第15話 月影の羽と小さなフェアリー
「大地の湖へ行こう」
蓮が魔法の地図を広げた。
月影の森で見つけた銀色の羽――。
月影の羽。
星実と共鳴する、二つの必須アイテムのうちの一つだ。
蓮は大切に袋へしまおうとした。
そのときだった。
「蓮!」
モモが突然、大声を上げた。
「どうした?」
「その羽……!」
モモが月影の羽へ近づいていく。
「なんか、呼んでる!」
「呼んでる?」
蓮が首をかしげた。
すると――。
月影の羽が、突然まばゆく輝いた。
「わっ!」
ミリアが目を覆う。
セレナも驚いて一歩下がった。
「蓮! 何が起きているの!?」
「俺にも分からない!」
光はどんどん強くなる。
そして――。
「モモ!」
蓮が叫んだ。
モモの小さな蝶々の身体が、光の中へ包まれていく。
「きゃああああ!」
モモの声が響いた。
「モモ!」
光の中心で、モモの姿が変わっていく。
白と紫の蝶の羽。
小さな身体。
そして――。
光が消えた。
「……え?」
蓮は目を丸くした。
そこにいたのは――。
小さな女の子。
背中には、蝶々のような白と紫の羽。
髪は淡い紫色。
手のひらほどの小さな身体で、ふわふわと宙に浮いている。
「……モモ?」
「そうだよ!」
小さな女の子が胸を張った。
「モモだよ!」
「……」
蓮は固まった。
ミリアも固まった。
セレナも固まった。
「ええええええ!?」
森中に三人の声が響いた。
モモは自分の身体を見回した。
「わあ……!」
小さな手。
小さな足。
そして背中の羽。
「手がある!」
モモが指を動かす。
「足もある!」
くるくる回る。
「顔もある!」
「それは前からあるだろ」
蓮が思わず突っ込んだ。
「でも蝶々じゃない!」
モモは嬉しそうに笑った。
「フェアリーだ!」
ミリアが目を輝かせる。
「本当に妖精……!」
セレナもモモをじっと見る。
「かわいい……」
「でしょう!」
モモが胸を張る。
「モモ、かわいいフェアリー!」
「自分で言うんだ……」
蓮は苦笑した。
そのとき。
ピッ。
スマートフォンが反応した。
【特殊反応を確認】
【対象:モモ】
【月影の羽との共鳴】
【種族変化を確認】
蓮が画面を見る。
「種族変化……?」
さらに文字が表示される。
【月影の羽の影響により、一時的なフェアリー形態へ移行】
「一時的……?」
蓮が読む。
「つまり、ずっとこの姿ってわけじゃないのか」
モモが振り返った。
「え?」
「月影の羽の力がなくなったら、元の蝶々に戻る可能性があるみたいだ」
「ええっ!」
モモが自分の身体を抱きしめる。
「この姿、気に入ったのに!」
「いや、元の蝶々姿もかわいいぞ」
「本当?」
「本当」
モモは満足そうに笑った。
「じゃあ、どっちでもいい!」
「切り替え早いな……」
セレナがくすっと笑った。
「ところで、フェアリーになったことで何かできるようになったの?」
「んー……」
モモが考える。
そして――。
「お腹すいた!」
「能力じゃない!」
ミリアが即座に突っ込んだ。
「でも、この姿なら……」
モモは蓮のポケットを指差した。
「ポテトチップス食べられる!」
「そこなの?」
蓮は笑いながら袋を取り出した。
「ほら」
「やった!」
モモは小さな手で一枚つまんだ。
パリッ。
「おいしい!」
「フェアリーになっても食欲は変わらないな」
「モモはモモだから!」
そう言って、モモはもう一枚取った。
すると――。
月影の羽が淡く輝いた。
モモの身体も、ほんの少しだけ光る。
「……ん?」
蓮が気づく。
「今、羽が光ったぞ」
モモも自分の背中を見る。
「ほんとだ」
蓮がスマートフォンを向ける。
【月影の羽】
【共鳴対象:モモ】
【特殊能力:未確認】
「特殊能力……?」
蓮が呟く。
まだ詳細は表示されない。
「今は分からないってことか」
ミリアが頷いた。
「使ってみないと分からないのかも」
モモは少し考えた。
そして――。
「じゃあ、次の湖で試してみよう!」
「そうだな」
蓮は地図を開いた。
目的地は――。
大地の湖。
二つ目の座標。
そこに、もう一つの必須アイテムがある。
蓮は月影の羽を大切にしまった。
「行こう」
「うん!」
モモが蓮の肩へ飛んでくる。
いや。
今は蝶々ではない。
小さなフェアリーだ。
「蓮!」
「ん?」
「モモ、フェアリーだから……」
モモがニヤリと笑った。
「お姫様扱いして!」
「却下」
「即答!?」
ミリアとセレナが笑い出す。
森の中に、久しぶりに明るい笑い声が響いた。
しかし――。
その頃。
大地の湖では。
湖面の奥深くで、青白い光がゆっくりと目を覚ましていた。
そして、その光の近くには――。
誰かが残した古い商人の看板が沈んでいた。
そこには一つの文字が刻まれている。
『商人立入禁止』
蓮たちは、まだそれを知らない。
大地の湖で待っているものが――
ただの宝ではないことを。




