↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第2章 新しい異世界カーテンの向こうで大商売!
PR
88/135

第28話 信用値9999の男――異世界をつなぐ黒い取引網

「レン、これって……どういうこと?」

ミリアが、スマートフォンの画面をのぞき込んだ。

【未知の取引網を検出】

【接続先:複数の異世界】

【月影の羽との関連:高】

地下二階で見つかった黒い魔道具。

そこから回収された記録には、この街の信用値を操作した形跡だけでなく、別の世界へ情報を送信した痕跡まで残されていた。

「異世界をまたぐ取引網か……」

ガルドは難しい顔で腕を組んだ。

「普通の商人が持つ情報網とは違う。商人の信用値を調べ、取引先を選別し、場合によっては商売そのものを潰すこともできる」

「そんなことができるなら、商売を始める前から勝負が決まってしまいますね」

レンの言葉に、バルトがうつむいた。

「俺も、そうやって潰されたのか……」

「まだ断定はできません。でも、調べる価値はあります」

レンは画面を操作した。

すると、地図のような表示が浮かび上がった。

この街、セントラル。

その隣にある商業都市。

さらに遠くの港町。

そして、それぞれの都市から伸びる線が、ひとつの名前に集まっていた。

ヴァルド商会。

「ここが、取引網の中心なのか?」

ガルドが身を乗り出した。

「可能性はあります。ただ、情報を集めている場所と、指示を出している場所が同じとは限りません」

レンは慎重に答えた。

「まずは、実際に商売をして確かめましょう」

「商売?」

バルトが首をかしげた。

「まさか、こんなときに売り買いをするのか?」

「こんなときだからです」

レンは少し笑った。

「帳簿だけでは分からないこともあります。実際に取引を申し込んで、相手がどう反応するかを見るんです」

ガルドが、にやりと笑った。

「なるほど。商人らしい調べ方だな」

「それに、俺たちが調査していることは、もう向こうにも知られているかもしれません。なら、こちらから動いたほうがいい」

セレナが満足そうにうなずいた。

「さすが私の未来の夫。考え方が商人らしくなってきたわね」

「ありがとうございます。でも、未来の夫はまだ決まっていません」

「では、これから決めましょう」

「今、決めなくていいです!」

モモがレンの頭の上に飛び乗った。

「モモも商売する!」

「モモは何を売るんですか?」

「おいしいお菓子!」

「仕入れ先は?」

「レン!」

「俺が仕入れるんですか!」

「だって、モモはお金持ってないもん!」

ガルドが吹き出した。

「こいつは、なかなか商人の才能があるぞ。仕入れは他人任せ、利益は自分のものだ」

「それは商人というより、ただの食いしん坊です!」

「失礼だよ、レン!」

いつものやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。

しかし、レンはすぐに表情を引き締めた。

「明日、ヴァルド商会に取引を申し込みます」

こうして、調査を兼ねた商談が始まることになった。

     ◇

信用値9999の商人

翌朝。

ヴァルド商会は、セントラルの中央広場に面した立派な建物にあった。

白い石造りの壁。

金色の看板。

入口には護衛が立ち、出入りする商人たちも上等な服を身につけている。

「ずいぶん立派な店ですね」

レンが見上げると、ガルドが小声で答えた。

「この街で最も信用されている商会だからな。大きな取引を任され、銀行の融資も優先される。信用値が高ければ、それだけ有利になる」

「でも、信用値が9999なんて、普通なんですか?」

「いや。ほぼ最高値だ。しかも、あの商会の代表ローデンは、ここ数年で急激に信用値を伸ばしている」

バルトが苦々しげにつぶやいた。

「俺の信用値が落ちた時期と重なるな……」

レンは入口の受付へ向かった。

「日本から来た商人、佐伯蓮と申します。保存食品と日用品の取引について、代表のローデンさんとお話ししたいのですが」

受付係は、レンの登録証を確認した。

その瞬間、表情が変わった。

「佐伯蓮……?」

「はい」

受付係は奥の職員に目配せをした。

職員は小走りで建物の奥へ消えていく。

そして、ほんの数分後。

「お待たせいたしました。代表がお会いになるそうです」

あまりにも早い。

レンはガルドと視線を交わした。

(俺たちが来ることを、知っていた?)

