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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第2章 新しい異世界カーテンの向こうで大商売!
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第19話 金貨が使えない世界

「金貨が使えないって、どういうことだ?」

湖底から戻った蓮は、部屋のテーブルに帳簿を広げていた。

その隣には、二つのアイテムが並んでいる。

月影の羽。

大地の印。

そして、二つのアイテムと共鳴する星実。

これで、新しい世界へ進む条件は揃った。

……はずだった。

「金貨が使えないなら、銀貨を使えばいいんじゃない?」

ミリアが言った。

「いや、そういう問題じゃない気がする」

蓮は帳簿の最後のページを指さした。

『次の世界では、金貨は価値を持たない』

「わざわざ書いてあるんだ。何か理由があるんだろうな」

セレナは腕を組んだ。

「竜王国でも、ヴェルナでも、金貨は価値のあるものよ。それが通用しない世界なんて、想像できないわ」

「俺もだよ」

蓮はスマートフォンを取り出した。

画面には、新しい接続先の情報が表示されている。

【接続条件:達成】

【接続先:未登録世界】

【商業規則:未確認】

【通貨情報:未確認】

「やっぱり、まだ何も分からないか」

「だったら、行ってみるしかないね!」

モモが元気よく飛び上がった。

「新しい世界! 新しいお菓子!」

「お前、目的がお菓子になってるぞ」

「大事なことだよ!」

モモは小さな手を腰に当てた。

「お菓子がない世界だったら、モモは悲しいもん」

「……その世界にも食べ物くらいあるだろ」

「プリンがあるとは限らない!」

「そこが一番重要なのか……」

蓮は笑いながら、出発の準備を始めた。

今回ばかりは、いつものように商品を大量に持っていくわけにはいかない。

まずは現地の通貨と商業規則を調べる。

それから仕入れと販売を考える。

商人として、基本を忘れてはいけない。

「持っていくのは、水、保存食、少量のお菓子。それと交換用の商品を少し」

「ロールケーキは?」

セレナが尋ねた。

「今回は持っていかない。あれは日本のケーキ屋さんから仕入れる数量限定品だからな。まずは新しい世界の様子を確認したい」

「賢明ね」

「ポテトチップスは?」

モモが聞いた。

「少しだけ」

「やったー!」

モモの喜びように、蓮は思わず苦笑した。

こうして、一行は出発した。

     *

カーテンを開ける。

いつもの部屋の窓の向こうに、見慣れない光が揺れていた。

蓮は深呼吸する。

「よし。未知の世界へ出発だ」

一歩、踏み出した。

次の瞬間――。

「……うわっ!」

蓮の足元が消えた。

「蓮!?」

ミリアが叫ぶ。

全員が、光の中へ吸い込まれていった。

     *

気がつくと、蓮たちは白い石畳の上に立っていた。

目の前には、巨大な都市が広がっている。

高い塔。

空中を走る乗り物。

壁面に浮かぶ、色鮮やかな文字。

そして、街中を行き交う人々。

「……すごいな」

蓮は思わず呟いた。

中世風の町並みとはまったく違う。

魔法と機械が融合したような、不思議な都市だった。

「ここ、本当に異世界?」

ミリアが目を丸くする。

「間違いない。スマートフォンを見てみよう」

蓮が画面を確認した。

【接続先:未登録世界】

【都市名:セントラル】

【商業規則:確認中】

【通貨:未登録】

「セントラル……」

そのとき、街の入口にある大きな看板が目に入った。

『すべての取引は、信用によって成立する』

蓮は足を止めた。

「信用……?」

さらに、その下には小さな文字があった。

『貨幣による支払いは受け付けておりません』

「本当に金貨が使えないんだ……」

セレナが驚いた。

「では、どうやって商品を買うの?」

「それを調べるのが、今回の仕事だな」

蓮は周囲を見回した。

街には店がたくさんある。

しかし、どの店にも値札が見当たらない。

代わりに、店先の壁には数字と名前が表示されていた。

「何だ、あれ?」

蓮が近づこうとした瞬間。

「そこの旅人さん」

後ろから声がした。

振り返ると、青い制服を着た女性が立っていた。

胸元には、銀色のカードがついている。

「この街は初めてですか?」

「はい。今日、来たばかりです」

「でしたら、まず商業登録をしてください」

「商業登録?」

女性は頷いた。

「この街では、信用値がなければ商品を購入することも、販売することもできません」

蓮は眉を寄せた。

「信用値って、何ですか?」

「その人が、どれだけ信頼できる取引相手なのかを示す数値です」

女性は壁の表示を指さした。

「取引をすれば信用値が変化します。約束を守れば上がり、契約違反をすれば下がります」

「なるほど……」

蓮は考え込んだ。

金貨ではなく、信用で取引する世界。

つまり、どれだけお金を持っていても、信用がなければ商売ができない。

「面白い仕組みだな」

蓮が呟くと、女性は不思議そうに首を傾げた。

「面白い?」

「はい。商売をするなら、信用は大切ですから」

女性は少しだけ表情を和らげた。

「そう言ってくださる方は、珍しいですね」

そのとき。

ピピッ!

蓮のスマートフォンが鳴った。

【新規商業規則を確認】

【信用値による取引制度】

【初期信用値:0】

「ゼロ!?」

蓮は思わず声を上げた。

「ちょっと待ってくれ。信用が大切なのは分かるけど、ゼロからじゃ商品を売れないんじゃないか?」

女性は申し訳なさそうに頷いた。

「その通りです。初めて登録した方は、まず簡単な取引試験を受けていただきます」

「取引試験……」

蓮の目が輝いた。

試されるのは、商人としての腕。

ならば、逃げる理由はない。

「受けます」

蓮は迷わず答えた。

女性は小さく笑った。

「では、こちらへ。あなたにぴったりの課題があるかもしれません」

彼女が案内したのは、街の中央にある小さな取引所だった。

入口には、一枚の紙が貼られている。

『信用値ゼロの新人商人、歓迎』

蓮はその文字を見て、思わず笑った。

「よし。ここから始めよう」

しかし、取引所の奥。

蓮の名前を見た管理人が、突然顔色を変えたことには、誰も気づかなかった。

「……そんな馬鹿な」

管理人の手元には、古い記録が表示されていた。

そこに記されていたのは――。

『境界商人・佐伯蓮。信用値:測定不能』

新しい世界での商売は、まだ始まったばかりだった。

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