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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第1章 カーテンの向こうで大商売!
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第31話 最後の商売――記憶の値段

「選択……?」

母さんの言葉が、頭の中に残っていた。

俺たちの目の前には、一軒の古い店。

その奥には、巨大な塔。

そして塔の上には――

境界喰らい。

いや。

正確には、その本体。

『商品を選べ』

ガルドのスマートフォンから声が響く。

『代金は記憶』

ガルドは画面を睨んだ。

「ふざけた取引だ」

『取引を拒否するか?』

「……」

ガルドは黙った。

俺はガルドの肩を叩く。

「やめよう」

「何?」

「記憶を渡す必要なんてない」

俺は境界喰らいを見る。

「別の方法を探す」

ガルドはしばらく黙っていた。

そして――

「いや」

「ガルド?」

「俺がやる」

「でも……」

「商人だからな」

ガルドは笑った。

「取引を持ちかけられたら、まず条件を見る」

「条件?」

「そうだ」

ガルドはスマートフォンを操作する。

「商品は選べる」

「代金も記憶」

「だが――」

ガルドがニヤリと笑った。

「価格が決まっていない」

俺は目を見開いた。

「……!」

「つまり、値段交渉ができる」

母さんが小さく笑った。

「そう。それが商人ね」

ガルドは一歩前へ出る。

「俺が欲しいのは、境界の外に取り残された人たちの帰還だ」

『代金を払え』

「いくらだ?」

『お前の全記憶』

「却下だ」

即答だった。

『では、半分』

「高い」

『三分の一』

「まだ高い」

『十分の一』

ガルドは腕を組んだ。

「何の記憶だ?」

『選べ』

「なら、いらない記憶を渡す」

『……』

「俺が昔食べたまずい料理の記憶とか」

「ガルド……」

「なんだ?」

「そんなので成立するの?」

「やってみなければ分からん」

ガルドが真剣な顔になる。

「取引は、条件を決めることだ」

その瞬間。

スマートフォンに文字が浮かんだ。

【交渉を確認】

【代金の指定を許可】

ガルドが笑った。

「よし」

「本当にできた……」

ガルドは画面に文字を入力する。

【代金:境界を壊した者たちの記憶】

『……』

空気が止まった。

境界喰らいが沈黙する。

『それは――』

初めて、その声に動揺が混じった。

「お前たちが奪ったものだ」

ガルドは言った。

「俺の記憶じゃない」

「お前たち自身が持っている記憶を返せ」

『……』

「それなら取引する」

俺はガルドを見る。

「すごいな……」

「商人を誰だと思ってる?」

ガルドは笑った。

しかし。

その直後。

塔の上から黒い腕が伸びた。

ドォォン!!

街が揺れる。

『拒否する』

「なぜだ?」

『記憶を返せば――』

黒い目が開く。

『我々は消える』

「……」

ガルドが黙った。

俺も理解した。

境界喰らいは、記憶そのものだった。

世界を繋ごうとした人々。

失敗した人々。

帰れなくなった人々。

その記憶が積み重なって、怪物になった。

だから。

記憶を返せば――

怪物は消える。

「それなら……」

俺は一歩前へ出た。

「消えればいい」

ガルドが俺を見る。

ミリアも。

リナも。

狼王も。

母さんも。

全員が俺を見る。

俺は続けた。

「でも、消えるんじゃない」

「帰るんだ」

黒い目が揺れた。

『帰る……?』

「そう」

俺はボールペンを取り出す。

「名前を書けばいい」

「記憶を戻せばいい」

「そして帰る場所を作る」

母さんが微笑む。

「それが、原初接続キーの本当の使い方」

スマートフォンが光った。

【原初接続キー】

【最終機能を解放】

【名称:記憶帰還】

俺は画面に手を置いた。

「使う」

【対象を選択してください】

無数の名前が表示される。

知らない名前。

聞いたことのない名前。

何千。

何万。

俺は息を呑んだ。

「こんなに……」

母さんが言う。

「みんな、待っているの」

俺は頷いた。

「じゃあ――」

俺はミリアを見る。

「一緒にやろう」

「うん!」

リナも頷く。

「私も!」

狼王が吠える。

「我も力を貸そう」

ガルドは笑った。

「商売の続きだ」

俺たちはそれぞれ名前を読み上げた。

一人。

また一人。

すると――

黒い街に光が灯り始めた。

建物から人影が現れる。

子供。

老人。

商人。

兵士。

魔法使い。

様々な人々。

みんな、自分の名前を思い出していく。

『……俺は』

『私は……』

『そうだ』

『帰らなきゃ』

黒い霧が少しずつ薄くなる。

塔の上の巨大な影も――

崩れ始めた。

『なぜだ……』

境界喰らいの声が震える。

『なぜ、我々を恐れない』

俺は答えた。

「怖いよ」

「でも――」

ボールペンを握る。

「怖いからって、全部壊す必要はない」

黒い影が静かになる。

『……人間』

「俺は商人だ」

ガルドが笑う。

「俺もだ」

ミリアが言う。

「私は蓮の仲間」

リナも続く。

「私も」

狼王が牙を見せる。

「我は境界の守護者」

そして母さんが――

「私は、佐伯家の人間」

全員が前を向いた。

その瞬間。

巨大な塔が光に包まれた。

【記憶帰還――完了】

【境界喰らい――構成を解除】

【境界の安定を確認】

「……終わった?」

俺が呟く。

しかし。

スマートフォンはまだ赤かった。

【警告】

【本体消滅を確認】

【ただし――】

【原初の境界に異常発生】

「……え?」

母さんの顔が青ざめる。

「まだ終わってない」

「何が?」

母さんは塔の上を見上げる。

そこには――

巨大な扉が浮かんでいた。

俺は見たことがある。

あの扉。

原初の境界。

そして扉の向こうから――

誰かが歩いてくる。

少女ではない。

もう一人の俺でもない。

長い髪の――

一人の女性。

その顔を見た瞬間。

母さんが呟いた。

「……お姉ちゃん」

俺は固まった。

「お姉ちゃん?」

女性がこちらを見る。

そして笑った。

「久しぶりね、佐伯蓮」

「……誰なんだ?」

女性は答えた。

「あなたのお父さんの――」

一歩、こちらへ近づく。

「妹よ」

俺は言葉を失った。

そしてスマートフォンに、新しい表示が浮かんだ。

【第七接続先――開放】

【接続対象:佐伯家・第一世代】

俺は画面を見つめる。

「……第七接続先?」

母さんが小さく呟いた。

「そう」

「ここから先は――」

女性が笑う。

「佐伯家が、なぜ境界を守ることになったのか」

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