通された応接室には、豪華な絨毯と大きな机が置かれていた。

窓際には、一人の男が立っていた。

年齢は五十歳前後。

整えられた髪に、隙のない服装。

そして、相手を安心させるような柔らかな笑顔。

「ようこそ、ヴァルド商会へ。私が代表のローデンです」

「佐伯蓮です。今日はお時間をいただき、ありがとうございます」

二人は握手を交わした。

その瞬間、レンのスマートフォンが震えた。

【取引対象を検出】

【ローデン】

【信用値:9999】

【特別補正:継続中】

レンは顔に出さないよう、そっと画面を伏せた。

「あなたのことは、存じていますよ」

ローデンが椅子を勧めながら言った。

「異世界の商品を扱い、信用値ゼロから短期間で評価を得た商人。さらに、信用を失ったバルト氏の再起にも協力しているとか」

「耳が早いですね」

「商売では情報が命ですから」

ローデンは優雅に微笑んだ。

「ところで、今日はどのような商品をお持ちですか?」

レンは持参した見本を机に並べた。

保存食品。

丈夫な布。

小型の照明器具。

そして、試供品として用意した菓子。

「いずれも品質には自信があります。まずは少量から取引を始め、問題がなければ継続的に納品したいと考えています」

ローデンは商品をひとつずつ確認した。

「品質は確かに良さそうですね。ですが、私が知りたいのは別のことです」

「何でしょう?」

「あなたは、信用値をどのように考えていますか?」

予想していなかった質問だった。

レンは少し考えてから答えた。

「信用値は、取引の判断材料のひとつだと思います。でも、数字だけで相手を決めるつもりはありません」

ローデンの笑みが、ほんのわずかに深くなった。

「興味深い考え方です」

「信用値が高くても、約束を守るとは限りません。反対に、信用値が低くても、誠実にやり直そうとしている人はいます」

隣でバルトが静かにうなずいた。

「ですから、実際の取引を通じて判断したいんです」

ローデンはしばらくレンを見つめていた。

やがて、机の上の書類を一枚取り出した。

「では、ひとつ提案があります」

そこには、大量の保存食品を納入する契約が記されていた。

「この契約を引き受けていただけませんか?」

レンは数量を確認した。

通常の商人なら、すぐには用意できないほどの量だ。

しかも、納期は短い。

「かなり大きな取引ですね」

「ええ。あなたの実力を見せていただきたいのです」

ローデンは笑顔を崩さなかった。

「もちろん、納品できれば信用値の評価にも反映されるでしょう」

レンは書類を閉じた。

「申し訳ありません。この条件のままでは、契約できません」

ローデンの眉がわずかに上がった。

「理由を伺っても?」

「納期に対して数量が多すぎます。無理に引き受ければ、品質管理が難しくなります。それに、納品先や受領確認の方法も明確ではありません」

レンは書類の該当箇所を指さした。

「条件を調整できるなら、前向きに検討します」

部屋の空気が変わった。

受付係が、驚いたようにレンを見た。

信用値9999の商人からの大口契約。

普通なら、信用を得るために飛びつく話だ。

しかし、レンは断った。

ローデンは数秒黙ったあと、静かに笑った。

「なるほど。あなたは数字に目がくらまないのですね」

「商売は、続けられなければ意味がありませんから」

「……面白い」

ローデンは契約書を引き寄せた。

「では、数量を三分の一に減らしましょう。納品先も明記します。受領確認については、双方の署名を必要とする形に変更しましょう」

「それなら検討できます」

「よろしい。契約書は修正して、後日お渡しします」

商談は、意外なほど穏やかに終わった。

だが、レンは部屋を出る直前、ローデンが机の下で小さな魔道具を操作するのを見た。

その瞬間、スマートフォンが震えた。

【未知の通信を検出】

【接続先:未登録】

【送信内容:取引対象の評価情報】

レンは足を止めた。

ローデンは、何事もなかったように微笑んでいる。

「またお会いしましょう、佐伯さん」

「……はい。また」

レンは応接室を出た。

そして廊下の角を曲がったところで、ガルドに小声で告げた。

「今、通信がありました」

「何?」

「俺たちの評価情報を、どこかへ送っていたようです」

ガルドの顔が険しくなる。

「やはり、この商会は取引網とつながっているのか」

「まだ確証はありません。でも、調べる必要があります」

そのとき、バルトが立ち止まった。

「……あの男を、俺は見たことがある」

「ローデンさんを?」

「ああ。三年前、俺の信用値が落ちた直後だ。取引先の商人たちが離れていく中で、俺の店の権利を買い取ろうとした商会があった」

バルトは悔しそうに拳を握った。

「その代理人が、ヴァルド商会だった」

レンは、ゆっくりとうなずいた。

疑いは、確信に近づきつつあった。

だが、まだ証拠が足りない。

そして何より、ローデン本人が黒幕だと決まったわけではない。

「焦らず、取引記録を集めましょう」

レンは言った。

「相手が商人なら、商売の中に必ず痕跡が残ります」

     ◇

バルトの再出発

商業組合へ戻ると、監督官から新たな知らせが届いていた。

三年前の記録を再調査した結果、バルトの信用値には不正な減点が加えられていた可能性が高い。

