第20話 最強代表チキン降臨! ケンタッピー&コーラで全員天国へ!?
竜王国・王都。
「……まさか、ここまで人気が出るとは」
俺、佐伯蓮は、店の売上帳を見ながら呟いた。
昨日のコンビニ唐揚げ試食会。
結果は――大成功。
冒険者から商人、騎士まで、みんな唐揚げの虜になってしまった。
特に狼王はひどい。
「蓮。今日の唐揚げはまだか?」
朝から店に来ている。
「まだです!」
「なぜだ!」
「朝ご飯を食べたばかりでしょう!」
「肉は別腹だ!」
「狼王、別腹の使い方がおかしい!」
ガルドが帳簿をめくりながら笑った。
「こいつら、すっかり日本の食べ物に夢中だな」
「本当にね……」
俺は肩を回した。
ここ数日、店の準備や販売で働きっぱなしだった。
ミリアもリナも、セレナも手伝ってくれた。
みんな疲れている。
「……よし」
俺は顔を上げた。
「今日はお疲れ会をやろう!」
「お疲れ会?」
ミリアが首を傾げる。
「そう。いつも手伝ってくれてるみんなへのご褒美だ」
「ご褒美……!」
リナの目が輝いた。
狼王はすでに立ち上がっていた。
「肉か?」
「肉だ」
「行くぞ!」
「まだ何も説明してない!」
◇
俺はスマートフォンを取り出した。
今日のお疲れ会は、いつもの商品とは違う。
販売用ではない。
完全に身内だけで楽しむ、特別なパーティーだ。
「今回は日本を代表するチキンを用意します」
「日本を代表するチキン?」
ガルドが聞き返した。
「いや、正確には日本でも大人気の、あのチキンだ」
俺は注文画面を開いた。
ケンタッピーフライドチキン。
オリジナルチキン。
クリスポー。
ポテト。
ビスケット。
それから――
「コーラも大量に!」
「コーラ?」
「シュワシュワする甘い飲み物です」
「また不思議な飲み物か……」
ミリアが期待に満ちた顔をする。
「前に飲んだとき、とてもおいしかったです」
「今回はさらに、特別なものを用意するぞ」
俺はニヤリと笑った。
「生ビールだ!」
「ビール?」
ガルドの目が変わった。
「おい、蓮。それは本当か?」
「本当だよ。もちろん飲める人だけな」
ガルドは静かに拳を握った。
「……今日は帰らん」
「いや、帰ってください。ここでやるんですから!」
そして注文を確定する。
チキンは大量。
コーラも大量。
生ビールも、飲む人の分をしっかり用意。
今日は売上も仕事も忘れて楽しむ日だ。
スマートフォンに表示された注文内容を見て、俺は思わず笑った。
「……買いすぎたかな」
狼王が即答する。
「少ないよりはいい」
「まだ食べてもいないのに!」
◇
夕方。
店の奥にある広い部屋。
テーブルの上には、大量の箱が並んでいた。
そして――
フタを開けた瞬間。
ふわあああっ……!
香ばしい匂いが部屋いっぱいに広がった。
「おおおおおっ!」
狼王が吠えた。
リナは口元を押さえる。
「すごい……! こんなにたくさん!」
ミリアは箱の中を覗き込んだ。
「これが全部、鶏肉なんですか?」
「そうだよ」
俺は箱を開けていく。
カリッとした衣に包まれた、大きなフライドチキン。
その独特のスパイスの香り。
見ているだけでお腹が鳴る。
「こちらがオリジナルチキン」
俺が説明する。
「そして、こっちはクリスピー。衣が違うんだ」
「両方食べる!」
リナが即答した。
「もちろん、好きなだけどうぞ」
「蓮様」
セレナが優雅に微笑んだ。
「私の分は、蓮様が選んでくださいますか?」
「いいですよ。どれがいいですか?」
「蓮様と同じものを」
「じゃあオリジナルチキンにします?」
「はい♡」
「……普通に注文できるじゃないですか」
「蓮様に選んでいただくことが大切なのです」
「そうですか……」
その横では、狼王がすでにチキンを両手に持っていた。
「では、いただく!」
ガブッ!
「…………」
狼王が固まった。
「狼王?」
返事がない。
もう一口。
ガブッ!
