第23話 接続率50%の恐怖
蓮の腕に広がった黒い紋様。
スマートフォンには、無情な数字が表示されていた。
【第三接続先との接続率:37%】
【50%を超えた場合――】
そこから先は表示されない。
「50%を超えたら……何なんだよ!」
蓮が叫ぶ。
黒い人影は答えない。
ただ、笑っていた。
『もうすぐだ』
「……!」
蓮は歯を食いしばる。
「レン!」
ミリアが駆け寄る。
「大丈夫!?」
「大丈夫……」
蓮は立ち上がろうとする。
しかし。
ズキッ!
「ぐっ!」
腕に激痛が走った。
黒い紋様が、さらに肩へ伸びていく。
「蓮!」
リナが手をかざす。
「光の魔法を使います!」
白い光が蓮の腕を包む。
黒い紋様が少し薄くなる。
「……ありがとう」
「でも、完全には消えません」
リナが苦しそうに言う。
「この黒いものは、傷じゃない」
「じゃあ何なんだ?」
「接続そのものです」
「接続……」
蓮は腕を見る。
黒い紋様。
まるで血管のように広がっている。
つまり、敵が蓮を通じて世界へ侵入している。
「だったら……」
蓮は突然、スマートフォンを見た。
「接続を切ればいい」
「どうやって?」
ミリアが聞く。
「分からない」
「分からないの!?」
「でも――」
蓮は画面を操作する。
【第一接続先:日本】
【第二接続先:リナの世界】
【第三接続先:佐伯蓮】
【第四接続先:未確認】
「第四接続先……」
蓮は考えた。
第三接続が自分なら。
第四接続は何なのか。
「もしかして……」
蓮はリナの地図を広げた。
黒い点。
虚無の島。
「ここに何かある」
狼王が地図を見る。
「虚無の島か」
「ああ」
「そこには何もない」
「だから怪しい」
ガルドが腕を組む。
「何もない場所に、何かがあると言いたいのか?」
「そう」
蓮は頷いた。
「この敵は世界と世界をつなごうとしてる」
「だったら、最初からどこかに『核』があるんじゃないか?」
リナが目を見開く。
「核……」
「もし第四接続先が敵の本体なら――」
蓮はスマートフォンを握る。
「そこを切れば、俺との接続も切れるかもしれない」
黒い人影が突然叫んだ。
『やめろ!』
全員が振り返る。
「……」
蓮は笑った。
「当たりか」
『虚無の島へ行くな!』
「やっぱりな」
『そこには何もない!』
「だから行くんだよ」
黒い人影の姿が揺らぐ。
『行けば――』
「行けば?」
『お前は、自分自身の正体を知る』
「……」
蓮は黙った。
「俺の正体?」
『そうだ』
黒い人影は笑った。
『お前がなぜ世界をつなげるのか』
『なぜ日本と異世界を行き来できるのか』
『なぜ境界喰らいがお前を狙うのか』
『すべて分かる』
蓮の心臓が大きく鳴った。
「……なら、行く」
即答だった。
「レン!」
ミリアが驚く。
「危険だよ!」
「分かってる」
「でも――」
蓮はミリアを見る。
「知らないまま逃げるほうが怖い」
リナも静かに頷いた。
「私も行きます」
「リナ……」
「私の世界も関係しています」
狼王が立ち上がる。
「ならば我も行こう」
ガルドも続く。
「俺もだ」
「ガルドまで?」
「商売相手を勝手に連れていかれては困る」
「そればっかりだな」
「商人だからな」
二人は顔を見合わせて笑った。
その瞬間。
『ピコン』
スマートフォンに新しい表示。
【第四接続先】
【探索開始】
【候補地:虚無の島】
【距離:測定不能】
【危険度:測定不能】
そして――。
【接続率:41%】
「……!」
数字が上がった。
37%から41%。
「まずい!」
蓮が叫ぶ。
黒い紋様が肩から首へ伸び始める。
「このままだと……」
ミリアが蓮の腕を掴む。
「どうすればいいの!?」
「分からない!」
蓮は必死に画面を操作する。
その時。
【商品転送】
という文字が目に入った。
「……これだ」
「何?」
「接続を切れないなら――」
蓮はニヤリと笑った。
「接続先を変える」
ガルドが目を見開く。
「お前……まさか」
「ああ」
蓮はスマートフォンに手を置いた。
【商品転送】
【対象:佐伯蓮】
【転送先を選択してください】
画面には――。
【日本】
【リナの世界】
【虚無の島】
そして。
【第四接続先】
蓮は迷わず――。
「虚無の島」
を選択した。
「レン!」
「大丈夫!」
光が蓮の身体を包む。
黒い紋様が一気に光り始める。
そして――。
蓮の身体が消えかけた。
「待って!」
ミリアが手を伸ばす。
「絶対に戻ってきて!」
蓮は笑った。
「ああ!」
最後に見えたのは――。
ミリア。
リナ。
狼王。
ガルド。
そして――。
黒い人影の怯えた顔だった。
次の瞬間。
蓮の視界が真っ黒になる。
音が消える。
光も消える。
そして――。
「……ここが」
蓮は目を開けた。
そこには――。
何もなかった。
空も。
大地も。
木も。
海も。
ただ真っ白な空間が広がっている。
「虚無の島……?」
蓮が一歩歩く。
足音すらしない。
その時。
背後から声がした。
「ようこそ」
蓮が振り返る。
そこに立っていたのは――。
もう一人の、蓮だった。
「……え?」
そっくりな顔。
同じ声。
同じ姿。
ただし――。
その目だけが、真っ黒だった。
「待っていたよ」
もう一人の蓮が笑う。
「本物の境界の子」




