第24話 全員集合!地下潜入大作戦
「地下に行くなら、全員で行こう!」
レンがそう宣言すると、宿屋の部屋に集まっていた仲間たちが、一斉に顔を上げた。
「全員って、誰を連れていくつもりだ?」
ガルドが腕を組む。
「ミリア、セレナ、モモ。それから……ガルドさんにも協力してほしいです」
「私も行くわよ」
銀色の髪を揺らしながら、セレナが当然のように言った。
「レンの危険な仕事を、未来の妻である私が放っておけるわけがないでしょう?」
「まだ妻じゃないですよ」
「未来の話よ?」
「未来の話でも決定事項にしないでください!」
セレナは涼しい顔で微笑んだ。
「照れなくてもいいのに」
「照れてません!」
その横で、ミリアが地図を机に広げた。
「話を戻そう。商業組合の地下に入るんだろう? 正面から許可を取るのは難しいんだったな」
「はい。でも、無理やり侵入するつもりはありません」
レンは、古い建物の図面を取り出した。
「元管理人から、地下二階の鍵を預かりました。ただ、扉は中から封じられているそうです」
「中から封じられている?」
ミリアの表情が険しくなる。
「誰かが閉じ込められている可能性もあるのか?」
「まだわかりません。だからこそ、準備を整えてから行きたいんです」
ガルドが図面をのぞき込んだ。
「地下に入るなら、全員が同じ役割をする必要はない。得意なことを分担しよう」
「そうですね!」
レンはさっそく紙に作戦を書き始めた。
◇
作戦会議! それぞれの役割
レンは、机の上に五つの札を並べた。
一、レン――交渉と記録の確認
「俺は商業組合に正式な調査を申し入れます。地下の資料を確認する正当な理由を作るのが第一です」
「許可が下りなかったら?」
ミリアが尋ねた。
「その場合は、元管理人に案内してもらえるか相談します。鍵を使うのも、管理人の立ち会いと必要な許可を確認してからです」
二、ミリア――魔法による安全確認
「私は魔力の反応を調べる。危険な魔法や、動く仕掛けがあれば先に気づけるかもしれない」
「頼りにしています」
「任せろ。ただし、知らない仕掛けを勝手に作動させるようなことはしないぞ」
三、セレナ――身分と交渉の補助
セレナは優雅に胸を張った。
「商業組合には、竜王国との取引実績を示せるわ。正式な調査を求める際にも、私が同行すれば話を聞いてもらいやすくなるはずよ」
「さすがセレナさん!」
「それに、レンが困ったらすぐ助けられるもの」
「ありがとうございます!」
「もちろん、未来の妻としてね」
「そこは付けなくていいです!」
四、ガルド――商取引記録の照合
「俺は古い契約書や納品記録を見る。商人の帳簿なら、数字の不自然さは見抜けるかもしれん」
ガルドは真剣な顔で続けた。
「バルトが約束を破った事実と、誰かが記録を改ざんした可能性。この二つは分けて調べなきゃならん」
バルトが深く頭を下げた。
「お願いします」
五、モモ――小さな案内役?
最後の札を見て、モモが目を輝かせた。
「ついにモモの出番!」
「月影の羽と共鳴したことがあるから、地下に不思議な魔力があれば反応するかもしれない」
レンが説明すると、モモは小さな胸を張った。
「任せて! 怪しいものを見つけたら、すぐ報告するよ!」
「絶対に勝手に触らないこと」
「……見るだけ?」
「見るだけ」
「匂いを嗅ぐのは?」
「ダメ」
「味見は?」
「もっとダメ!」
「地下って、厳しいところなんだね……」
モモはしょんぼりと肩を落とした。
「あと、モモがフェアリーの姿でいられる時間もわかっていない。変身を無理に続けるのは避けよう」
「はーい!」
こうして、それぞれの役割が決まった。
最後にレンは、全員の顔を見渡した。
「もう一つ、約束してください」
「何だ?」とガルド。
「危険を感じたら、すぐに撤退すること。証拠より、仲間の命が大切です」
誰も反対しなかった。
◇
第一関門――地下へ入る許可
翌朝。
レンたちは商業組合へ向かった。
今回はレンとセレナが正面から交渉し、ガルドとバルトが取引記録を用意する。
ミリアとモモは、建物の外で待機することになった。
「どうして私は外なの?」
ミリアが少し不満そうに尋ねた。
「中で何かあったら、外から助けられる人が必要です。全員が一緒に閉じ込められたら困りますから」
「……わかった。だが、何かあったらすぐ呼べ」
「もちろんです」
セレナがレンの腕にそっと手を添えた。
「私がいるから安心してね」
「交渉に集中してくださいね」
「ええ。未来の夫のためですもの」
「だから、未来の夫じゃないです!」
受付に到着すると、昨日と同じ女性職員が顔を上げた。
レンは、正式な調査申請書と、旧取引記録管理室の元管理人から預かった紹介状を提出した。
「三年前の取引記録について、原本との照合をお願いしたいんです。元管理人の方も、保管資料の確認に協力してくださるそうです」
職員は紹介状を読み、驚いた顔をした。
「この方は……まだご存命だったのですね」
「ご存じなんですか?」
「旧取引記録管理室の責任者だった方です。ですが、詳しいことは私には……」
職員は声を落とした。
「少々お待ちください」
しばらくして、現れたのはエドガーだった。
「また君か、佐伯蓮」
彼は紹介状を見るなり、眉をひそめた。
「旧管理人まで巻き込んだのか」
「巻き込んだのではありません。ご本人が協力してくださったんです」
「地下区画は閉鎖されている。立ち入りは認められない」
レンは落ち着いて答えた。
「では、旧管理人の方に、現在の保管状況だけでも確認していただけませんか?」
