第42話 北方都市へ!セレナ、妻気取りのまま同行!?
竜王国・王都。
「北方へ行く」
蓮が地図を広げた。
目的地は――北方交易都市。
そして、そのさらに先にある謎の地域。
「本当に行くの?」
ミリアが尋ねる。
「商売のためだよ」
蓮は商品リストを確認した。
「北方は鉱山もある。保存食、作業用品、防寒用品、日用品。売れるものは多いはず」
「なるほど」
ガルドがいたら喜びそうな話だ。
だが、その横から声がした。
「私も行きます」
「……セレナさん」
「もちろんです」
セレナは大きな荷物を持っていた。
「店の手伝いをするための荷物です」
「多すぎません?」
「妻として必要なものです」
「だから妻じゃない!」
セレナは笑顔だった。
「照れなくてもいいですよ♡」
「照れてません!」
ルナリアが笑う。
「もう蓮、諦めたら?」
「ルナリアまで……」
竜王は腕を組んでいた。
「まあ、セレナなら北方の商業事情にも詳しい。同行させてもいいだろう」
「竜王様まで!」
こうして――
蓮、ミリア、リナ、狼王、セレナ。
そしてルナリアの一行は、北方都市へ向かうことになった。
もちろんルナリアは、
「私も行く!」
「駄目だ」
竜王に止められた。
「えー!」
「王女が商隊に紛れて北方へ行ったと知れたら大騒ぎになる」
「じゃあお父様が行けば?」
「余も行けん」
「じゃあ蓮を見送る!」
「それならいい」
ルナリアは最後まで手を振っていた。
「蓮ー! お土産忘れないでねー!」
「分かった!」
そして数日後。
北方交易都市。
「寒い……」
蓮は震えていた。
「思った以上に寒いな」
ミリアが厚手の服を着ている。
リナもマントに包まっている。
狼王だけは平然としていた。
「この程度、寒さとは言わぬ」
「狼王、毛皮だからな……」
一方。
セレナは――
「蓮様、寒くないですか?」
「寒いです」
「では、こちらを」
セレナがマフラーを巻いてくれる。
「……ありがとうございます」
「妻として当然です♡」
「またそれ……」
その光景を見た北方都市の商人たちがざわついた。
「誰だ、あの美人は?」
「王都の商業組合のセレナ様だ」
「隣の男は?」
「異世界商人だ」
「……まさか」
噂は一気に広がった。
「異世界商人が来たぞ!」
「日本の商品を売るらしい!」
「プリンがあるのか!?」
「北方なのにプリン!?」
市場が騒ぎ始める。
蓮は急いで販売準備を始めた。
まずは――
防寒用品。
手袋。
靴下。
カイロ。
厚手のタオル。
それから保存食。
カップ麺。
缶詰。
チョコレート。
そして――
「プリン!」
「プリンだ!」
「北方でも食べられる!」
あっという間に人が集まった。
「一人三個まで!」
蓮が叫ぶ。
「五個欲しい!」
「三個までです!」
「では三個!」
「ありがとうございます!」
セレナも大忙しだった。
「こちらは防寒用品です!」
「この袋は何だ?」
「カイロです」
「何に使う?」
「手に持って温めます」
「……温かい!」
客が驚く。
「もっとくれ!」
「ありがとうございます!」
午前中だけで――
商品が半分以上売れた。
蓮が売上を確認する。
「……210金貨」
ミリアが目を丸くする。
「まだ昼ですよ?」
「すごいな……」
セレナは満足そうに頷いた。
「蓮様の商売は北方でも大成功です」
「まだ分かりませんよ」
そのとき。
市場の奥から、一人の老人が歩いてきた。
長い白髪。
厚い外套。
腰には古びた鍵。
老人は蓮の店をじっと見つめていた。
「……その商品」
「はい?」
老人はカイロを指差した。
「それを持ってきたのは、お前か?」
「そうです」
「……そうか」
老人は蓮の顔を見る。
そして驚いたように目を見開いた。
「佐伯……?」
蓮の表情が変わった。
「どうして俺の名前を?」
老人は答えなかった。
ただ、腰の鍵を握りしめる。
「まさか……」
セレナが警戒する。
「蓮様から離れてください」
「待ってください」
蓮が止める。
老人は震える声で言った。
「その名字を……知っている」
「誰から?」
「昔、この街に来た男からだ」
「男?」
老人はゆっくり頷いた。
「佐伯家の人間だった」
蓮の胸がざわついた。
「いつの話ですか?」
「何十年も前だ」
老人は市場の北を指差した。
「その男は、あの山へ向かった」
「山?」
「そして――帰ってこなかった」
蓮は地図を取り出した。
北の山。
そこには、古い印が一つだけ残っていた。
【立入禁止】
スマートフォンが鳴る。
ピコン。
【第八接続候補】
【反応地点を確認】
【北方山岳地帯】
【接続可能性:92%】
「……」
蓮は画面を見つめた。
セレナが隣から覗く。
「蓮様」
「はい」
「行くんですよね?」
蓮は頷いた。
「確かめたい」
商売のために来た北方都市。
そこで偶然見つかった、佐伯家の痕跡。
そして――
異世界への扉。
蓮は商品棚を見渡した。
「明日、山へ行く」
狼王が立ち上がる。
「ならば我も行こう」
ミリアも頷いた。
「私も」
リナも地図を握る。
「私も行きます」
そしてセレナは当然のように蓮の隣へ。
「妻として同行します♡」
「……もう好きにしてください」
こうして一行は――
北方の山に眠る、
佐伯家と異世界の秘密を探ることになった。
その夜。
誰もいない山の奥で――
古い扉が、ゆっくりと開いた。
ギィィィ……。
扉の向こうから、
誰かの声が聞こえた。
「……ようやく来たか」
蓮たちは、まだ知らない。
その扉の先に――
佐伯家が長年隠してきた、
「最初の商人」の秘密が眠っていることを。




