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とりあえず大事なのは休むところ

 大将がその言葉を発したとき、不思議と動揺は少なかった。

 まぁ適当についた嘘がバレてるのにごまかしたりする気もなかったし、やっぱりわかったかーって気分だ。

 見れば他の部下達も別に殺気立ったりした様子もなく、軽く世間話でもするかのような気軽さを見せている。


「まぁとりあえず歩きながら話そうぜ」


 散歩にでも誘うような口調に頷いて、のんびりとした歩調で歩き出す彼にあわせ俺達も歩き出す。

 ちらりと隣を横目で伺うとアイリのヤツは浮かべた笑顔に少しだけ不穏なモノを混ぜていた。

 まだ数える程の時間しか経ってないというのに、一気に彼女の表情を見るのが上手になったなぁ俺も。

 日本じゃあ空気読めないなんて言われていたのが嘘みたいだ。


  

「どの辺りから気がついてました?」

「おぉ?良いのかいあっさりと認めちまったりして」


「…コウタ様」

「大丈夫だよ、別にバレても困る事ないし……まぁ、本当は僕達旅人なんですよ」


「ははっ旅人ってのも胡散臭いぜ…おっと、どの辺りからだっけか?そりゃオマエ、眼が覚めてからすぐにだよ、戦ってる最中は詳しく見る余裕なんてなかったかんな」



 大将が目覚めてからすぐにってそれ最初からってことじゃん、幾らなんでも早すぎるだろ。

 ちょっと自分の演技とかに自信がなくなったりしつつも、歩いていると色んな人とすれ違う。


 この人たちのように皮の鎧や金属製の防具に身を包んでる人も結構多いし、普通の街人の姿はもっと多い。

 普通のと言いはするが、そこは俺の中では見慣れないファンタジーな世界の街人。

 日本のそれよりも使い古された衣類や、大きな網カゴに野菜やらパンを載せて歩く人々は、ちょっとした感動モノだ。


「旅をするには装備が貧弱すぎる、商売をするにしても夫婦で行商、しかも扱うのが金だなんて少し違和感が強いよなぁ」

「ああ、やっぱり…すいません、俺らあんまりそういうの詳しくなくて」

「……コウタ様…」



 あら、アイリのヤツが泣きそうな顔になってしまう。

 多分その嘘を咄嗟に口に出したのが自分だという負い目を感じているんだ。


 手を伸ばしてアイリの手を掴み、力強くコチラに引き寄せる。

 一瞬だけ驚いたように身を竦ませたが、すぐにその力に逆らわず俺にぴったりと寄り添うように歩き出す。


「あー…言っちゃなんだけどさ、あんたらみたいな格好で外に出るなんて自殺行為なんだよ

 マジックアイテムでも所持してるのかと思ったけど、そんな気配はない…護衛もいる気がしない、まぁアイリさんが強いから必要なかったといえばその程度なんだけどさ」


「確かにそうだ…俺達みたいなのがいたら、俺だって疑ってかかるわな…うん、そうなると旅人ってのも無理があったわ…」


 わかれば良い、と頷く大将の言葉を覚えておく事にする…確かに殆ど手ぶらで歩いてる旅の商人、とかないわな。

 旅人もだめ…となると、あれ…じゃあ、なんて言えばよかったんだ………?


