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今日からボのつく危険業

 宿屋で身体を休めると今後の為の買出しに行く、という大将達と店の前で別れる事にした。

 晩飯は一緒にしようと約束したので、鐘が6つ鳴ったら宿に戻ればいいらしい。

 それが夕刻を知らせる合図で、この街の人間の多くはその鐘の音で仕事をやめ家路につくと。

 

 ちなみに大将にそれとなく探りを入れてみたところ、ほかの街では8つだったり12だったりする所もあるらしく

 鐘の回数を調べておくのは大事な、旅に生きる者のコツの一つ、だそうだ。

 良い事を聞いた、覚えておこう。

 


「コータ様っ、そんなに離れていたらはぐれてしまいますよ?」


 そして彼らと別れて俺達は俺達でこうして歩いているわけだが、アイリが妙に俺にくっついて歩きたがる。

 現に今もこうして、殆ど腕を絡める程に近づきながら手を握り合わせているというのに、まだ足りないらしい。

 本人にソレを聞くとお邪魔ですか?と少し不安そうな顔をしてくるから性質が悪い、だって断れないじゃん?


 しかし並んで歩くと平凡と美女って感じで、視線が痛いな。

 彼女の整った顔立ちはそれなりに目立つのか…時々アイリの正面に立ち、声をかけようとした所で俺の存在に気がついて肩を落として去っていく奴までいたりする。

 まぁそれだけ美人に作り上げ妄想してきたのだから、ソレも当然といえば当然なんだがな。



 ちょっと前までなら考えるだけで興奮と同時に少し寂しい思いが押し寄せてくるが、今が違う。

 そんな思いを込めて繋いだ手に力を込め、先日もこんな風に手を握っていたなと思い返し、ため息が口からこぼれた。

 まだ一日と経っていないのに、色んなことがあったなぁ…いや、この世界に来てからを考えると二日か。


 一般的な作りの屋根の上に鳥が立ち止まり翼を休める看板や、頑強そうな鎧を隠すように盾が刻まれた看板のぶら下がった店を次々と通り過ぎていく。

 宿を出る前に聞いた限りでは、あれらの看板はそれぞれの組合で決められたマークを飾っていれば、ほかにどんな装飾をしてもいいらしい。

 看板はそのまま、店の顔となるので、儲かる店は最初に看板を豪勢なモノにするそうだ。


 俺達の入った店はまぁ…こうして歩いて、色んな看板を見てみると…少し手の込み始めてみた、って感じだろうな。

 看板から眼を降ろすと、アイリの興味深そうな視線と交差。

 アイリは先ほどから俺と寄り添いながらあれを見てはこちらを見て、更に向こうを見て珍しそうにしている。


「何か珍しいモノでも見つけたか?」

「はい…とても倒しそうなコウタ様の顔が見えます」


 ずいぶんと屈託のない顔で俺を見つめてきたな。


「…みても楽しいもんなんてないだろ」

「そんな事ありませんよ?コウタ様の事ならいつまで見ていても飽きませんから」


 失礼しますね、という短い声と同時にアイリの肩が俺にもたれかかってきた。

 止める暇もなく、僅かな重みに驚かされながら人にぶつからないように前を向いて歩く。

 時々、ちらりと視線だけで彼女の方を伺うとアイリの方も視線を細めながら前を向いたり、俺の方を向いたりと随分忙しないようだ。


「コウタ様とあのお方の存在を知って長い間、ずっと知りたかったんです

 私に色をつけてくれるのは誰だろう、私や他の子達の事でケンカしたりするくらい真面目に考えてくれる人は誰だろうって…

 色々お二人で想像した世界で、でも私達は何となく孤独で……こう、こう言葉に出来ません!」


「はははっ、なんだそりゃ」


「うーん…出来ないのは出来ないんですけど、でも!あの草原で気がついて、隣にいるコウタ様を見つけたとき、すぐわかりました!

