


 それは衝撃的で最高にのんびりとしていた俺の気分をも吹き飛ばしてしまうくらいの圧倒的な事実。

 思わず、はぁ……と唇からため息がこぼれてしまうと、隣のアイリが俺を気遣い始めたのがはっきりとわかる。

 このなんてこったい!!っていう気持ちが彼女に伝わるように…俺は呟いた。


「俺の想像してた冒険者ギルドと全然違った」



 

 窓際の日当たりの良い部屋に戻り、椅子を置いて外を見る。

 犬耳、猫耳、獣頭、バケツヘルムと呼ばれる類の全身鎧、羽が生えている人。

 人の特徴だけを見ても、多種多様……なるほど、ジェイルが帝国と言っていた国だけの事はある。

 着ているものに至ってはそれこれ、ぬののふく、たびびとのふく、かわのよろいにうろこのたて。

 ひのきのぼうを装備した子供がおなべのふたを頭につけてチャンバラごっこしている姿も見えて、つい微笑ましくなる。


 だと言うのに、だと言うのにだ。


「お客さん飲み物は…ミルクを貰おう…わははは聞いたかミルクだってよ、かえってママのおっぱいでも吸ってな…貴様達コウタ様を愚弄するか死ね!…ぎゃあAランクの俺がまけた痛い死ぬぅ

