第2話 しゃべる蝶々と黒い商人
「……プリン、食べたい」
「…………え?」
蓮は振り返った。
今、誰かが喋った。
しかも――。
「プリン……」
もう一度、声がした。
蓮の目の前を、一匹の蝶がひらひらと飛んでいる。
白い羽。
紫色の模様。
そして――なぜか、人間の言葉を話している。
「……蝶が喋った?」
ミリアが目を丸くする。
リナも蝶を見る。
セレナは口を開けたまま固まった。
ガルドだけは、しばらく黙っていた。
「……俺、疲れてるのか?」
「私にも見えています」
ミリアが答える。
「ということは幻覚じゃないですね」
「プリン……」
蝶が蓮の肩に止まった。
「食べたい」
「いや、なんでプリン?」
「甘い匂いがする」
蓮はバッグを探った。
「……あるけど」
「ください」
「即答だな」
蓮が小さなプリンを取り出す。
蝶は嬉しそうに羽を震わせた。
「プリン!」
ぱくっ。
――次の瞬間。
プリンが消えた。
「速っ!」
蓮が驚く。
「おいしい」
蝶は満足そうに羽を広げた。
「もう一個」
「図々しいな!」
「ください」
「……はい」
結局、もう一個渡す。
蝶は嬉しそうに食べた。
「ありがとう」
「礼儀はいいんだな……」
蓮は少し考えた。
「名前は?」
「ない」
「じゃあ、名前をつけようか」
蝶は首を傾げる。
「名前?」
「そう。……」
蓮は少し考えて――。
「モモ」
蝶の羽がふわっと揺れた。
「モモ?」
「うん」
「私はモモ」
「気に入った?」
「プリンをくれるなら、気に入った」
「そこが基準なのかよ……」
こうして――。
新しい仲間が一匹増えた。
しゃべる蝶々。
名前は、モモ。
そのときだった。
「面白い仲間が増えたようだな」
低い声が響いた。
全員が振り返る。
そこに立っていたのは――。
黒い外套をまとった男。
クロウだった。
「あなたは……?」
ミリアが警戒する。
クロウは黒い商人証を見せた。
「クロウ」
「商人?」
ガルドが目を細める。
「ああ」
クロウは蓮を見る。
「佐伯蓮」
「俺の名前を知ってるのか?」
「商人なら、情報は大切だからな」
クロウは店の商品を眺める。
日本のお菓子。
水。
石鹸。
懐中電灯。
そして――。
さっき仕入れた赤い果実。
「お前は、この世界の商品を別の世界へ売るつもりか?」
「そうだ」
蓮は答えた。
「そのつもり」
クロウは一枚の金貨を取り出した。
カラン。
「なら、俺も客になろう」
「何が欲しい?」
クロウはしばらく店の商品を眺めた。
そして――。
「この世界で一番珍しい商品をくれ」
「……一番珍しいもの?」
「そうだ」
蓮は腕を組む。
ガルドが小さく笑った。
「面白い注文だな」
「試してるんだろ?」
蓮がクロウを見る。
「そう思うか?」
「違うの?」
クロウは答えなかった。
その代わり、金貨をもう一枚置く。
「俺は商品を待っている」
「わかった」
蓮は笑った。
「じゃあ、探すよ」
その瞬間――。
モモが蓮の肩から飛び上がった。
「珍しいもの……」
「モモ?」
「知ってる」
全員がモモを見る。
「何を?」
モモは森の奥を指すように飛んだ。
「この世界には――」
一度、羽を大きく広げる。
「誰も知らない商品がある」
「本当に?」
「うん」
クロウの表情が変わった。
「……ほう」
モモは楽しそうに笑った。
「でも、そこには――」
「何があるの?」
蓮が尋ねる。
モモは森の奥を見つめた。
「大きな怪物」
「……」
蓮が固まる。
ガルドがため息をついた。
「結局、冒険になるのかよ」
セレナが嬉しそうに笑う。
「冒険ですね!」
ミリアも杖を手に取った。
「行きましょう」
リナが地図を広げる。
すると――。
地図の奥に、今までなかった光が灯った。
【未知の地点を確認】
【希少商品反応】
【危険度:不明】
蓮はスマホを見つめた。
そして笑う。
「よし」
「行こう」
クロウも歩き出した。
「楽しみだな」
黒い商人の目が鋭く光る。
「お前が――」
「どんな商品を持ち帰るのか」
モモが蓮の肩に戻ってくる。
「帰ったらプリン」
「……それは約束する」
「じゃあ行く」
こうして――。
異世界商人・蓮の新しい冒険が始まった。
そして彼はまだ知らない。
この森の奥にある「珍しい商品」が――。
この世界だけではなく、別の世界までもつなぐ鍵になることを。