 もうそれこそ私のお腹の奥にある大事な部分がきゅんきゅん叫んだんです、この人だぞって!」


「よし、ちょっと黙ろうか、視線が痛くなってきたぞ」


 振り返られたり、コチラを凝視されながら通り過ぎて言ったりする視線が段々と強くなってきてしまい、居心地が悪くなる。

 ここで一つ日本人の特有スキルの、曖昧な笑顔を浮かべながら、歩幅と歩調を同時に広めて歩いていく。

 アイリは何事もないかのようについてくるどころか、未だに肩にもたれかかっている。

 不思議な事に誰かにぶつかったりする様子は一切見えなかった。






 二人揃って早いテンポで歩いている間に、目的の看板が目に付いた。

 外観は周りの建物にも良くある、煉瓦と木材作りの三階建て。

 他にない特徴といえば、建物の一階は他の家々よりも大きな木窓をしており、その窓は開け放たれている事。

 更には他の店と比べると縦にも横にも非常に大きく作られているという事だろう。


 そして、二階と三階は少しだけ町を歩いた中で始めてみる、ガラス仕立ての窓をしている事か。

 まぁそれもガラスの破損を防ぐ為か、或いは夜に備えてか知らないが木窓を上から被せる方式になっている。



 看板に刻まれた紋様は、旗。

 ガラス窓なんていう先進的な設備を使っているにも関わらずシンプルで、一歩間違えれば安っぽさを覚えてしまう看板を掲げているのは、どんな地方にでも支店をだし

 その支店の先でも掲げられる事を第一としているからだ、とか嘘か真かわからない話を教えてもらった。

 人々は夢と希望と敬愛と恐怖を込めて、この建物の事をこう呼ぶ。


 冒険者ギルド。


 両開きの扉が何とも物騒な感じをかもし出す、本日の俺達の目的地である。



 宿の前で大将たちと別れて、これからどうするとなった時に真っ先に選択したのがここに来る事だ。

 一緒に行こうかなと行っていた手前少し申し訳ない所もあったが、彼らは目印になる為の共通の看板と

 それからギルドがあるなら大きな通りだろうな、と軽く案内のような事を知れくれた。

 そのお陰ですんなりと到着することができたのだ、初めての街だというのに彼らは何と頼りになるのだろう。



 扉に手をかけながら頭の中で様々な展開をシミュレート。

 …深呼吸を繰り返して緊張を頭から取り払いながら、扉に力をかけて、ゆっくりと開いていく。

 意外と軽い扉は、もしかしたら中でケンカした冒険者が吹き飛んで叩きつけられた時のための対策なのかも。


 いけない、なんだか思考が物騒な展開寄りになりすぎている気がする。

 しかし冒険者ギルドと言えば、大体そんな風に思ってしまってもしょうがないだろ、うん。



「アイリ、何があっても怒ったりしちゃダメだからね、手は俺が言うまで出すなよ」

「かしこましました…ですが、その必要あるのでしょうか、皆さんとてもリラックスしているようですが」


 

 扉を開いた先では、まぁ何というか平穏な世界が展開されていた。

 何か空調装置のようなものでもついているのか、風通しが凄く良いのか、室温は快適。

 兜を脱ぎ足元に置いて寛ぐ鎧姿の戦士職の人がいれば、カウンターで職員と談笑交じりの会話をしている獣のような耳を頭につけた普段着の女性もいる。

 8番の番号札の冒険者さーん、3番カウンターまでどうぞーと丁寧な声がかかると、戦士職の人は兜を手に持つと立ち上がり

 施設内に入ってすぐ正面にある受付の方まで歩き始めた。

 その雰囲気はどちらかと言うと、待合室。病院や役所か…さもなくば少し静かな雰囲気のレストランと言い換えても良いな。


 そう思っていると、どうやら本当にレストランが併設されているらしい。

 席数で言えば20か30といった小規模なモノだがほぼ満席。

 座っている人たちもお茶や軽食を片手に何事かを話し合っている。



「い、意外と落ち着いた感じだな…俺はもっと、乱雑としているのかと思ったよ…」

「そうですねぇ…私はこの空気好きかも知れません」

「俺もだよ、とりあえず登録しに行こうか」



 恐る恐る歩を進ませ始めると、たまに俺達を伺うような視線が向けられてくる。

 だがそれで絡まれるような事もなく大半は俺達に興味をなくして、そのまま自分達の会話やら食事やらに戻っていく。

 うーん…何というか本当に、近代的だ…凄く居心地がいい。


「おいアンタ、そこの黒髪と褐色の二人連れ、アンタらだよ」


 安心しきりながら、さて俺達が並ぶべきカウンターはどこだろうか、と思ってあたりを見渡していると唐突に声がかけられた。

 まずい!とうとう絡まれてしまったか、と身体をビクつかせながらそちらを向くと、そろそろ青年から中年に突入しようかという男が顎鬚を投げまわしながら、そこに立っている。

