第10話 異世界、初めての寿司
「これは……うまい!」
ヴェルナ商業ギルドのギルド長、ガルバンは、初めて食べる寿司にすっかり夢中になっていた。
マグロ。
サーモン。
エビ。
一貫食べるたびに目を輝かせる。
「蓮君! これは売るんだろう?」
「それが……」
蓮は少し困った顔をした。
「寿司は売るつもりはありません」
「なぜだ?」
「鮮度が大事だからです」
蓮は説明する。
「日本からここまで持ってくる間に、どうしても時間がかかります。せっかく美味しい寿司なのに、鮮度が落ちた状態で売るのは嫌なんです」
ガルバンは黙って寿司を見る。
そして頷いた。
「なるほど……」
商人としての顔になる。
「美味しいからこそ、最高の状態で食べてもらいたいということか」
「はい」
「それなら仕方ないな」
ガルバンは残念そうにしながらも納得した。
すると蓮が笑った。
「でも」
「ん?」
「日本へ行ったときに、たまに持ってきますよ」
ガルバンの目が大きくなる。
「本当か!?」
「はい」
「約束だぞ!」
「約束します」
ガルバンは満面の笑顔になった。
「いやあ、楽しみが一つ増えた!」
セレナが微笑む。
「ギルド長、すっかり蓮様のお寿司のファンですね」
「当然だ!」
その横でモモが手を上げる。
「私も!」
「モモは寿司食べた?」
「食べた!」
「どうだった?」
モモは少し考えた。
「……プリンも欲しい」
「結局そこか!」
部屋に笑い声が響いた。
ガルバンは酒を一口飲み、満足そうに息を吐いた。
「しかし、蓮君」
「はい」
「寿司を売らないのなら、今日コスタコで仕入れた商品の中で、何を売るつもりなんだ?」
蓮は笑った。
「それは――」
テーブルの上に並べられた商品を見る。
大量のお菓子。
パン。
チーズ。
カクテルシュリンプ。
そして酒。
「これから考えます」
「ほう?」
「日本には、まだまだ異世界で売れるものがたくさんありますから」
ガルバンは楽しそうに笑った。
「なるほど」
そしてグラスを掲げる。
「では、異世界商人の次の商品に――」
「乾杯!」
蓮たちもグラスを合わせた。
寿司は売らない。
けれど――。
日本へ戻るたび、ギルド長のために寿司を持ってくる。
そんな小さな約束が、蓮とガルバンの間に生まれた。
そして蓮はまだ知らない。
コスタコで仕入れた商品の中に――。
異世界で大人気になる商品が、まだ残っていることを。




