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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第1章 カーテンの向こうで大商売!
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第3話 商人ギルドと異世界の常識

「レンさん」

「ん?」

「その金貨、しまったほうがいいですよ」

 ミリアに言われて、俺は手の中の金貨を見る。

「これ?」

「はい」

「そんなに危ないものなのか?」

「金貨ですよ?」

「いや、それは分かってるけど」

 ミリアは呆れたようにため息をついた。

「普通の人が持ち歩くようなものではありません」

「……そうなの?」

「はい。金貨一枚あれば、普通の家庭なら一か月以上暮らせます」

「…………」

 俺は金貨を見つめた。

「ボールペン一本で?」

「はい」

「……異世界、物価どうなってるんだ」

「ボールペンというものが珍しいからですよ」

「なるほど」

 少し安心した。

 何でもかんでも高く売れるわけではないらしい。

「でも、本当にこれがそんなに高いのか?」

「文字を書く道具ですよね?」

「ああ」

「こちらでは、文字を書くには羽根ペンか魔法具を使います」

「魔法具?」

「魔力を使って文字を書く道具です。ただ、高価です」

「じゃあボールペンは?」

「魔力を必要としない」

 ミリアは真剣な顔で言った。

「しかも、誰でも使える」

「……それだけで価値があるのか」

「それだけではありません」

 ミリアはボールペンを見つめた。

「細い線を、同じ濃さで、何度でも書ける」

「まあ、そうだな」

「こちらでは、それはかなり珍しいことです」

 俺は少し考えた。

 日本では当たり前。

 でも、この世界では当たり前ではない。

「……なるほど」

 商売の基本が、少し分かった気がした。

 商品の価値は、作った側ではなく、買う側が決める。

 日本で百円のものが、異世界では数万円になることもある。

「面白いな」

「何がです?」

「商売」

 ミリアは首を傾げた。

「レンさんは商人なんですか?」

「今日からなる」

「今日から?」

「ああ」

 俺は胸を張った。

「異世界商人、佐伯蓮だ」

「……なんだか頼りないですね」

「ひどいな!」

 ミリアが笑った。

 その笑顔を見て、俺も笑う。

 しばらく歩くと、街道が見えてきた。

 遠くには大きな城壁。

 その中央に巨大な門がある。

「ここが王都です」

「……すげえ」

 俺は思わず立ち止まった。

 石造りの城壁。

 馬車。

 剣を腰に下げた兵士。

 そして――

 獣耳の人々。

「本当に異世界なんだな……」

「さっきから何度も言ってますよ?」

「いや、実物を見ると違うんだよ」

 門を通り抜ける。

 街の中は思っていた以上に活気があった。

「パン屋」

「武器屋」

「魔法薬?」

「宿屋……」

 日本とはまったく違う。

 それなのに、人々が暮らしている姿はどこか似ていた。

 笑う人。

 怒る人。

 買い物をする人。

 子供たち。

 商売人。

「なんか……普通だな」

「何がです?」

「もっと異世界って感じかと思った」

「異世界ですけど?」

「そうなんだけど」

 歩いていると、突然ミリアが立ち止まった。

「ここです」

 目の前に大きな建物がある。

 看板には剣と天秤のマーク。

「商人ギルドです」

「ここか」

 扉を開ける。

 中には多くの商人がいた。

 受付。

 掲示板。

 商品の取引所。

 そして――

「……なんか怖いな」

 屈強そうな男たちがこちらを見る。

 明らかに場違いだ。

 俺の服装は普通の日本の私服。

 剣もない。

 防具もない。

 そして、異世界のことを何も知らない。

「ミリア」

「はい?」

「俺、ここで商売できる?」

「もちろんです」

「本当に?」

「はい」

 ミリアは笑った。

「私が紹介します」

 受付へ向かう。

「登録をお願いします」

「新規の方ですね」

 受付の女性が俺を見る。

「お名前は?」

「佐伯蓮です」

「職業は?」

「商人です」

「所属商会は?」

「ありません」

「出身地は?」

 俺は止まった。

「……」

「レンさん?」

「……日本」

「ニホン?」

「はい」

「どちらの国でしょう?」

「…………」

 答えられない。

 そもそも、この世界に日本という国が存在するか分からない。

「遠い国です」

 とりあえず誤魔化した。

「なるほど」

 受付嬢は納得したように書類を書く。

「では、取り扱う商品の種類を教えてください」

「日用品です」

「具体的には?」

「文房具、食品、衣類、洗剤、生活用品……」

 受付嬢のペンが止まった。

「食品?」

「はい」

「保存食品ですか?」

「まあ、そういうのも」

「文房具?」

「はい」

「生活用品?」

「はい」

「……失礼ですが、レンさん」

「はい」

「あなたは、どこから商品を仕入れる予定ですか?」

 俺は答えた。

「家から」

「…………」

 受付嬢が黙った。

 ミリアも黙った。

「……家?」

「はい」

「ご自宅ですか?」

「そうです」

「王都に?」

「いや、日本に」

「…………」

 受付嬢の顔が完全に固まった。

 しまった。

 言い方を間違えた。

 だが――

 その瞬間。

 ギルドの奥から、一人の男が歩いてきた。

 背が高い。

 立派な服。

 胸には金色の商人章。

「今、日本と言ったか?」

 低い声だった。

 俺は振り返る。

「……はい」

 男は俺の目を見る。

「その国は、どこにある?」

「え?」

「日本という国だ」

 男は笑っていない。

「聞いたことがない」

 俺は答えられなかった。

 男は続ける。

「それなのに、君はそこから商品を仕入れると言った」

「……」

「面白いな」

 男の目が鋭くなる。

「少し、話を聞かせてもらおうか」

 ミリアが小声で言った。

「レンさん……」

「ん?」

「あの人は――」

 男が名乗る。

「商人ギルド王都支部、上級商人のグレンだ」

 そして俺の金貨に視線を落とした。

「その金貨」

「これ?」

「どこで手に入れた?」

「……商品を売って」

「何を?」

「ボールペンです」

「ボール……?」

 グレンの眉が動いた。

 俺は思った。

 これは――

 もしかすると。

 かなり面白いことになってきた。

 その一方。

 ギルドの外では、一人の男がこちらを見ていた。

 黒いフードを深くかぶっている。

「……日本?」

 男は小さく呟いた。

「まさか……」

 そして、誰にも気づかれないように、その場を離れていった。

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