 大将には及ばないがその人物も巨漢で非常に逞しい体付きをしている、目つきも鋭いしめっちゃ怖い。


「は、はいなんでしょう…?」


 中年のおっさんはジロジロと俺達を上から下まで無遠慮に見回すと一つ頷いて。


「違ってたら悪いんだけどよ、新人さんなら二階の一番左側にあるカウンターだぜ

 左ってわかるか?文字がよめねぇんなら代筆もしてあるから先に言えよ、アイテムの持込なら裏の査定申請場だ、こっちはちと複雑だから職員にもう一度聞いてくれ」


「え、あ…はい、ありがとうございます…新人です、二階…ですね」


「そうだぜ、若いの…最初は稼ぎも少なくて副業でもやってないと、苦労するかも知れないがな…頑張れよ」


 おっさんはチラリとアイリを見ると、俺の肩を叩くとにんまりと不器用に笑ってみせる。

 アイリの方をみてたってことは何を勘違いしているのか知れない…かも?


 しかし、しかし何て事だろう。

 絡まれると思ったおっさんはメチャクチャ良い子だった、思わず自分が恥ずかしくなってきてしまう。


「ありがとうございます、頑張ります」

「おう!若いのは返事がなってこそだな、ははは」


 その恥ずかしさをごまかすように、俺は思い切りおっさんに頭を下げたのであった。









「冒険者ギルドへようこそ!我々は新しき冒険者の誕生を祝福致します!」


 登録カウンターといわれる場所に行き、幸運にも順番待ちをすることなく新規登録である事を告げ

 差し出された用紙に自分の名前や性別に大体の登録年齢などを書いていく。

 ある程度はボカすために出身地や自己申請式の特技欄などは空白にしていたりしている。


 そして用紙の一部が埋まった所で職員に差し出し返す。

 アイリの分の登録用紙も俺と同じように空白の部分が少々目立つくらいだ。


 この間、受付カウンターにたったままだったがこれまた幸いな事に後ろから新しい登録者は現れる事もなく、咎められたりはしなかった。

 職員のお姉さんは二人分の用紙を上から下まで眺め終わると、その紙を持って立ち上がって登録内容の最終確認をしたあと

 01番と02番の札を俺達に渡してカウンターの奥へと去っていく。 


 備え付けのソファーで二人して周りを見渡したり、色んな談笑をしたりして30分ほど経った頃

 01番の新規登録者さーんと呼び出されアイリと共に席をたつと新規登録カウンターへ。


 俺達が二人で来たのを幸いと思ったのか、受付の人は二枚のカードを取り出すと、こちらがギルドカードになりますと紹介。

 …カードというには少し味気ない、じゃっかん厚めの鉄製の板に俺の名前やらが記録されたモノを受け取って、先ほどの台詞だ。


 冒険者のカードというには少しばかり安物感が漂うソレを前にしていると、彼女はこんな反応はみなれたものだったのだろう。


「まだ登録したばかりの新人ですから、こんな感じになるのはしょうがないんです

 これからどんどん実力を認められてランクが上がっていくと、そのカードもソレにあわせて豪華になっていく仕様なんですよ」


 そういわれてしまっては、なるほどとしか言えなくなってしまい、簡単なギルドの規約をアイリと二人で聞いていく。

 違約はするな、損失を与えるような行動を取るな、冒険者という存在の看板を背負っていると思ってください

 それから、俺達は冒険者という所属と身分が与えられる事になるが、そこまで絶対的なモノではないので注意してね。


 そんな感じの説明を軽く頭に叩き込まれながら手に入れました、この世界の身分。

 今日から俺も冒険者! 



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