第59話 最後の商売!家族みんなで境界を救う
【境界安定度:98%】
【最終段階】
【残り時間:6時間】
「あと2%……」
蓮はスマートフォンを見つめた。
「どうすれば100%になる?」
父親は黒い亀裂を見た。
「最後に必要なのは、商品じゃない」
「商品じゃない?」
「人と人が、ちゃんとつながることだ」
母親が静かに続ける。
「この境界は、昔から『奪うこと』で傷ついてきたの」
「だから……」
蓮が気づく。
「誰かに何かを与えるだけじゃなくて――」
「お互いに渡す必要がある」
「その通り」
ガルドが笑った。
「つまり商売だ」
「うん!」
蓮は立ち上がった。
「最後の商売を始めよう!」
「ここで?」
ミリアが周囲を見る。
「こんな場所でお客さんいるの?」
その瞬間――
「いるぞ!」
遠くから声がした。
町の人々が次々と集まってくる。
「佐伯商店だ!」
「また店を開くのか?」
「プリンはある?」
「あります!」
蓮が即答する。
セレナが目を輝かせた。
「プリン!」
「セレナもお客さんなの?」
「もちろんです!」
「働いてよ……」
「はい!」
セレナはすぐにエプロンをつけた。
「いらっしゃいませ!」
ミリアは石けんや日用品を並べる。
リナは地図を広げる。
「この町の人たちが欲しいものを調べるね!」
ガルドは帳簿を持つ。
「価格は適正にする。買えない人には別の商品との交換も認めよう」
父親は笑った。
「いい商売だ」
母親も店の奥から商品を並べる。
「私も手伝うわ」
蓮はその姿を見て、一瞬固まった。
「……母さんが店に立ってる」
「何?」
「いや……なんか嬉しくて」
母親は笑った。
「じゃあ、もっと働きましょう」
「うん!」
最後の商売が始まった。
水。
保存食。
石けん。
灯り。
布。
工具。
種。
そして――
プリン。
「プリンください!」
「はい!」
「三つ!」
「はい!」
「十個!」
「家族で食べるんだね?」
「違う。全部俺の」
「食べすぎ!」
町中に笑い声が広がる。
そして――
【境界安定度:98%】
【99%】
「あと1%!」
蓮が叫ぶ。
そのとき、黒い亀裂から声がした。
『……なぜ……』
蓮が振り返る。
『なぜ……お前たちは……』
『奪わない……』
蓮は静かに答えた。
「必要なものをもらったら、それ以上はいらないから」
『……足りない……』
「じゃあ、欲しいものを言ってみろ」
『……分からない』
蓮は少し考えた。
「じゃあ、これをあげる」
蓮が差し出したのは――
小さな紙袋だった。
中にはプリンが一つ。
「食べてみて」
セレナが驚く。
「最後にプリンですか?」
「うん」
狼王が前へ出る。
「我の分は?」
「ないよ」
「……」
狼王が悲しそうに座る。
「嘘。ちゃんとある」
「そうか!」
狼王の尻尾が勢いよく揺れる。
町の人々から笑い声が起こる。
蓮はプリンを黒い亀裂へ差し出した。
「甘いものって、誰かと一緒に食べるとちょっと嬉しいんだ」
黒い霧がプリンを包む。
しばらくすると――
黒い霧の中に、小さな光が生まれた。
『……甘い』
「でしょ?」
『……初めてだ』
蓮は笑った。
「じゃあ、これからは壊さないで、一緒に食べればいい」
『……一緒に……』
その瞬間。
パァァァァ――!
巨大な光が境界全体を包んだ。
【境界安定度:100%】
【境界崩壊:停止】
【境界喰らい:活動停止】
【帰還路:開放】
「やった……!」
ミリアが笑う。
リナも飛び跳ねる。
「成功!」
ガルドは帳簿を閉じた。
「売上も――」
蓮が笑う。
「今はいいよ」
「商人としては珍しいな」
「家族が帰れるんだから」
父親が蓮の肩を叩いた。
「よくやった」
母親も蓮を抱きしめる。
「ありがとう」
蓮は二人を見て笑った。
「帰ろう」
するとスマートフォンが鳴った。
【最終結果】
【境界安定度:100%】
【商業活動:成功】
【家族帰還条件:達成】
【新規接続先を1件確認】
「……新規接続先?」
蓮が画面を見る。
そこには――
見たことのない扉のマークが表示されていた。
ガルドが笑う。
「どうやら、商売はまだ終わらないらしいな」
蓮も笑った。
「うん」
そして。
家族と仲間たちは、帰還路へ向かって歩き出した。
――だが。
誰も気づいていなかった。
その新しい扉の向こうから――
「プリン……」
小さな声が聞こえていたことを。




