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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第2章 新しい異世界カーテンの向こうで大商売!
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第20話 信用値ゼロの商人

「……測定不能?」

取引所の奥で、管理人の男は画面を何度も確認していた。

表示されている名前は、間違いなく佐伯蓮。

しかし、その信用値は数字ではなかった。

【信用値:測定不能】

【境界商人認証:反応あり】

【取引履歴:複数世界に存在】

「こんな記録、見たことがない……」

男は小さく呟いた。

一方、そのことを知らない蓮は、受付の前で待っていた。

「ねえ、蓮」

モモが肩の上から声をかける。

「ん?」

「信用値って、おいしいの?」

「食べ物じゃないぞ」

「じゃあ、いらない!」

「いや、商売するには必要なんだって」

「えー。ポテトチップスのほうが大事だよ」

「お前は本当にぶれないな……」

ミリアがくすくす笑う。

「でも、信用がなければ売れないんでしょう?」

「ああ。だから、まずは信用を作るところからだな」

蓮は受付の壁にある説明書きを読んだ。

この街では、商品を売るにも買うにも、信用値が必要らしい。

取引をして、約束を守る。

相手が満足すれば信用が積み重なる。

逆に、契約を破れば信用を失う。

仕組み自体は理解できる。

だが、問題は――。

「最初の取引相手をどうやって見つけるか、だな」

蓮が呟いた、そのとき。

「お待たせしました」

先ほどの女性職員が戻ってきた。

「取引試験の準備ができました。こちらへどうぞ」

案内されたのは、取引所の小さな部屋だった。

机の上には、三つの箱が並んでいる。

「試験内容は簡単です」

女性が説明を始めた。

「こちらの箱に入っている商品を、必要としている相手に届けてください」

「商品を届ける?」

「はい。ただし、報酬はありません」

「……報酬なし?」

蓮は思わず聞き返した。

女性は頷いた。

「この試験では、利益ではなく、取引相手の評価によって信用値が決まります」

「なるほど……」

蓮は箱を開けた。

中に入っていたのは、小さな水筒、布、そして保存食だった。

どれも珍しい商品ではない。

「この三つを必要としている人を探せばいいんですね?」

「その通りです」

女性が微笑む。

「制限時間は今日の日没までです」

蓮は箱を閉じた。

「分かりました」

     *

取引所を出ると、蓮たちは街を歩き始めた。

「さて、どうするか」

「困っている人を探せばいいんじゃない?」

ミリアの提案に、蓮は頷いた。

「そうだな。必要な人に届ける。それが一番確実だ」

セレナが街を見回す。

「この街の人たちは、みんなカードを持っているわね」

「信用値を記録するカードらしい」

蓮は通りの向こうを見た。

そこでは、荷物を抱えた老人が困った顔をしていた。

足元には、たくさんの小箱が積み重なっている。

「すみません、大丈夫ですか?」

蓮が声をかける。

老人はため息をついた。

「配達の途中で荷車が壊れてしまってね。今日中に届けなければならない品物があるんだが……」

「どこまで運ぶんですか?」

「この先の市場までだよ。でも、私は足が悪くてね」

蓮はすぐに答えた。

「手伝います」

「えっ?」

「荷物を運ぶだけなら、できますから」

老人は戸惑った。

「しかし、報酬は払えないよ」

「大丈夫です。困っているんでしょう?」

蓮は箱を持ち上げた。

ミリアも手伝い、セレナも荷物を抱える。

モモは小さなフェアリーの姿で飛び回り、軽い包みを運んだ。

「モモもお手伝い!」

「落とすなよ」

「落とさないもん!」

……数秒後。

「あっ!」

包みがくるくる回りながら落ちてきた。

蓮が慌てて受け止める。

「モモ!」

「ご、ごめんなさい!」

「次はゆっくり運ぼうな」

「はーい……」

そんなやり取りをしながら、彼らは市場へ向かった。

到着すると、老人は何度も頭を下げた。

「本当にありがとう。これで約束に間に合うよ」

その瞬間。

ピピッ。

蓮のスマートフォンが鳴った。

【取引評価を確認】

【約束履行:確認】

【信用値:1】

「……おお!」

蓮は思わず画面を見つめた。

たった一つ。

それでも、ゼロではなくなった。

「やったね、蓮!」

ミリアが笑う。

「これで最初の一歩だな」

蓮も笑顔になった。

ところが――。

ピピピッ!

今度は、取引所から緊急通知が届いた。

【警告】

【信用値の異常変動を検出】

【対象:佐伯蓮】

「……え?」

蓮が画面を確認する。

信用値が、1から急に変化していた。

【信用値:測定不能】

「いや、戻るの早すぎない!?」

モモが首を傾げる。

「信用値って、忙しいんだね」

「そういう問題じゃないだろ!」

     *

その頃、取引所の奥では、管理人が責任者を呼び出していた。

「間違いありません。彼が登録されました」

責任者は画面を見つめ、険しい顔をした。

「境界商人……。しかも、複数世界で取引履歴がある」

「この街の信用制度では、彼を通常の数値で評価できません」

責任者はしばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりと口を開く。

「ならば、特別な取引を用意しろ」

「特別な取引、ですか?」

「そうだ。彼が本当に信用に値する商人なのか、確かめる」

責任者は画面を閉じた。

「明日、彼に依頼を出す」

その依頼は、この街の商人たちでさえ引き受けたがらないものだった。

     *

夕暮れ。

蓮たちは、街の小さな宿に戻っていた。

「今日は疲れたな……」

蓮が椅子に座る。

セレナが飲み物を差し出した。

「お疲れさま」

「ありがとう」

「それにしても、蓮って不思議ね」

「何が?」

「報酬もないのに、迷わず人を助けるんだもの」

蓮は少し考えてから答えた。

「商売って、商品を渡してお金をもらうだけじゃないと思うんだ」

「うん」

「相手が困っているなら、まず何ができるか考えたい。そういう積み重ねが、いつか商売にもつながるんじゃないかな」

セレナは優しく微笑んだ。

「……やっぱり、私の未来の夫にふさわしいわ」

「そこに戻るの!?」

ミリアが吹き出す。

モモも元気よく手を挙げた。

「モモも未来の何かになる!」

「何の?」

「お菓子担当!」

「それはもう決定してるだろ……」

笑い声が宿に響いた。

そのとき、扉がノックされた。

コン、コン。

蓮が扉を開けると、取引所の女性職員が立っていた。

「佐伯蓮さん。明日、あなたに特別な取引依頼が届きます」

「特別な取引?」

「はい」

女性の表情は、いつになく真剣だった。

「この街の信用制度そのものに関わる、大切な依頼です」

蓮は目を見開いた。

「……分かりました。引き受けるかどうかは、内容を聞いてから決めます」

女性は少し驚いたあと、微笑んだ。

「それでこそ、商人ですね」

扉が閉まる。

蓮は窓の外に広がる街を見つめた。

この世界では、金貨よりも信用が大切。

ならば、明日の取引で試されるのは――。

自分が、何を守れる商人なのかということだ。

そして翌朝。

蓮のもとに届いた依頼書には、こう書かれていた。

『信用を失った商人を救ってほしい』

その商人は、この街で最も嫌われている人物だった。

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