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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第3章 未知の海へ!最初の商人と境界の秘宝
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第26話 ヴェルティアの大商談! そして明かされる裏切り者の名

北方交易都市。

倉庫が崩壊した翌朝。

蓮たちは、宿屋の一室に集まっていた。

テーブルの上には、昨日拾った古い鍵。

その隣には、スマートフォンに表示された北方山岳地帯の地図。

「……第一境界の封印を解く者へ、か」

蓮は鍵を手に取った。

「これ、どう考えても普通の鍵じゃないよな」

「普通の鍵なら、あんな倉庫の崩壊には関係しないでしょう」

ミリアがため息をつく。

「それに、あの男は佐伯家の紋章を持っていました」

リナが地図を指差した。

「北の山に何かあるのは間違いありません。でも、今すぐ向かうのは危険です」

狼王が腕を組む。

「敵の正体も分からぬまま山に入るのは愚策だ」

「だよな……」

蓮は鍵をポケットにしまった。

「まずは情報を集めよう」

そのとき。

コンコン!

扉が勢いよく開いた。

「蓮様! 大変です!」

セレナが飛び込んでくる。

「今度は何ですか!?」

「市場で、私の妻としての評判が――」

「境界の話をしてください!」

「……冗談です♡」

「朝から心臓に悪い!」

セレナは楽しそうに笑った。

だが、その直後。

廊下から、聞き覚えのある声が響いた。

「相変わらず騒がしいわね」

蓮が振り返る。

そこに立っていたのは――

ヴェルティアだった。

華やかな衣装に、余裕たっぷりの笑顔。

そして、両手には大きな荷物。

「ヴェルティアさん!?」

「久しぶりね、蓮」

「どうしてここに?」

「決まっているでしょう?」

ヴェルティアは荷物をテーブルに置いた。

「商談よ」

          ◇

「まずはこれを見てちょうだい」

ヴェルティアが取り出したのは、分厚い帳簿だった。

そこには、彼女の商会が扱う商品の仕入れ先や販売量、取引相手が細かく記録されている。

「あなたが教えてくれたチョコレート。おかげで、私の商会は大繁盛よ」

「それはよかった」

「特に生チョコとブランデーボンボンが人気ね。貴族たちは贈り物に使うし、商人たちは高級品として扱いたがっているわ」

「なるほど……」

蓮は頷いた。

「でも、数量を限定しているんです。無理に売りすぎると、仕入れも品質管理も大変になるので」

「そこがあなたの面白いところよ」

ヴェルティアは笑った。

「利益だけを追う商人なら、売れるだけ売ろうとする。でもあなたは、売り続けられる量を考える」

「商売は続けられなきゃ意味がありませんから」

「ええ。だからこそ、次の取引を提案したいの」

ヴェルティアは別の書類を広げた。

「チョコレートに加えて、日本のお酒を正式に扱いたいわ」

「お酒ですか?」

「ええ。特にワイン。あなたが持ち込んだワインを試したでしょう? あの香りと味は、この世界の商品とはまったく違う」

彼女の目が輝く。

「高級飲食店や貴族向けの贈答品として、大きな需要があるはずよ」

「ただし、仕入れ量は相談です。こちらにも限界があります」

「もちろん。独占契約を迫るつもりはないわ」

ヴェルティアは指を一本立てた。

「まずは試験販売。売れ行きと品質管理を確認してから、規模を広げる。それならあなたも安心でしょう?」

蓮は少し考え、笑った。

「いいですね。まずは少量から始めましょう」

「商談成立ね!」

ヴェルティアは満足そうに手を差し出した。

二人は握手を交わす。

その瞬間、セレナがすっと蓮の隣に立った。

「蓮様。私たちも夫婦として共同経営を――」

「夫婦じゃありません!」

「では、婚約者として?」

「それも違います!」

ヴェルティアが面白そうに目を細めた。

「あら。蓮、ずいぶん人気があるのね」

「助けてください……」

「嫌よ。面白いもの♡」

「ヴェルティアさんまで!」

狼王は、テーブルに置かれた菓子の袋を見つけていた。

「……それは何だ?」

「ああ、チョコレートの試作品よ」

「食べていいのか?」

「商談用よ」

「つまり、試食が必要なのだな」

「話が早いわね」

狼王は一つ口に入れた。

数秒後。

「……うむ」

「どう?」

「もう一つ」

「感想は!?」

「もう一つ食べてから考える」

「狼王、商談を試食会にするな!」

久しぶりに、部屋に笑い声が戻った。

だが、ヴェルティアは帳簿を閉じると、急に真剣な顔になった。

「蓮。実は、あなたに伝えたいことがあるの」

「何ですか?」

「私の商会に、奇妙な取引の記録が届いたわ」

          ◇

ヴェルティアが取り出したのは、一枚の古い伝票だった。

記載されている商品は、食料、衣服、鉱石、魔道具。

どれも大量だ。

「これは、北方の複数の商会を通じて運ばれていた商品よ。ところが、仕入れ先がどこにも登録されていない」

「仕入れ先がない?」