ただし、契約違反そのものは事実として残るため、信用値の全面回復はまだ決まっていないという。

「そうか……」

バルトは、報告書を見つめた。

以前なら、ここで怒りを爆発させていたかもしれない。

だが、今は違った。

「俺がやるべきことは、まだあるな」

「ありますね」

レンはうなずいた。

「被害を受けた取引先への説明と、返済計画の実行。それを続けていけば、少しずつ信用を取り戻せるはずです」

「簡単じゃないだろうな」

「簡単なら、信用を取り戻す意味もないでしょう」

バルトは顔を上げた。

そして、ゆっくりと笑った。

「……あんた、商人らしいことを言うようになったな」

「最初から商人ですよ!」

「いや、最初は異世界から妙な菓子を持ってくる変な奴だと思っていた」

「妙な菓子って何ですか!」

モモがすかさず口を挟む。

「ポテトチップスは妙じゃないよ! おいしいよ!」

「モモは黙っていてください」

「なんでー!」

笑い声が広がる。

その中で、バルトは深く頭を下げた。

「レン。俺はもう一度、自分の店を持ちたい。今度は、誰かの信用を奪うんじゃなく、自分の仕事で信用を積み上げたいんだ」

「そのときは、俺も取引相手になります」

「本当か?」

「もちろんです。ただし、契約条件は厳しく確認しますよ」

「ははっ! それでいい!」

バルトの目には、久しぶりに前を向く力が戻っていた。

事件はまだ終わっていない。

けれど、失われたものを取り戻すための一歩は、確かに始まっていた。

     ◇

月影の羽が示すもの

その夜。

宿に戻ったレンたちは、回収した記録とスマートフォンの表示を照らし合わせていた。

ミリアは、月影の羽を小さな布の上に置いた。

「やっぱり、この羽が通信の痕跡に反応している」

「つまり、異世界をつなぐ力があるってこと?」

レンが尋ねる。

「そう。ただ、月影の羽だけで取引網を作れるわけではないと思う。別の魔力や装置も必要なはずよ」

ガルドは帳簿を閉じた。

「誰かが、複数の世界にある商業制度を利用している。信用値を操作し、商人を追い詰め、利益を特定の組織へ集める。そのための仕組みを作ったのだろう」

「でも、どうしてそんなことを?」

バルトが尋ねる。

「金だけが目的なら、ここまで大がかりにする必要はない」

セレナが静かに言った。

「取引網そのものを支配したいのかもしれませんわね。どの商人が成功し、どの商人が失敗するのか。それを決められる立場になれば、世界の商売を思いどおりに動かせます」

レンは、スマートフォンの画面を見つめた。

【未知の取引網】

【接続先:複数の異世界】

【新規情報を検出】

画面に、新しい地名が浮かび上がった。

黒曜港。

そして、その下には短い文章が表示されていた。

【次の取引網中継地点】

「黒曜港……」

ガルドが地図を広げた。

「この街から西へ向かった先にある港町だ。複数の世界から商品が集まると聞いたことがある」

「なら、次はそこですね」

レンが立ち上がった。

そのとき、モモが月影の羽に近づいた。

「ねえ、レン。これ、さっきから少し変だよ」

「どうしたんです?」

「羽がね、黒曜港のほうを向いてるの」

確かめるように、モモが羽をそっと持ち上げる。

羽の先端から、淡い光が伸びた。

その光は、スマートフォンに表示された黒曜港の文字と重なる。

ミリアが息をのんだ。

「偶然じゃない。月影の羽が、何かに反応している……」

レンは仲間たちを見渡した。

「明日、黒曜港について調べましょう。いきなり乗り込むのではなく、まずは港の取引記録と、ヴァルド商会とのつながりを確認します」

「賛成だ」

ガルドがうなずいた。

バルトも立ち上がる。

「俺も同行させてくれ。三年前の取引が関係しているなら、知っていることがあるかもしれない」

「もちろんです」

セレナは、当然のようにレンの隣に立った。

「私も一緒に行くわ」

「セレナさんは竜王国との調整もありますし……」

「レン」

「はい?」

「私は、あなたと一緒に行きたいの」

いつもの冗談めいた口調ではなかった。

レンは一瞬、言葉に詰まった。

そして、少し照れながら答えた。

「……分かりました。一緒に行きましょう」

セレナは、ぱっと笑顔になった。

「約束ですわね」

「はい、約束です」

その横で、モモが元気よく手を上げた。

「じゃあ、黒曜港にもおいしいお菓子があるかな?」

レンは苦笑した。

「調査が先ですよ」

「調査しながら食べればいいんだよ!」

「そういう問題じゃありません!」

笑い声が宿の部屋に響いた。

しかし、窓の外では、夜の闇の中に一羽の黒い鳥が舞い降りていた。

その足には、小さな紙片が結ばれている。

紙片には、短くこう書かれていた。

『境界商人、黒曜港へ向かう。計画を次の段階へ移せ』

鳥は再び夜空へ飛び立った。

そして、遠く離れた港の倉庫で、一人の男がその知らせを受け取る。

男は紙片を読み、静かに笑った。

「ようやく来るか、境界商人……」

その背後には、異なる世界の貨幣と商品が、山のように積み上げられていた。

「信用など、数字ひとつで変えられる」

男は窓の外を見つめた。

「ならば次は、お前の信用を試してやろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。