1話 異世界商人、次の世界へ!
「金貨1000枚……」
蓮は、目の前の依頼書を何度も見直していた。
「本当に1000枚?」
「本当だ」
ガルドが頷く。
「しかも、前金まである」
「前金!?」
蓮の目が輝いた。
「……商売って最高だな」
「そこに気づいたか」
ミリアが笑う。
「でも、依頼内容は?」
リナが依頼書をのぞき込む。
そこには――
【未知の世界へ商品を届けてほしい】
【依頼内容】
【この世界には存在しない商品を販売してほしい】
【成功報酬:金貨1000枚】
と書かれていた。
「未知の世界……」
蓮はワクワクしてきた。
「つまり、新しい異世界で商売できるってこと?」
「そういうことだ」
ガルドが笑う。
「ただし、問題が一つある」
「何?」
「その世界のことを、誰も知らない」
「……え?」
蓮が固まった。
ガルドは依頼書の最後を指差す。
【注意】
【現地の通貨・文化・魔物・法律・食文化について情報なし】
「情報ゼロじゃん!」
セレナが元気よく手を挙げた。
「大丈夫です!」
「何が?」
「私たちには蓮様がいます!」
「それ、俺が何とかする前提だよね?」
「もちろんです!」
「即答……」
狼王が立ち上がる。
「我もいる」
「狼王は?」
「魔物対策だ」
「頼りになる!」
「それと――」
狼王が真剣な顔をする。
「プリン対策も必要だ」
「何それ」
「異世界にもプリンがあるとは限らぬ」
「そこを心配してるの!?」
みんなが笑った。
蓮も笑う。
こういう時間が、最近は少し好きだった。
家族との問題も終わった。
父と母も帰ってきた。
そして今――
自分の好きなことを始められる。
「よし」
蓮は立ち上がった。
「行こう」
「どこへ?」
「新しい世界へ!」
店の奥。
かつてカーテンだった場所に、新しい光が浮かんでいた。
スマートフォンを近づける。
【新規世界】
【名称:未登録】
【接続安定度:72%】
【推奨人数:6~8名】
【危険度:中】
【商業可能性:非常に高い】
蓮は最後の表示を見て笑った。
「商業可能性、非常に高い……」
ガルドも笑う。
「俺たち向きだな」
「うん」
蓮はカーテンを開いた。
その瞬間――
強い風が吹き込んできた。
「うわっ!」
「きゃっ!」
セレナの帽子が飛ぶ。
リナの髪も舞い上がる。
狼王の毛が逆立つ。
「……風が強い」
狼王がぼそっと言う。
「そこ?」
蓮は笑いながら、カーテンの向こうを見る。
そこには――
青い空。
巨大な山。
そして、遠くに見える大きな城。
「すごい……」
ミリアが目を輝かせる。
「また新しい世界だ」
蓮は一歩踏み出した。
――ドンッ!
「痛っ!」
何かにぶつかった。
「すみません!」
振り返る。
そこにいたのは――
大きな荷車を引いた、耳の長い少年だった。
荷車には大量の果物が積まれている。
「大丈夫?」
蓮が手を差し出す。
少年は蓮を見て驚いた。
「……見ない顔だ」
「今日来たばかりなんだ」
「旅の人?」
「商人」
蓮が答える。
すると少年の顔が変わった。
「商人?」
「うん」
少年は荷車を指差した。
「だったら、これを買ってくれないか?」
「果物?」
「売れなくて困ってるんだ」
蓮は果物を一つ手に取った。
赤いリンゴのような果物。
しかし――
「これ、普通の果物じゃないね」
スマートフォンを向ける。
【商品解析】
【名称:未登録】
【味:非常に甘い】
【保存性:低】
【日本での販売価値:高】
蓮の目が輝いた。
「……これ」
ガルドが近づく。
「どうした?」
「売れる」
「どのくらい?」
蓮は笑った。
「かなり」
少年が不安そうに聞く。
「本当に買ってくれるのか?」
蓮は頷いた。
「全部買うよ」
「全部!?」
「うん」
「でも、そんなに買ってどうするんだ?」
蓮は果物を一つ持ち上げた。
「別の世界で売る」
少年は目を丸くした。
「別の……世界?」
蓮は笑った。
「そう」
「俺は――」
胸を張る。
「異世界商人だから」
その瞬間。
スマートフォンが鳴った。
【新規商品を取得】
【異世界間交易ルートを作成します】
【新しい商売が始まりました】
蓮は笑った。
「よし!」
ガルドも笑う。
「さあ、仕入れから始めるぞ」
ミリアが荷車を見る。
「全部持って帰れるかな?」
セレナが手を挙げる。
「私が持ちます!」
「セレナ、一人で?」
「はい!」
セレナが荷車を持ち上げようとする。
「……重いです」
「そりゃそうだよ!」
狼王が荷車をくわえる。
「我が運ぶ」
「狼王、すごい!」
「当然だ」
蓮は笑った。
新しい世界。
新しい仲間。
新しい商品。
そして――
新しい商売。
こうして蓮の異世界商人生活は、さらに広がっていく。
――しかし。
遠くの山の上から、一人の男が蓮たちを見つめていた。
「……異世界を渡る商人か」
男は小さく笑った。
「面白い」
その手には――
蓮がまだ見たことのない、黒い商人証が握られていた。
「この世界で商売をするなら――」
「俺にも挨拶してもらおうか」