「ええ。商品が突然現れて、各地に流通している。しかも、運搬に関わった商人たちは、全員同じ証言をしているの」

ヴェルティアは伝票を指で叩いた。

「荷物を受け取った場所を、誰も覚えていない」

ミリアが顔を強張らせる。

「記憶を操作されたのでしょうか?」

「その可能性はあるわね」

蓮は伝票を確認した。

その隅に、小さな印が押されていた。

黒く塗りつぶされた佐伯家の商業紋章。

「これ……昨日の倉庫にあったものと同じだ」

リナが息をのむ。

「やっぱり、あの男が関係しているんですね」

「それだけじゃないわ」

ヴェルティアは、もう一枚の紙を取り出した。

そこには、古い取引記録の写しがあった。

数十年前の日付。

取引相手の名前。

そして――

『佐伯家・交易監査役』

蓮は目を見開いた。

「交易監査役……?」

「昔、境界を通じた交易を管理していた人物らしいわ。佐伯家の初代当主に近い立場だったみたい」

「そんな人がいたのか……」

「名前も残っているわ」

ヴェルティアは記録を蓮に渡した。

そこに書かれていた名前は――

佐伯景真(さえき・かげま)

蓮の背筋に冷たいものが走った。

「佐伯……家の人間?」

「そう考えるのが自然ね。でも、この人物はある事件のあと、記録から姿を消している」

「ある事件?」

ヴェルティアは静かに頷いた。

「第一境界の封印に関わる事件よ」

部屋が静まり返った。

佐伯家の記録。

北方の山。

古い鍵。

そして、黒い紋章を使う謎の商人。

すべてが、第一境界へつながっていた。

「……景真は、何をしたんだ?」

蓮が呟く。

ヴェルティアは首を横に振った。

「そこまでは分からない。ただ、最後の記録には、こう書かれていたわ」

彼女は紙の末尾を読み上げた。

「『境界を守る者、境界を利用する者となる』」

ミリアが口元を押さえた。

「まさか……佐伯家の中に、境界を悪用した人がいたんですか?」

「可能性は高いわ」

蓮は黙って鍵を握りしめた。

自分の家が守ってきたもの。

その一族の中に、守ることをやめた人間がいたのかもしれない。

          ◇

「蓮」

ヴェルティアが真剣な声で呼んだ。

「北方山岳地帯へ行くつもりでしょう?」

「ああ」

「なら、私も情報面で協力するわ。ただし、商会を空にするわけにはいかないから、私はここに残る」

「助かります」

「その代わり、約束して」

「何を?」

「境界が不安定な場所では、利益より命を優先すること。あなたが倒れたら、私のチョコレートの仕入れ先がなくなるもの」

「そこは心配してくれてるんですよね?」

「もちろん。八割くらいは♡」

「残り二割は!?」

セレナがすかさず割り込む。

「蓮様の命は、私が全力でお守りします! 妻として!」

「だから妻じゃない!」

ヴェルティアは笑いながら、蓮に小さな封筒を渡した。

「これも持っていって。北方の山道に詳しい案内人を紹介しておいたわ」

「ありがとうございます」

「それと、もう一つ」

彼女の笑顔が消えた。

「昨日、あなたたちが倉庫を調べていたころ、北の山から商人が一人戻ってきたそうよ」

「戻ってきた?」

「ええ。でも、様子がおかしかったらしいわ」

「どんなふうに?」

ヴェルティアは一拍置いて答えた。

「自分が誰なのか、分からなくなっていたそうよ」

全員が息を止めた。

「その商人は、山で何を見たのか……」

蓮は窓の外を見た。

遠くに、雪をかぶった北の山がそびえている。

あの山には、第一境界の秘密が眠っている。

そして、黒い紋章の商人も、そこを目指しているはずだ。

蓮はスマートフォンを取り出した。

【北方山岳地帯】

【第一境界への接続候補】

【警告:記憶・空間への干渉反応】

【推奨:単独接近を禁止】

「……記憶まで奪うのか」

蓮は画面を閉じた。

「明日、山へ向かう」

ミリアが頷く。

「準備を整えましょう」

リナも地図を広げた。

「案内人がいれば、少しは安全に進めるはずです」

狼王は立ち上がった。

「道を塞ぐものがいれば、我が蹴散らす」

セレナは蓮の腕にそっと手を添えた。

「蓮様。絶対に一人で無茶をしないでくださいね」

「ああ。約束する」

その夜。

蓮は、古い鍵と伝票を机に並べた。

佐伯景真。

第一境界の封印。

そして、記憶を失った商人。

まだ分からないことばかりだ。

だが、一つだけ確かなことがある。

この事件は、ただの密輸ではない。

世界をつなぐ力そのものを、誰かが奪おうとしている。

そして、その鍵を握るのは――

佐伯家の血を引く、自分なのかもしれなかった。

そのころ。

北方山岳地帯の奥深く。

黒い外套の男が、古い扉の前に立っていた。

「佐伯蓮が動き始めたか」

男は手の中の黒い鍵を見つめる。

「ならば、計画を早めよう」

扉の向こうから、低い声が響いた。

『血を引く者が来るのか』

男は笑った。

「ええ。あなたが待ち続けた、最後の商人です」

扉の表面に、古い紋章が浮かび上がった。

それは――

佐伯家の、本来の紋章だった。

そして、その中央には。

黒く塗りつぶされた部分が、ゆっくりと元の色を取り戻し始めていた。

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