「村人?」

「オメェらみてーな上等な服来た村人がいるかアホ!」

「ごもっとも!」


 アハハハハハハ!と俺達の間で盛大に笑い声があがると、一体何の騒ぎかと気になった通行人が何名か振り返って俺達のほうを確認する。

 そしてすぐ隣に寄り添って歩くアイリの姿を見つけてはぼんやりと見蕩れて行ってしまう。

 たまに、反対側から来る人もアイリを見ては足を止めてしまうので、なんだか変な意味で注目を集めてしまっている気がしてならない。



 かと思えば団長は歩いていた通りに面した建物からぶら下がった看板を見ると、彼もまた足を止める。

 ついでに一緒に歩かせていた馬を器用に立ち止まらせると、他の団員も追従してぴたりとその場で待機。


「おっと、ここが宿みたいだぜ…部屋空いてっか聞いてくっからオメェらは待ってろ」


 へーい!というやる気の抜けた返事が聞こえる前に団長が扉を開けて店の中へと入っていく。

 来客を告げるベルのカランッという澄んだ音が耳に心地いい。

 それと入れ替わるようにローブのフード部分を脱ぎ、青髪を晒した線の細い彼が近づいてくると。





「君達があの場で不自然じゃないように言うなら、この街の人間が一張羅を着て、森にデートに来たっていうべきだったね」

「はぁ…デートですか、でも良いんですか?森の中には魔物もいるんでしょ?」

「うん、でもこの辺りは開拓が進んで安全になってきてるし、近くの村人や街なんかにいる樵が森に入ったりもするから」

「そっかぁ…わざわざありがとうございます」

「礼には及ばないよ、それで君達何者なんだい?」


 少しの間、空気が凍りつく。

 見れば残りの3人も興味深そうな視線をコチラに向けていた。


「この街の人間で、一張羅で森までデートしにいってました」


 何ていおうか考えていると横からすかさず声が聞こえた。

 言わずと知れたアイリだ、ナイスフォロー!


「ま、まぁそういう事で!」

「……うん、正しいんだけど何だか納得しないね、いえない事情でも?」

「いえ別にそういう訳ではないんですけど…何だか実際に話すと荒唐無稽過ぎて、信じてもらえないかなぁと」



 異世界から来ました、なんて言ったら俺だったら頭のおかしい人間扱いをする。

 が、場合によっては地球からの人間が珍しくないパターンだってあるし…後でそれとなく言ってみてもいいかも知れないな。


 何をするにも事情を知ってる人にお話を聞くというのは大事だし、それが彼らであることに何が問題あろう。

 よし、そうと決まれば晩飯時にでも一杯やりながら彼らと話でもするか…そう決めると、店の中から大将が顔を覗かせた。

 

