第8話 五百個限定とコスタコ
「……五百個が限界です」
日本のケーキ屋さんから届いた連絡に、蓮はスマートフォンを見つめた。
「やっぱり五百個か」
『申し訳ありません。これ以上増やすと、通常の製造に影響が出てしまいますので……』
「いえ、大丈夫です」
蓮は少し考えた。
「では、今回の五百個を大切に使わせてもらいます」
『ありがとうございます』
電話を切る。
すると、横からセレナが覗き込んできた。
「五百個……」
「うん」
「それ以上は?」
「今のケーキ屋さんでは難しい」
「……では」
セレナが真剣な顔をする。
「五百個限定ということですね?」
「そうなるな」
その言葉を聞いたモモが飛び上がった。
「限定!?」
「そう」
「限定って何?」
「数が決まっていて、なくなったら終わりってこと」
モモの目が輝いた。
「じゃあ、もっと欲しくなる!」
「なんでだよ……」
クロウが腕を組む。
「商人としては悪くない」
「そう?」
「ああ」
クロウは頷いた。
「大量に売れないなら、逆に価値を上げればいい」
蓮も納得した。
「五百個限定」
「しかも、日本のケーキ屋が作った特別品」
「……名前もつけるか」
蓮は少し考えた。
「『極上ロールケーキ・五百個限定』」
セレナが嬉しそうに笑う。
「素敵です」
モモはすぐに手を挙げた。
「はい!」
「何?」
「追加販売!」
「だから五百個しかないって」
「……」
モモがしょんぼりする。
「じゃあ、一個ずつ大切に食べる」
「そうしてくれ」
ところが――。
店を開けると、すぐに問題が起きた。
「限定五百個!?」
「なくなったら終わりなのか?」
「欲しい!」
「一人何個までだ!?」
「予約できるのか!?」
店の前が一気に騒がしくなる。
蓮は慌てて看板を書いた。
『日本のケーキ屋さん特注
極上ロールケーキ
五百個限定』
その文字を見た客たちがざわつく。
「五百個だけ……」
「これは急がないと!」
「買っておこう!」
クロウが小声で言った。
「限定という言葉の威力はすごいな」
「俺もびっくりしてる」
そして、その日のうちに――。
五百個のうち、かなりの数が予約で埋まった。
「……本当に限定商品になったな」
蓮は予約表を眺めながら呟いた。
セレナが隣から覗く。
「次はどうするのですか?」
「次?」
「はい。五百個がなくなった後です」
蓮は考え込んだ。
「同じケーキ屋さんには、これ以上頼めない」
「では、別の場所を探す?」
「そうだな」
蓮はスマートフォンを取り出した。
そして、日本の店を検索していく。
コンビニ。
スーパー。
デパート。
専門店。
そして――。
「……あ」
画面を見て、蓮が止まった。
「コスタコ」
「コスタコ?」
ミリアが首を傾げる。
「うん。大量の商品が売ってる大型のお店」
クロウが興味を示す。
「大量の商品?」
「そう。食品も日用品も、とにかく量が多い」
セレナが目を輝かせる。
「大量……」
モモも反応した。
「お菓子?」
「あると思う」
「行く!」
「まだ行くって決めてないぞ」
「行く!」
「即答だな……」
蓮は苦笑する。
「でも、確かにいいかもしれない」
今回のロールケーキは、ケーキ屋さんの特注品。
しかし、それとは別に――。
大量に仕入れられる商品を探す。
それなら、商人として扱える商品の幅が広がる。
蓮は頷いた。
「次はコスタコに行ってみよう」
クロウが笑う。
「なるほど」
「何?」
「お前は一つの商品が売れたら、すぐ次の商品を探すんだな」
「商売って、そういうものじゃない?」
「違いない」
そのとき、モモが蓮の肩に乗った。
「コスタコにはプリンある?」
「たぶんある」
「行く!」
「……ロールケーキじゃないの?」
「プリンは別枠!」
セレナが笑う。
「モモは本当に食べ物が好きですね」
「セレナもだろ」
「私は蓮様のためです」
「絶対違うだろ」
そんな会話をしながら、蓮たちは日本へ戻る準備を始めた。
今回の目的は――。
コスタコで大量の商品を仕入れること。
そして蓮はまだ知らなかった。
コスタコで仕入れる商品が、後に異世界の商売を大きく変えることを。
「よし」
蓮はカーテンに手をかけた。
「次の仕入れに行こう」
カーテンの向こうには――。
日本の大型店が待っていた。




