第13話 百円ショップは異世界の宝庫
「助けて……?」
佐伯蓮は、スマートフォンの画面を見つめていた。
【第二接続先から通信を受信】
【助けて】
それだけ。
「誰なんだ……」
何度触っても、それ以上の表示は出ない。
「蓮!」
カーテンの向こうからミリアの声がした。
「どうした?」
「早く!」
「分かった!」
蓮はスマートフォンをポケットに入れた。
今は考えても仕方がない。
まずは商売だ。
そして――。
ガルドとの勝負。
蓮は大量の買い物袋を持って、異世界へ戻った。
「……多い」
ミリアが目を丸くする。
「買いすぎた」
「何を買ったの?」
「秘密兵器」
蓮は袋を開けた。
最初に出したのは――。
「これ」
「箱?」
「収納箱」
百円ショップで買ったプラスチック製の収納ケースだった。
ミリアが蓋を開ける。
「軽い」
「しかも水に強い」
「魔法?」
「違う」
「また?」
「日本では普通なんだよ」
次に取り出したのは――。
洗濯ばさみ。
スポンジ。
掃除用ブラシ。
タオル。
小さな鏡。
爪切り。
そして。
「これも売れると思う」
蓮が出したのは――。
折りたたみ傘。
ミリアが首を傾げる。
「棒?」
「雨を防ぐ道具」
蓮が開く。
バッ――!
傘が広がった。
「……!」
ミリアの目が輝いた。
「すごい!」
「だろ?」
「盾にもなる?」
「いや、盾じゃない」
「でも便利」
「それはそう」
蓮は笑った。
そして。
ギルドへ向かった。
「佐伯さん!」
グレンが待っていた。
「いよいよ勝負ですね」
「ああ」
「ガルド商会は、すでに動いています」
「何を売っているんです?」
グレンは少し困った顔をした。
「高級品です」
「高級品?」
「高級な食器。高級な保存食。高級な魔道具」
蓮は苦笑した。
「なるほど」
ガルドは金を使って勝負するつもりらしい。
なら。
蓮は逆を行く。
「安くて、毎日使えるものを売る」
「それが作戦ですか?」
「ああ」
その日の午後。
ギルド前に小さな露店ができた。
看板には――。
【日本の日用品】
と書かれている。
「……本当にこれで大丈夫なんでしょうか」
グレンが不安そうに聞く。
「やってみないと分かりません」
蓮は収納箱を並べた。
洗濯ばさみ。
タオル。
スポンジ。
鏡。
爪切り。
傘。
そして――。
「石鹸もあります!」
女性客が集まった。
「石鹸?」
「はい。泡立てて使います」
実演してみせる。
泡が立つ。
「わあ……!」
「手がきれいになる?」
「はい」
「いくら?」
蓮は少し考えた。
「銀貨一枚」
「買います!」
一人。
二人。
三人。
あっという間に人が増えていく。
「こっちのタオルは?」
「銀貨二枚です」
「買う!」
「この鏡は?」
「銀貨一枚」
「それも!」
蓮は驚いた。
「……売れる」
しかも。
一つ一つの値段は安い。
しかし数が多い。
「これが……日用品商売」
グレンが感心したように呟いた。
「高級品じゃなくても、たくさんの人が必要とするものを売れば利益になる」
「そういうことです」
その頃。
少し離れた場所では、ガルドが露店を見ていた。
「……なるほど」
部下が尋ねる。
「どうしますか?」
「まだ動くな」
「しかし、このままでは――」
「焦るな」
ガルドは蓮を見つめる。
「奴は一つ見落としている」
「何を?」
「供給だ」
ガルドは笑った。
「奴の商品は、この世界には存在しない」
「つまり?」
「仕入れ先が一つしかない」
部下が目を見開く。
「……佐伯本人」
「そうだ」
ガルドは静かに言った。
「奴が持ってこなければ、商品は増えない」
その夜。
蓮の露店は大成功だった。
「今日だけで金貨三枚……」
蓮は売上を数えていた。
「すごい」
ミリアも嬉しそうだ。
「百円ショップ、すごい」
「だから言っただろ」
「日本は宝庫」
「それな」
蓮は笑った。
しかし。
その直後。
スマートフォンが震えた。
――ピッ。
【警告】
【第二接続先:接近】
「……またか」
画面が変わる。
【通信を受信】
そして。
昨日と同じ言葉。
【助けて】
だが今回は、その下に続きがあった。
【ここは――】
文字が途切れる。
蓮は画面を見つめる。
「ここは……?」
次の瞬間。
画面に、見たことのない文字が浮かんだ。
【あなたの世界ではない】
蓮の背筋が凍った。
「……どういう意味だ?」
ミリアが心配そうに見る。
「蓮?」
そのとき。
カーテンが――。
ゆっくりと揺れた。
風はない。
窓も閉まっている。
それなのに。
カーテンの向こうから。
――コン。
誰かが叩いた。
蓮は動けなかった。
――コン。
もう一度。
今度は、はっきり聞こえた。
ミリアが震える。
「蓮……」
蓮はゆっくり立ち上がる。
「……誰だ?」
返事はない。
ただ。
カーテンの向こう側から。
もう一度。
――コン。
そしてスマートフォンに新しい文字が表示された。
【第二接続先】
【開きますか?】
その下に。
【YES】
【NO】
二つの選択肢。
蓮は画面を見つめる。
指を伸ばしかけて――。
止めた。
「……まだだ」
「え?」
「これは、今すぐ開いちゃいけない気がする」
蓮はスマートフォンを握った。
商売勝負。
ガルド。
狼王。
そして第二の世界。
すべてが少しずつ動き始めている。
だが――。
その夜。
カーテンの向こう側から聞こえた声は。
今までとは違っていた。
小さな。
幼い声。
「……たすけて」
蓮は目を見開いた。
「子供……?」
そして。
第二の世界への扉が――。
静かに、開き始めた。




