第54話 異世界商店、大繁盛!
第54話 異世界商店、大繁盛!
「いらっしゃいませー!」
蓮の声が、境界の町に響いた。
今日の目標は――
12時間で100ゴールド。
簡単そうに見えた。
だが。
「……お客さん、来ないね」
ミリアが店の前を見ながら言った。
「うん」
蓮も見つめる。
人はいる。
かなりいる。
しかし――
誰も店に入ってこない。
ガルドが腕を組んだ。
「原因は簡単だ」
「何?」
「何を売っている店なのか、分からない」
「……なるほど」
看板には、
【佐伯商店】
としか書いていない。
狼王が看板の横に座っている。
「我がいるぞ」
「それは店の説明になってないよ」
「看板犬だ」
「狼王は狼だからね?」
「細かいことを気にするな」
セレナが手を挙げた。
「では、私が宣伝してきます!」
「お願い」
「お任せください!」
セレナは町の中心へ走っていった。
「皆さーん!」
「佐伯商店へどうぞー!」
「便利な商品がありますよー!」
その声につられて、一人の女性が店に入ってきた。
「便利な商品?」
「はい!」
蓮が笑顔で迎える。
「どんなものが欲しいですか?」
女性は少し考えた。
「……水を入れる容器が欲しい」
「水筒ですね」
蓮は百円ショップで仕入れた水筒を出した。
「これ、どうですか?」
「これは……?」
「水を入れて持ち歩けます」
女性は目を輝かせた。
「こんなものがあるの?」
「あります」
「いくら?」
「10ゴールドです」
「買います!」
最初の売上。
10ゴールド。
「よし!」
蓮が拳を握る。
その後――
次々と客がやってきた。
「石けんはある?」
「あります!」
「火を使わずに明かりを持ち歩けるものは?」
「懐中電灯があります!」
「保存できる食べ物は?」
「レトルト食品があります!」
「甘いものは?」
「もちろん!」
蓮がプリンを取り出した。
「これです」
「……!」
女性の目が輝いた。
「なんて美しい……」
「食べ物です」
「買います!」
さらに子どもたちが集まった。
「これ何?」
「お菓子だよ」
「こっちは?」
「チョコレート」
「これも!」
「ポテトチップス」
「全部ほしい!」
「全部はお財布と相談しようね」
店の中が一気に騒がしくなった。
ガルドが売上を計算する。
「30、50、80……」
「どう?」
「昼前で――」
ガルドが笑う。
「120ゴールドだ」
「目標達成!」
ミリアが喜ぶ。
「やった!」
スマートフォンが鳴った。
【目標達成】
【利益:120ゴールド】
【町の満足度:上昇】
【商業活動による境界安定度:+2%】
蓮は少し驚いた。
「商売するだけで……」
「境界が安定する」
ガルドが言う。
「やっぱり、ここでも同じだな」
蓮は静かにうなずいた。
「必要なものを届ける」
「それが境界を守る」
その言葉を聞いていた老人が、店の外で微笑んだ。
――佐伯一郎。
蓮は気づいていない。
老人は小さくつぶやく。
「そうだ」
「それでいい」
そのとき。
突然――
「蓮!」
ミリアの声が響いた。
「どうした?」
「大変!」
ミリアが指差す。
店の前に――
巨大な行列ができていた。
「え?」
蓮が固まる。
「なんでこんなに?」
セレナが胸を張る。
「宣伝してきました!」
「何て言ったの?」
「便利で美味しい店です、と」
「普通だね」
「そして――」
セレナが続ける。
「プリンがあります、と」
「……」
蓮は頭を抱えた。
「それだけで?」
町の人々が口々に叫ぶ。
「プリンください!」
「私も!」
「家族の分も!」
「10個!」
「20個!」
「俺は30個!」
「ちょっと待って!」
蓮が慌てる。
「一人30個は多い!」
狼王が前へ出た。
「落ち着け」
なぜか狼王が列を整理し始めた。
「一列に並べ」
「はい!」
「子どもを先に」
「はい!」
「押すな」
「はい!」
蓮が目を丸くする。
「……狼王」
「何だ」
「店員向いてるんじゃない?」
「当然だ」
「自信満々だ……」
さらに売上が伸びる。
200ゴールド。
300ゴールド。
400ゴールド。
夕方。
ガルドが帳簿を閉じた。
「最終売上――」
「いくら?」
「486ゴールド」
「すごい!」
セレナが飛び跳ねる。
「大繁盛です!」
蓮も笑った。
「これなら合格かな」
しかし。
その瞬間。
スマートフォンが震えた。
【商売試験:第一段階クリア】
【第二段階を開始します】
【目的地:最深部】
【父親の位置情報を更新しました】
蓮の笑顔が止まった。
「父さん……」
画面に表示された。
【佐伯蓮の父】
【現在地:境界最深部】
【距離:あと1区画】
「あと……1区画?」
蓮は拳を握った。
ついに。
父親がいる場所まで――
あと少し。
そのとき。
店の奥から、佐伯一郎の声が聞こえた。
「蓮」
振り返る。
老人は静かに言った。
「お前の父親は、そこで待っている」
「……!」
「だが、その前に――」
老人の表情が変わる。
「お前には、知らなければならないことがある」
「何を?」
一郎は答えた。
「なぜ、お前の父親が……」
「母親を探し続けたのか」
地下の奥から――
重い扉が開く音がした。
ゴゴゴゴゴ……。
蓮は息をのんだ。
「……行こう」
ミリアが隣に立つ。
「うん」
ガルドも続く。
「ここからが本番だな」
そして――
蓮たちは、最深部へ続く最後の通路へ足を踏み入れた。




