第49話 境界の町で大繁盛!そして母が知る父の秘密
第49話 境界の町で大繁盛!そして母が知る父の秘密
「いらっしゃいませ!」
境界の始まりにある佐伯商店。
開店から三時間。
店の前には、すでに長い行列ができていた。
「石けんをもう一つ!」
「布をください!」
「この光る道具はどうやって使うんだ?」
「電池を入れれば使えます!」
蓮は大忙しだった。
ミリアは食品担当。
リナは種や農具担当。
ガルドは会計。
セレナは――
「プリンはこちらです!」
「なぜプリン担当なんだよ!」
「一番人気だからです!」
「……まあ、いいか」
実際、プリンは大人気だった。
「こんな甘い食べ物、初めてだ!」
「もう一つ!」
「私も!」
セレナは嬉しそうに笑う。
「蓮様! プリンだけで売上がかなり出ています!」
「本当に?」
ガルドが帳簿を見る。
「プリンだけで35金貨だ」
「すご……」
蓮は思わず笑った。
■必要とされる商品
しかし、売れたのは甘い物だけではなかった。
一番売れたのは――
石けん。
次に――
ランタン。
そして――
保存食。
さらに――
種。
蓮は客に聞いた。
「種は何に使うんですか?」
一人の女性が答えた。
「最近、畑が痩せてしまって……」
「だったら、これもどうぞ」
蓮は小さな袋を追加した。
「肥料の代わりになるものです。使い方を書いた紙もつけます」
女性は目を丸くする。
「いいのかい?」
「使えるなら、買ってください」
蓮は笑った。
「でも、分からないことがあったら店に聞きに来てください」
「ありがとう……!」
女性は何度も頭を下げた。
その様子を見ていたガルドが言う。
「お前、本当に変わったな」
「そう?」
「昔なら、もっと利益を考えていた」
「今も考えてるよ」
蓮は笑った。
「でも、また来てもらえる店にしたい」
ガルドは少し笑った。
「それが一番長く続く商売か」
■一日の売上
夕方。
ガルドが帳簿を閉じた。
「今日の売上、520金貨」
「520!?」
ミリアが驚く。
セレナは両手を上げた。
「大繁盛です!」
リナも嬉しそうだ。
「この世界でも、お店を続けられそうだね」
蓮は店を見回した。
「うん」
だが――
スマートフォンが鳴った。
【商業活動:成功】
【境界安定度:87%】
【住民満足度:91%】
そして、その下に――
【境界喰らい残滓:活動率上昇】
蓮の顔から笑顔が消える。
「……やっぱり動いてる」
ガルドが帳簿を閉じた。
「商売だけでは終わらないらしいな」
■母が知っていること
店の奥。
蓮の母は、一人で古いノートを開いていた。
そこには、父の名前が書かれていた。
――佐伯家・第二世代記録。
母はページをめくる。
「……あなたは、ここまで来ていたのね」
そこには父の記録があった。
――妻を探す。
――蓮には何も知らせない。
――境界喰らいの本体は消えた。
――しかし、残滓が残っている。
母の手が止まった。
「残滓……?」
さらに読み進める。
――もし私が戻れなかった場合。
――蓮を境界に近づけないこと。
母の目が潤む。
「あなた……蓮を守ろうとしていたのね」
そのとき。
背後から声がした。
「違う」
母が振り返る。
そこに管理者が立っていた。
「彼は、蓮を遠ざけようとしたのではない」
「では、何を?」
「蓮が自分で選べる日を待っていた」
「……」
管理者は続ける。
「彼は、この店に来た」
「そして、私に頼んだ」
母は息をのむ。
「何を?」
管理者は静かに答えた。
「蓮がいつかここへ来たら――」
「商人として、自分の答えを見つけさせてほしい、と」
母の目から涙が落ちた。
「……あの人らしいわ」
■そして二日目
翌朝。
蓮が店のシャッターを開ける。
「今日も頑張ろう!」
すると――
店の前に昨日の客が並んでいた。
「昨日の石けん、よかった!」
「種を植えたら芽が出た!」
「ランタンのおかげで夜でも仕事ができた!」
「今日も買いに来たよ!」
蓮は笑った。
「いらっしゃいませ!」
商売は順調だった。
だが、そのとき――
地面が揺れた。
ゴゴゴゴゴ……。
商品棚が震える。
「地震!?」
ミリアが身構える。
違った。
店の床に――
黒い亀裂が走った。
「……またか」
蓮がスマートフォンを見る。
【境界喰らい残滓】
【地下より接近】
【危険度:極高】
そして――
黒い亀裂の向こうから声がした。
『商人……』
蓮は立ち止まる。
『お前の父親も……ここで同じことをした』
「父さんが?」
『そして――』
黒い霧が一気に噴き出した。
『母親を救うために、代わりに自分を差し出した』
「……え?」
母が叫ぶ。
「違う!」
初めて母が声を荒らげた。
「あなた、それを蓮に言ってはいけない!」
蓮が母を見る。
「母さん……?」
母は唇を震わせる。
そして――
「あなたのお父さんは……」
「私を助けるために――」
そこで言葉が止まった。
黒い霧が店いっぱいに広がる。
スマートフォンが警告する。
【境界崩壊まで――24時間】
蓮は拳を握った。
「……父さんは、今どこにいる?」
母は答えられなかった。
そして、黒い霧の奥から――
聞き覚えのある声が響いた。
「……蓮」
「父さん……?」
『母さんを連れて帰りたいなら――』
『俺を探せ』
蓮は顔を上げた。
その瞬間、
スマートフォンに新しい地図が表示された。
【父親の現在地――境界最深部】
そして――
【残り時間:23時間59分】
蓮は静かに言った。
「……行く」
商売の三日目を待たずに――
父を探す最後の旅が始まる。