 …そこまでじゃ、君はさっき登録したコウタ君、素晴らしいAランクを倒した君達は特別に今日からBランクに昇格じゃ!…のイベントもなかった…」


「かしこまりました、コウタ様が望むのならいまからそのように整えてまいります…まずは適当に強そうなのと、偉そうなのを従えれば良いのですね?」


「うん、流石に冗談だから…何もないから良かったっちゃ、良かったんだけど平和だよなぁ…とさ…」



 ため息を一つつきながら、窓の外に眼を向ける。

 いけないな…なんだか今日は結構ため息をついてる気がする…まぁそれ以上に色んな事があったんだけどな、今日も。


「しかし、こうしていると暇だな…娯楽が何もないって言うのは、やっぱりきつい……」


 5分か10分か、窓の外の光景をのんびりと眺めて過ごしている間に、段々とソレにも飽き始めてしまう。

 こんな時に暇を潰す為に手元にあった携帯ゲーム機やインターネットは存在しない。

 勿論、パソコンなんて代物も無ければ一緒に転移してきたスマホはバッテリーを気にして電源はオフにしてあるほどだ。


「何かなさいますか?」

「何か…何かってなんだ」


 ちらり、とだけ視線を動かしてアイリを見てはまた眼を逸らす。

 うぅぅん…と真剣に考える声はしばらく続いたなと思うと、ぽつりと一言。


「訓練とか?」

「あ、それ良いわ」







「わぁっはっは!それで訓練!明日から、オマエみたいなひょろひょろのが、訓練!」

「笑うなよ、アイリがみてるだろ」

「自分も…思いますね、コウタさんはそちらの訓練より魔術の特訓をして見るなんて、どうでしょう?」


 大将と部下達、それと俺ら。

 5人プラス2人の合わせて7人。

 大テーブルを貸しきっての酒宴は熱々の料理と、木製のコップを打ち鳴らした乾杯から始り

 まず最初に、明日からの俺達の方針を肴に盛り上がっていく。


 樽や皮袋から飲むぶどう酒も美味かったが、コップに注がれたエールと言う最高の組み合わせに

 うっかりと暇つぶしのために訓練をしようと…と口にした途端、この笑われ方だ。


 みてみろ、アイリの方を…表情はまだ笑顔だが口元が笑ってない。

 まぁ…事前に無礼講と伝えてあるし、と思いながらぐびり。


「まぁアイリも食べなよ…今日はほら、友人としての付き合いだから、気にしないでな」

「はい……コウタ様が言うならしょうがありませんね、それでは失礼して」


「アイリさん…ああ、強いのに旦那をたてて、女神だ、やっぱり女神だ」

「コウタの旦那!どこでアイリさんみたいな嫁を捕まえてきたんすか!」


 部下達の話題にあげられた片割れである彼女は、オートミールを連想させる料理に酸味の強い木の実の粉末を存分に散らして食べている。

 丁寧に音を鳴らさずに食べ、口を咀嚼し…酸味に僅かに顔を顰めて、火酒をちびり。

 涎の出そうな食べ方に思わず視線は釘付けになってしまう。


「…ふふ、あげませんよ?」


 そして俺と視線が合うと悪戯っぽく笑って、そう囁くのだ。

 しかし俺は知っている、どうしても俺がソレを一口と望めばアイリは喜んで差し出す事を。

 木製のスプーンで掬い俺に向かって差し出していうのだ。


「あーんしてくれたら食べさせてあげますけど、どうします?」


 と……アイリ、恐ろしい子…!!


「旦那とアイリ様が2人だけの世界に入ってやがる…ダメだ聞いてねぇ…」

「ぷっ、くくく…まぁゆるしてあげましょう、自分にはこの2人、本当に夫婦なのかすら怪しいんですがね…」


「っておい、聞こえてる、聞こえてるけど聞こえてなかっただけだ」

「なぁんだ…旦那も人が悪いぜ」

「変な質問するほうが悪い、それでアイリを捕まえた、だっけ?」


 さて、この質問には困る…コップを傾けながら、頭は思考の中にしず―――。

 み、こもうとして隣から穏やかな衝撃を感じて中断させられてしまう。

 