そして、ゆっくりと目を閉じた。
「……これは」
「どうです?」
狼王は天を仰いだ。
「肉の神が降臨した……!」
「大げさだな!」
しかし、笑っていたガルドも一口食べると黙り込んだ。
カリッ。
ジュワッ。
スパイスの香り。
鶏肉の旨味。
「……蓮」
「はい?」
「これは商売に使える」
「お疲れ会だって言ってるでしょう!」
「分かっている。今日は仕事の話はしない」
ガルドはチキンをもう一口食べた。
「明日、考える」
「絶対に忘れてないじゃないですか!」
◇
「では、飲み物も配ります!」
俺はコーラをグラスに注いだ。
シュワシュワシュワ……。
黒い液体に、細かな泡が立ち上る。
「これがコーラです」
リナがグラスを受け取った。
「いただきます!」
ゴクッ。
「……!」
目が丸くなった。
「甘い! それに、口の中がシュワシュワする!」
「気に入った?」
「はい! チキンと一緒に飲むと、すごくおいしいです!」
ミリアも一口飲んだ。
「炭酸が爽やかですね。油っぽさもすっきりします」
「そうそう。チキンにはコーラが合うんだよ」
セレナもグラスを持ち上げた。
「蓮様。こちらも素晴らしいですね」
「でしょう?」
「この飲み物も、ぜひ私たちの食卓に……」
「今日は商売の話は禁止です!」
「残念です♡」
一方、ガルドと狼王には生ビールを用意した。
冷えたジョッキに注がれた黄金色の液体。
白い泡がふわりと盛り上がる。
「これが生ビールか……」
ガルドがジョッキを持ち上げる。
狼王も興味深そうに眺めた。
「麦の酒だな」
「そう。大人向けの飲み物だよ。飲むならゆっくりね」
「分かっている」
二人はジョッキを軽く合わせた。
「乾杯!」
ゴクッ。
ガルドが目を見開いた。
「……うまい!」
狼王も喉を鳴らした。
「冷たい! そして、この苦味……肉に合う!」
「だろ?」
俺も自分のジョッキを持ち上げた。
「みんな、今日は本当にありがとう。店がここまでやってこられたのは、みんなのおかげだ」
「蓮さん……」
ミリアが微笑んだ。
リナも頷く。
「これからも一緒に頑張りましょう!」
「うん。でも、今日は仕事のことは忘れて楽しもう!」
俺たちはグラスとジョッキを掲げた。
「お疲れさま!」
「「「乾杯ーっ!」」」
◇
それから先は――
もう、説明する必要もないだろう。
狼王はチキンを次々と平らげた。
「この衣! この肉汁! 素晴らしい!」
リナはクリスポーとポテトを交互に食べている。
「こっちもおいしい! あっ、ビスケットも食べたい!」
ミリアはコーラを飲みながら、幸せそうにチキンを頬張っていた。
「こんなにおいしいものを、みんなで食べられるなんて……」
セレナは俺の隣で、チキンを一口ずつ味わっている。
「蓮様と一緒に食べると、いつも以上においしいですね♡」
「それは気のせいじゃないですか?」
「いいえ。愛の力です」
「チキンの力だと思います」
ガルドはビールを飲み、チキンを食べ、満足そうに頷いていた。
「この組み合わせは反則だな……」
そして狼王。
両手にチキン。
口いっぱいに頬張りながら、堂々と宣言した。
「我は今、人生で最も幸福だ!」
「狼王、人生って何年生きてるんですか!」
「細かいことは気にするな!」
全員が笑った。
笑って、食べて、飲んで。
気づけばテーブルの上は空箱だらけ。
コーラのボトルも空。
ビールを飲んだ大人たちは、すっかり上機嫌になっていた。
「……もう、食べられない」
リナが椅子にもたれた。
「私もです……」
ミリアもお腹を押さえている。
セレナは俺の肩にそっと寄りかかった。
「蓮様……幸せです……」
「セレナさん、寝ないでくださいね」
「蓮様のお隣で眠れるなら……」
「眠らないで!」
ガルドは椅子に深く座り、天井を見上げていた。
「……いい店だ」
「ここ、俺の店の奥ですよ」
「分かっている……」
そして狼王は――
床に大の字になっていた。
「……天国だ」
「まだ生きてますからね!」
「分かっている……だが、心は天国にいる……」
俺は思わず吹き出した。
「みんな、そんなに喜んでくれるとは思わなかったよ」
ミリアが優しく笑う。
「おいしいものを食べると、心まで幸せになりますから」
「ああ……そうだな」
日本にいた頃、コンビニで買っていた唐揚げ。
特別な日でも何でもない、いつもの食べ物。
でも、こうして異世界の仲間たちと囲むと、何倍もおいしく感じる。
俺は空になった箱を見つめて、満足そうに笑った。
「また、みんなでやろうな」
「「「ぜひ!」」」
狼王だけは、すでに眠りかけていた。
「次は……チキンを……倍に……」
「聞こえてますよ!」
◇
その夜。
お疲れ会は、大成功に終わった。
ただし、翌朝。
店の奥には、食べすぎて動けない狼王と、二日酔い気味のガルドが残されていた。
「……蓮」
ガルドが呻く。
「水をくれ……」
「はいはい」
狼王も床から顔を上げた。
「蓮……昨日の肉は……」
「今日はありません!」
「なぜだ……」
「昨日、あれだけ食べたでしょう!」
俺は笑いながら片付けを始めた。
そしてスマートフォンにメモを残す。
『身内限定チキンパーティー、大成功』
『次回は食べすぎ注意』
『狼王には個数制限を設けること』
その直後。
ピコン。
【新規商品への関心を確認】
【対象:フライドチキン】
【購入希望者:多数】
「……え?」
俺は画面を見つめた。
昨日のパーティーを、誰かが外から見ていたのか?
いや、違う。
どうやら、店の外までチキンの香りが広がっていたらしい。
そして――
「蓮! 昨日の肉を売る予定はないのか!」
店の外から、冒険者たちの声が聞こえた。
俺は天井を仰いだ。
「……また、商売が増えた」
異世界の仲間たちを天国へ送った日本代表チキン。
その人気は絶大だった。