 タイミングが良いな…彼は軽く手振りで店の裏を示すと、団員達はそれにしたがって馬をそちらへと連れて行く。

 残ったのはローブの青年と俺達だけだ。


「代金は銅貨で30枚、銀貨で払ってくれれば割引が利くそうだ…兄ちゃん達もここで良いか」

「えぇまぁ俺は構いませんよ…お金なら姫から貰った謝礼がたっぷりありますし」


「かーっ羨ましい話だ…今から強盗でもすっかなぁ」

「…してみますか?」


 大将の冗談にアイリが鋭い目つきで返しているが、彼としてはたまったものではないらしい。

 軽く両手を挙げると降参のポーズを取り、首を振った。


「冗談だよ、さ…ここで立ち話もなんだ、店に入っちまおうぜ、今なら三階の窓際が一部屋空いてるらしいから、そこが兄ちゃん達の部屋になるな、俺達は二階と一階だ」










 店の主人の話がいっていたのか、姫から貰った銀貨で支払いは一瞬のうちに終わってしまい、店主にも言われた3階の窓に近い部屋は、同時に通りに面した部屋でもあった。

 日当たりは良好で、客がいないせいか閉じっぱなしだった木窓を開けると、太陽の光とそれから窓の向こうの喧騒が聞こえてくる。

 部屋の中にはベッドが一つとテーブルと、作業台も兼ねた木製のデスクに似た机が一つ。

 そして貴重品を入れておけるらしい、結構なサイズの鍵付きのクローゼットが置かれていた。


 これは店に金を払うときに貴重品を保管したいなら、追加で銅貨20枚で使えるといわれたので、銀貨の支払いに入れておいた。

 大将が言うには店のサービスというには少々割高らしいが

 何でも冒険者の人たちがこれの契約をした後、鍵を持って外に出かけていきそこらで野垂れ死ぬと鍵を再び作るのにも結構な費用がかかるらしい。

 その為の値段らしかった……。


 しかし俺達は当面、危ない事をするつもりはないし命を失ったりする予定もない。

 店主から渡された鍵でクローゼットを開けると、金貨やバングルを隅っこの見つかりにくい方にかくして、再び鍵をかけなおす。


 勿論、鍵はアイリが持つように言っておいた。




「さて、これからの話をしようと思う」


 質素な木製の椅子に腰をかけ、テーブルに頬杖をつく。

 アイリはしっかりとした表所で椅子に座り姿勢を正し、俺の言葉を一言も聞き逃さんとしている。

 別にそこまで緊張する事はないんだけどな、どちらにしろ簡単な事しか言わないつもりだ。



「まずはここが俺のいた日本じゃない、これだけはもう疑いようがない事実だけど、この世界の名前も何もわかってない

 となれば情報が欲しい、ソレは些細な事でも良いし、俺以外にも日本から来た人間は過去から今にかけているのか

 いたとしたらそいつらは、どうなったのか」

「具体的に言えば、この地に骨を沈めたのか否かですね?」

「そうだ」



 帰りたい、という気持ちは今のところ全体的に優先されるべき事柄である。

 となれば過去に日本人がトリップして帰った、という事例があれば、それは追いかけるべきことだろう。

 …幸いにして現地民である大将達とは言葉が通じた、これがどういう理屈なのかはわからないけどな。

 この調子で文字が読めてくれれば、世界中の文献やらを探して回る事が可能になる。


「よって、一つ目の目的は情報の収集だ。

 二つ目はそうだな…シャンミール姫から貰った謝礼が尽きた時のために、自由に出来る資金をたくさん作っておきたい」


 人は金に弱い。金で買えないもの、解決できないことは確かに多いが、金を積みに積めば何とか出来る事柄もまた実に多い。

 そういう時の為に、どんな貪欲者でも思わず目が眩むような資金を持っておきたい…と、つい考えてしまう。


「だから二つめは金稼ぎだけど、これは優先しなくていい

 金は大事だけど、それで危ない橋を渡る可能性があるなら無視したい」


「コウタ様に降りかかる災いは全て排除します、それこそお望みとあれば一瞬で」


 きっぱり、とアイリの力強い言葉は頼もしいと同時にちょっと怖い。

 ついでに言うと何でもかんでも彼女に頼りっぱなしで良いのかな、と思ったりもしたが……

 まぁ、そんな事は今さらである、頼りにされるのがアイリとしても嬉しいのであれば、頼りにしていくべきだよ、うん。


「じゃあ、アイリの無理しない範囲でね…で、俺は思ったんだけど時々、大将たちが口にするギルド、とか冒険者、とかあるんだけど

 俺が思うに、そこに所属すると金を稼げるんじゃないかって思うので、俺達もそちらに行ってみようと思います…危ないことがあるかもしれないけど、アイリ…いけるか?」



 お任せください余裕です、とアイリの静かな返事を聞きながら瞼を閉じて考える。

 金と情報……後何が必要かな…コネ?うん、コネは大事だけど、今は手に入るかどうかもわからないし、とりあえず置いておこう。

 そうなると、ひとまずはこんな所なのかな……?


 何度か考え直してみても、とりあえずその二つがあれば何とかなるだろう、という楽観的な観測が俺の頭から離れない。

 冒険者の所に行き、可能であれば自分達もなる…という行動には、金を稼ぐ以外にも幾らかの理由も混ざっているのだが、それは今はいいだろう。

 なるべく考えないようにしておきたい事だ

 なのでひとまずは頭を振り、アイリのほうを見ながら。


「とりあえず冒険者とかギルドにいって登録できるならしておく、そして金を稼ぐ。そのついでに情報を集める…この街にはソレまでしばらく滞在する

 これで行こうと思う、大丈夫か」

「勿論です、コウタ様が望むのでしたら、それに異議を挟むなどありませんからね」



 いつもどおりに応える満足そうなアイリの顔を見ながら、とりあえずの方針が決まったようだ。

少し低迷気味ですね、さっくりと話を進めるために少し話を巻いていくかも知れません

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