第21話 第三の接続先――俺自身
黒い空が震えていた。
巨大な目が、蓮を見つめている。
『接続を開始します』
「……俺に?」
蓮はスマートフォンを握りしめた。
【第三接続先】
【対象:佐伯蓮】
【接続準備中】
「ふざけるな……」
蓮は後ずさった。
「俺は場所じゃないぞ!」
「レン!」
リナが叫ぶ。
「そのままだと、あなたが境界喰らいの入口にされます!」
「入口……?」
「世界と世界をつなぐための入口です!」
蓮の顔が青ざめた。
つまり――。
自分を通じて、日本と異世界をつなごうとしている。
「そんなこと……させるか!」
蓮はスマートフォンを操作した。
【第三接続を拒否】
画面をタップする。
しかし――。
【拒否できません】
「なんでだよ!」
【接続先は対象者自身です】
「意味分からない!」
ミリアが叫ぶ。
「レン、どうするの!?」
「どうするって……」
蓮は周囲を見る。
黒い霧。
傷ついた狼たち。
怯えるリナ。
そして、自分の腕に広がる黒い紋様。
「……戦うしかないだろ」
蓮は立ち上がった。
「俺は商人だ」
ガルドが笑う。
「またそれか」
「ああ」
蓮はリュックを背負う。
「商人は、自分の商品を勝手に持っていかれたら困るんだよ」
「商品?」
「俺の世界も、この世界も――」
蓮は黒い空を睨んだ。
「勝手に持っていかせない」
ガルドがニヤリと笑った。
「なら、俺も手を貸そう」
「え?」
「商売相手が勝手に消えたら困るからな」
「ガルド……」
「勘違いするな」
ガルドは腕を組む。
「一週間勝負はまだ終わってない」
「お前には負けてもらわないと困る」
「……分かった」
蓮は笑った。
「じゃあ一緒に戦おう」
「違う」
「え?」
「戦いが終わったら――」
ガルドは指を一本立てた。
「売上で勝負だ」
「そこは譲らないのかよ!」
ミリアが吹き出した。
「二人とも商人なんだね……」
その時。
『ピコン』
スマートフォンに新しい表示が出た。
【境界保護】
【対象追加】
【第一接続先:日本】
【第二接続先:リナの世界】
【第三接続先:佐伯蓮】
そして――。
【第四接続先:未確認】
「……第四?」
蓮が固まる。
「まだあるのかよ!」
リナが地図を取り出す。
「第四接続先……」
地図の端に、今まで存在しなかった黒い点が浮かび上がっていた。
「ここ……」
リナが指差す。
「虚無の島です」
「虚無の島……」
蓮は地図で見た場所を思い出した。
何もかもが消えたという島。
そして――。
第三接続候補が存在する場所。
「まさか……」
狼王が唸る。
「そこが敵の巣かもしれぬ」
その瞬間。
黒い空から、無数の黒い糸が降ってきた。
「来るぞ!」
ガルドが叫ぶ。
蓮はリュックからLEDライトを取り出す。
「ミリア!」
「分かってる!」
魔法で火を灯す。
「リナ!」
「はい!」
翼から白い光が広がる。
「狼王!」
「任せろ!」
狼の群れが一斉に走り出した。
そしてガルドは――。
「おい、蓮」
「何?」
「その光る道具、まだあるか?」
「LEDライト?」
「ああ」
「あるけど」
「全部出せ」
「全部!?」
「商売だ」
ガルドは笑った。
「今からこの森を――」
LEDライトを受け取り、地面に並べていく。
「――巨大な市場にする」
「市場!?」
ガルドの商人たちが次々と商品を運び始める。
食料。
水。
毛布。
薬。
生活用品。
森の狼たちが驚いて見つめている。
「何してるんだ?」
蓮が聞く。
「売るんだよ」
「こんな状況で?」
「こんな状況だからだ」
ガルドは真顔だった。
「必要なものがあるなら、必要な人間に届ける。それが商人だろ?」
蓮は一瞬黙った。
そして笑った。
「……それ、俺も同じ考えだ」
二人の商人が並んだ。
黒い霧が迫る。
光が森を照らす。
商品が並ぶ。
人と獣が集まる。
そして――。
【臨時商業区域を確認】
【境界安定度:上昇】
スマートフォンに表示が出た。
「え……?」
蓮が画面を見る。
【商業活動による境界安定を確認】
【取引が世界間接続を安定させています】
「商売が……」
蓮は呟いた。
「境界を安定させてる?」
ガルドも画面を覗き込む。
「つまり――」
「俺たちが商売すること自体が……」
二人は同時に黒い空を見上げた。
境界喰らいの巨大な目が、初めて苦しそうに歪んだ。
『接続――阻害』
『取引活動――検知』
『境界安定――上昇』
蓮は目を見開いた。
「……そういうことか」
境界喰らいが世界をつなぐために必要なのは、境界の破壊。
ならば――。
「俺たちは逆に、世界をつなぐ」
蓮は笑った。
「壊すんじゃなくて――」
ガルドが続ける。
「取引でな」
その瞬間。
森の奥から、聞いたことのない声が響いた。
『……商人……』
全員が振り返る。
黒い霧の中。
誰かが立っている。
人間のような姿。
しかし顔は見えない。
その人物が、ゆっくりと口を開いた。
『ならば――』
『我々も、取引をしよう』
蓮のスマートフォンが震えた。
【第三接続候補から交渉要求】
【取引内容:境界】
蓮は息をのんだ。
「……第三接続先が、交渉してきた?」
黒い人影が笑う。
『お前が望むものを一つ与えよう』
『その代わり――』
『お前自身を渡せ』
蓮の表情が固まった。