「必要ない」
「なぜです?」
「記録は存在しないと説明したはずだ」
その言葉に、ガルドが一歩前へ出た。
「ならば、存在しないことを確認できる管理記録を見せてもらいたい」
エドガーの視線が、ガルドへ移った。
「君は?」
「商人のガルドだ。記録の照合を手伝っている」
「部外者が口を挟むことではない」
「取引の記録が不明瞭なら、被害を受けた商人への返済計画も立てられない。これは商売の問題だ」
ガルドは一歩も引かなかった。
セレナも静かに口を開いた。
「竜王国との取引でも、記録の保管と確認は重要視されています。正式な照合を拒むのであれば、その理由を書面でいただけますか?」
竜王国の名が出た瞬間、周囲の職員がざわついた。
エドガーの笑顔が消えた。
「……検討する」
「ありがとうございます。回答期限も記載してください」
レンはすかさず書類を差し出した。
エドガーは不機嫌そうに書類を受け取った。
地下へ入る許可は、まだ出ていない。
だが、今度は簡単に追い返されなかった。
◇
第二関門――元管理人からの忠告
商業組合を出たレンたちは、待機していたミリアとモモに状況を説明した。
「許可はまだだけど、正式な照合を検討させることはできたんですね」
ミリアは少し安心したようだった。
「だが、エドガーが時間を稼いでいる可能性もある」
ガルドが言った。
そのとき、通りの向こうから、あの老紳士が歩いてきた。
旧取引記録管理室の元管理人だ。
「話は聞いた。よく正面から交渉したな」
「地下へ入る許可は、まだ下りていません」
レンが答えると、老紳士はうなずいた。
「それでいい。許可もなく地下へ入れば、君たちが悪者にされかねない」
老紳士は、周囲を確認してから声をひそめた。
「ただし、時間はあまりないかもしれない」
「どういうことですか?」
「昨日、商業組合の職員が、古い記録を別の場所へ運び出していた」
全員の表情が変わった。
「運び出した?」
「ああ。どこへ運んだのかはわからない。だが、地下の資料が今も残っているなら、何者かが移動させようとしている可能性がある」
レンはすぐにスマートフォンを取り出した。
【新情報:旧記録の移動を確認】
【記録の所在:不明】
【調査の緊急度:上昇】
「……急がないと」
ミリアがつぶやいた。
「でも、勝手に入るわけにはいかないよ」
レンは考え込んだ。
正規の手続きを待っている間に、証拠が移されてしまうかもしれない。
だからといって、仲間を危険にさらすわけにもいかない。
「元管理人さん。地下への正規の出入口は、今も使えるんですか?」
「一つは、商業組合の建物の中にある。もう一つは、改修工事の際に封鎖された」
「中から封じられているという話でしたね」
老紳士は静かにうなずいた。
「そうだ。だが、あの扉は単なる鍵では開かない」
「どうすれば?」
「地下の記録保管室には、二重の管理機構がある。物理的な鍵と、記録管理責任者の認証だ」
「つまり、鍵だけあっても入れない……」
「そのとおりだ」
レンは仲間たちを見渡した。
「なら、まずは正規の認証を得る方法を探します。元管理人さんにも立ち会っていただけるよう、もう一度申請しましょう」
バルトが不安そうに言った。
「その間に、帳簿が運び出されたら?」
「そのときは、移管記録を追います。どこへ運んだのか、必ず記録が残っているはずです」
レンは強くうなずいた。
「俺たちは、帳簿を盗みに行くんじゃない。真実を確かめに行くんです」
◇
そして、作戦は最終段階へ
その夜。
宿屋の部屋に、仲間たちが再び集まった。
机の上には、建物の図面、正式な申請書、古い鍵、そして元管理人から聞いた情報が並んでいる。
レンは全員の顔を見渡した。
「明日は、商業組合にもう一度交渉します。旧管理人の立ち会いと、記録の移管先を確認するための調査許可を求めます」
「もし、また断られたら?」
ミリアが尋ねた。
「市の監督部署に申し立てます。記録の保全を求めることも検討します」
ガルドが満足そうにうなずいた。
「よし。それなら商人として筋が通っている」
セレナはレンの隣に座り、微笑んだ。
「みんなで力を合わせれば、きっと道は開けるわ」
「はい。誰か一人に危険を押しつけるつもりはありません」
モモが両手を上げた。
「じゃあ、地下に行く前に、みんなでおやつを食べよう!」
「……緊張感がないな」
ガルドが苦笑した。
「だって、作戦会議にはおやつが必要なんだもん!」
「その理屈、どこで覚えたんだ……」
笑いが起きた。
久しぶりに、バルトも声を出して笑った。
だが、その夜。
レンが眠りにつこうとしたとき、スマートフォンが突然光った。
【緊急通知】
【旧取引記録保管区画に異常な接続反応】
【記録の一部が移動中】
【警告:調査対象が消失する可能性】
レンは飛び起きた。
「……今、動かしているのか?」
画面には、もう一つの表示が浮かんでいた。
【確認された移動先:地下二階・封鎖区画】
レンは仲間たちを起こした。
「みんな、起きてください!」
眠そうなモモが目をこすった。
「なに……? おやつ?」
「違う。地下へ行く準備です」
その言葉に、全員の表情が引き締まった。
ついに、動くときが来た。
ただし、無断侵入ではない。
正式な調査を求めながら、記録が失われないよう、全員で行動する。
レンは古い鍵を握りしめた。
「明日こそ、地下の扉の向こうを確かめます」
その先に待っているのは、消えた帳簿か。
それとも、誰かが隠し続けてきた、この街の秘密か。
仲間たちの地下潜入作戦は、いよいよ最終段階へ進もうとしていた。