 一体誰が?と思い、俺の隣にはアイリか部下の一人しか居ない事に気がつくのよりも先に、満面の笑顔を浮かべたアイリがテーブルの皆を見渡し。


「一目惚れですよ~…街で見かけてからずぅっとコウタ様だけを愛して、この人しか居ないって心に決めてるんです!コウタ様に何かあったら私は死にますね」

「コウタの旦那!俺はアイリさんの人柄にほれました、冒険者なんてやめて普通に働きましょう、それで2人で幸せに過ごしてください!ね!」

「旦那…ひょろひょろのぼっちゃんなのに、この人徳…スゲェや…今日から、兄貴と呼んでも良いですか?」


「てめぇら!ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞ!ぶっ飛ばされてぇのか!」

「ひゃぁぁぁぁ!大将すいやせん!」

「許さん!テメェら、そのコップを空にしやがれ!」


 がははは、わははは、焚き火を囲んだ時と殆ど同じような状態で酒宴は続き

 まだまだ素面の俺は少し心配になりあたりを見渡す。

 見れば他の客も同じように騒いでいたり、中には豚の丸焼きでも食べたのかもしれない。

 子供程の大きさの獣の骨だけを残して満足そうにしている男女の姿もあったりする。

 この程度の騒ぎなど、普通なのだ…この調子では中途半端な酔いでは、寝るに寝れなくなってしまうかも。


 だから多分、俺は場の空気にあてられてしまったのだろう。



「こほん……あ、アイリは俺のモノで俺の女だ、いい女なのは当然だろ」


 一瞬だけ騒いでいた連中が、大将やローブの彼まで含めて静かになる。

 と思ったら次の瞬間にはこれでもかと言う程の笑顔を浮かべ、ジョッキを手に俺につめとってきた。


「コウタぁ!いうじゃないか、どれ…ほれ馴れ初め聞かせてみろよ、あるんだろ、甘酸っぱい話の一つや二つ!」

「俺はここまでの夫婦は見たこと無いぜ…旦那スゲェ、旦那スゲェよ…」

「自分も少し…勘違いしてましたねぇ、コウタさんの方も惚気るぐらいには良い夫婦なんですね」


「あ、いや、待った…待った、待て!」

「待ちませーん、私とコウタ様はそうです、永遠の絆でつながれているんです…これだけ仲の良い夫婦なんて、そこらを探しても見つかりませんから諦めてくださいね!」


 もはや寄り添うなんてまどろっこしい必要はしない。

 俺に飛びつくようにして抱きついた彼女は、ソレはもう誇らしげに俺達のことを話したり。

 或いは俺と2人で、大将達の過ごしてきた冒険譚に聞き入ったりしたのだ。











「コウタ様、コウタ様…目を覚ましてください」


 眠い、そして頭がくらくらする…いや、かなりマシだ。

 マシ?いつと比べて……目を開けようとして世界が真っ暗な事に気がついた。

 灯り、灯りはどこだろう…スマホで枕元にある、中学生時代の付き合いからのライトの位置を探さないと。

 ライト?…そんなものはない、だってここは異世界なんだぞ。

 そうだ、なら電球をつけよう…小玉のオレンジの光で良い、とりあえず灯りが欲しい

 そしたら眠い瞼をそのままに、ふらふらと死人のような状態で水を飲んで、トイレに入って………。


「コウタ様、水ですよ…お飲みください」


 生暖かい感触と同時に、温い何かが喉に流れ込んでくる。

 味や喉越しは確かに水なのだが、口いっぱいに広がったのは全然違う、温い。

 なんだこれ、生ぬるいなら温いで氷を入れておいてくれないと…冷蔵庫から取り出した水とは違うのかこれ。

 あぁ、異世界だもんな…異世界、我慢しないと…でも起きよう……。

 目をあけて身体を起こして…起こす事は出来なかった。


「コウタ様、おはようございます……んふ…」


 熱っぽい吐息は顔にかかると、それはアルコールの匂いと、それ以上の甘い香りがする、体が重たい、何かが乗っている。

 ああ…アイリは吐息さえ甘いのか、と頭の中の常に冷静な部分は納得した。

 この部分は便利だ…どれだけ怒ってても泣いてても辛くても、感情が昂ぶれば昂ぶるほど静かになってくれる。

 そこが俺にアイリにキスをされ水を流し込まれ、彼女は俺の上に抱きつく形で重なっていると教えてくれた。


「…………アイリ?」


 沈黙の間に、ぁーとか、ぅーーーとか変な言葉が挟まったかもしれない。

 結果として搾り出すように告げた言葉は何とも簡潔なものだったが、彼女にとっては違うらしい。

 名前を呼ばれたとたんに俺に抱きつき、胸に顔を埋め…ああ、頭の中の冷静な部分がどんどんとなくなっていくのがわかる。


「はい、あなたの、あなただけのアイリです…二日も我慢して溜まっているでしょう…こんなにして……妻として、相手をしたいのです」


 さわり。

 腰から背筋をとおり頭に電流が走る。

 電流と言っても痛いわけではなくむしろ、その甘美な刺激は心地いい。


「コウタ様、愛しております…この世の全てを敵にしても構いません、それだけ愛しているのです、お慈悲を、どうかお慈悲を」


 ……アイリの言葉は一々頭に響く。

 本当は水を飲んでトイレに行って、いつもどおりに布団に潜って寝なおして。

 ソレで終わるはずの夜が終わらなくなってしまった…。

 すっかりと覚醒した頭で、先ほどの水の感触を楽しむように喉を鳴らして唾液を飲み込む。

 これには……水を飲まされた時に混じっていた、アイリの唾液が混ざっていると思うと、不思議と美味しかった。


 世界を確認する為に本当にうっすらとだけ開いていた瞼を持ち上げたら、そこには殆ど全裸のアイリ。

 豊満な乳房が形良く、つんっと桜色の突起を上向けさせ。

 唇は本人の唾液か、或いは先ほどの口移しによる水か、俺の唾液か…てかてかと光っているのが艶かしい。

 臍から下、極めて肝心な部分に視線を移そうとしたら体が動かなかった。


 あえて言おう、こんな時だからあえて言おう

 動けよ俺の体…動けよ…色々見るチャンスだろ。



「アイリ、頼みがある……」

「はい、なんでしょう…コウタ様の為ならもう、…何でも聞きます、コウタ様の定めた私じゃなくて、私の決めた私として聞きます」


「…優しくしてくれ、はじめてなんだ」

「はぁぁい、かしこまりました…全てはコウタ様の御心のままに!」



 卒業!何をとは言わないが卒業!

 さらに何かあったら私を…との彼女の一言により、ソロ作業の心配すらなくなった!

 ……アイリ、アイリ、アイリ、とまるで成人向け漫画の中の女性キャラのように彼女に抱きつき、名前を呼び

 必死だったのは、出来れば誰にも知られたくない秘密だな。

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