第25話 最初の一歩
白い世界を、二人の蓮が走る。
黒い蓮が拳を振り上げた。
「くっ!」
蓮は横へ飛ぶ。
ドンッ!
拳が白い地面を砕いた。
「なんだよ、その力……!」
蓮は転がりながら立ち上がる。
黒い蓮は笑っていた。
『君と同じだよ』
「俺と?」
『君が持っている力を、僕も持っている』
「だったら――」
蓮はボールペンを握る。
「これでどうだ!」
突っ込む。
黒い蓮が腕を伸ばす。
ガシッ。
「うっ!」
腕を掴まれた。
力が強い。
「くそっ!」
蓮はポケットからスマートフォンを取り出した。
「これなら!」
【接続先選択】
蓮は――。
【日本】
を押す。
しかし。
【接続拒否】
「え?」
次に。
【リナの世界】
【接続拒否】
「なんでだよ!」
黒い蓮が笑う。
『ここは、どの世界にも属していない』
『だから君の力は使えない』
「じゃあ……」
蓮は周囲を見る。
何もない。
頼れる仲間もいない。
商品もない。
スマートフォンすら、まともに動かない。
「……」
蓮は深呼吸した。
そして笑った。
「なるほど」
『何がおかしい?』
「いや」
蓮はボールペンを見る。
「俺、今まで勘違いしてた」
『何を?』
「俺の力は、スマホでもカーテンでもない」
蓮は立ち上がった。
「俺自身が世界をつなぐんじゃない」
黒い蓮を睨む。
「人と人をつなぐんだ」
『……』
「ミリアと出会った」
「リナを助けた」
「狼王とも仲間になった」
「ガルドとも一緒に戦ってる」
蓮は笑った。
「俺がつないだのは、世界じゃない」
「人だ」
その瞬間。
白い空間に、小さな光が生まれた。
一つ。
二つ。
三つ。
そして――。
【接続を再構築】
スマートフォンが復活する。
「……!」
黒い蓮が後退した。
『なぜ……』
「分かったぞ」
蓮はスマートフォンを見る。
【第一接続先:日本】
【第二接続先:リナの世界】
【第三接続先:佐伯蓮】
【第四接続先:虚無の島】
そして新しく――。
【接続対象:仲間】
「世界を選ぶんじゃない」
蓮は画面を操作する。
「つながりを選ぶんだ」
その瞬間。
白い世界に声が響いた。
『レン!』
ミリアの声。
「ミリア!」
『聞こえる!?』
「ああ!」
次に。
『レンさん!』
リナ。
「リナ!」
『無事なのか!?』
狼王の声。
「狼王!」
『お前、勝手にどこへ行った!』
ガルドの怒鳴り声。
「ガルドまで!?」
『商売の決着がまだだぞ!』
「こんな時までそれかよ!」
蓮は笑った。
仲間たちの声が、一本の線になっていく。
白い世界に光が広がる。
黒い蓮が苦しそうに顔を歪めた。
『やめろ……』
「もう遅い」
蓮はボールペンを握った。
「俺は一人じゃない」
黒い蓮が叫ぶ。
『境界は一人でなければ成立しない!』
「違う」
蓮は走る。
「境界っていうのは――」
黒い蓮の胸へボールペンを突きつけた。
「誰かと誰かの間にあるものだ!」
ズドンッ!
白い世界が弾けた。
黒い蓮の身体に亀裂が走る。
『ぐ……ああああっ!』
黒い霧が噴き出す。
その霧の中から――。
一つの小さな光が落ちた。
蓮はそれを掴む。
「これは……?」
スマートフォンが反応した。
【原初接続キーを取得】
【所有者:佐伯蓮】
【使用条件:未確認】
黒い蓮が膝をつく。
「終わったのか?」
蓮が聞く。
『……まだだ』
「え?」
『僕は敵じゃない』
黒い蓮が顔を上げる。
その顔は、さっきまでの怪物ではなかった。
蓮と同じ、普通の人間の顔。
『僕は――』
そこで声が途切れた。
黒い霧の向こうから、別の声が響く。
『境界を守るために残された、最後の記憶だ』
蓮は目を見開いた。
「最後の……記憶?」
『そして、お前に伝えなければならない』
白い世界の奥。
巨大な扉が開き始める。
『境界喰らいは、最初から世界を食べていたわけではない』
「……じゃあ何を?」
『人間が作った』
「……!」
扉の向こうから、無数の黒い影が現れる。
『かつて、人間は世界と世界をつなごうとした』
『そして――』
黒い蓮の姿が消えていく。
『失敗した』
蓮の手の中で、原初接続キーが光った。
【警告】
【原初接続先を確認】
【接続先:日本】
蓮の顔が凍る。
「日本……?」
そして画面に、さらに文字が浮かんだ。
【原初接続の場所】
【佐伯家】
「……俺の家?」
蓮は息をのんだ。
その瞬間――。
遠くで、カーテンが開く音がした。
シャッ。
蓮は振り返る。
そこに見えたのは――。
自分の部屋。
そして、カーテンの前に立つ一人の少女だった。
「……誰だ?」
少女が振り向く。
その顔を見た瞬間。
蓮は凍りついた。
少女は――。
蓮の幼い頃の姿と、そっくりだった。
「やっと来たね」
少女が微笑む。
「境界の子」




