第14話 月影の羽
月影の森。
夜になっても、森の中は不思議なほど明るかった。
木々の隙間から差し込む月明かりが、まるで道を照らすように地面へ落ちている。
蓮は魔法の地図を片手に、ゆっくりと歩いていた。
「……この辺りのはずなんだけどな」
「本当に何かあるの?」
ミリアが周囲を見回す。
「星実が示した座標だから、何かあるとは思う」
「でも、森って同じ景色ばかりで迷うよね」
セレナが蓮の隣を歩きながら言った。
その肩には、小さな蝶々――モモが止まっている。
「蓮ー」
「ん?」
「お腹すいたー」
「……また?」
「森を歩くと、お腹がすくの」
「蝶々ってそんなに食べるのか?」
「モモは特別なの!」
「それ、自分で言う?」
蓮は苦笑しながら、小さな袋を取り出した。
中にはポテトチップスが入っている。
「ほら」
「ポテチ!」
モモが一気に飛び上がった。
「待て待て。飛びながら食べるなよ」
「だっておいしいんだもん!」
パリッ。
森の静寂に、ポテトチップスをかじる音が響いた。
「……緊張感ないわね」
ミリアが呆れる。
「こういうときこそ、お菓子が必要なんだよ」
モモが胸を張る。
「モモ、いいこと言った!」
「言ってないと思う」
蓮は笑った。
そのときだった。
「……ん?」
モモが突然、ポテトチップスを食べるのをやめた。
「どうした?」
「……あっち」
モモが森の奥を指す。
「何かいるのか?」
「ううん。何か……変な感じがする」
蓮は魔法の地図を確認した。
地図には一本の細い光の線が浮かんでいる。
その線は、森の奥へ続いていた。
「行ってみよう」
四人は慎重に歩き始めた。
しばらくすると、大きな岩が見えてきた。
その岩には、古い文字のような模様が刻まれている。
「これ……扉?」
セレナが岩に手を触れた。
すると――
カチッ。
小さな音がした。
「え?」
岩の一部がゆっくりと動いた。
その奥には、小さな空間が隠されていた。
「隠し部屋……?」
蓮が中へ入る。
そこには何もない。
ただ、中央に一本の細い台座が置かれていた。
そして、その上に――
銀色の羽が浮かんでいた。
「……羽?」
ミリアが近づく。
銀色の羽は、月明かりを受けて淡く輝いている。
モモが近づこうとした。
「待って、モモ」
蓮が止める。
「何か仕掛けがあるかもしれない」
「でも、きれい……」
モモがじっと羽を見る。
蓮はスマートフォンを取り出した。
カメラを向ける。
画面に文字が浮かんだ。
【特殊アイテムを確認】
【名称:月影の羽】
【希少度:★★★★★】
蓮の表情が変わる。
「……月影の羽」
さらに画面が更新された。
【星実との共鳴反応:強】
「やっぱり……」
蓮は星実を取り出した。
すると、星実が淡く光り始めた。
銀色の羽も同時に輝く。
二つの光が重なり、部屋全体を照らした。
【座標A・必須アイテム候補】
蓮は息をのんだ。
「これが……」
「星実が示した座標の一つにある、必要なアイテム……」
ミリアが呟く。
セレナも頷いた。
「ということは、もう一つ……」
「大地の湖」
蓮は地図を見る。
そこには、もう一つの座標が残っていた。
――大地の湖。
「まだ終わってないな」
蓮は銀色の羽を慎重に手に取った。
不思議なくらい軽い。
そして、羽を星実の近くへ持っていくと――
ピッ。
【接続率:100%】
「……100%」
蓮は驚いた。
「これで一つ目は揃ったってこと?」
ミリアが尋ねる。
「たぶん」
蓮は頷いた。
「でも、これだけじゃ新しい世界には行けない」
スマートフォンには、以前と同じ表示が出ていた。
【異世界接続条件】
【必要座標:2】
【必要アイテム:2】
【現在取得:1】
「あと一つ……」
セレナが言った。
「大地の湖にある、もう一つのアイテムね」
「そういうことだ」
そのとき。
「ねえ、蓮」
モモが銀色の羽を見ながら言った。
「この羽……なんだか寂しそう」
「寂しい?」
「うん」
モモは羽の周りを小さく飛んだ。
「ずっとここで誰かを待ってたみたい」
蓮は黙って羽を見つめた。
単なるアイテム。
そう思っていた。
けれど――。
この世界の誰かが、何かを残したのかもしれない。
そう考えると、不思議な気持ちになった。
「……大切に持っていこう」
蓮は羽を収納袋へしまった。
その瞬間。
森の奥から、風が吹いた。
サアアア……。
木々が一斉に揺れる。
そして、遠くから小さな声が聞こえた。
「――湖へ」
「……今、何か聞こえた?」
ミリアが振り返る。
「俺にも聞こえた」
セレナも森の奥を見る。
「大地の湖へ行け、って言っているように聞こえたわ」
モモが蓮の頭の上に乗った。
「次は湖だね」
蓮は魔法の地図を開く。
二つ目の座標が淡く光っている。
「……行こう」
こうして一行は、月影の森を後にすることになった。
だが――。
まだ誰も知らなかった。
大地の湖に眠るもう一つの必須アイテムが、ただの宝ではないことを。
そして、その湖には――
星実を狙う、別の商人の影が近づいていた。
「……一つ目を見つけたか」
遠くの木の陰。
黒い外套の男が、静かに笑った。
クロウだった。
「ならば、私も急ぐとしよう」
クロウは一冊の帳簿を閉じた。
「商人同士の競争は――」
月明かりの中で、黒い瞳が光る。
「まだ始まったばかりだからな」




