第19話 唐揚げの誘惑! 異世界にコンビニ唐揚げファン爆誕!
竜王国・王都。
「……疲れた」
俺、佐伯蓮は店のカウンターに突っ伏していた。
原因は分かっている。
ヴェルティアだ。
ブランデーボンボンをプレゼントした結果、彼女はチョコレート専属商人になりたいと言い出し、販売計画書まで作ってきた。
しかも、チョコレートを食べるたびに別人のようになる。
「チョコレートって、あんなに人を変えるのか……」
「蓮さん、あの方は特別だと思います」
ミリアが苦笑した。
「ですよね……」
俺はスマートフォンを取り出した。
「こういうときは、やっぱり日本の食べ物だな」
取り出したのは――
コンビニの唐揚げ。
袋を開けると、香ばしい匂いが広がった。
「いただきます」
ひと口。
カリッ。
ジュワッ。
「……うまい!」
思わず声が出た。
衣はカリカリ。
中はジューシー。
醤油とニンニクの味がたまらない。
チョコレートもいい。
だが、疲れたときの唐揚げは別格だ。
「蓮、何を食べている?」
狼王が鼻を動かした。
「唐揚げです」
「からあげ?」
「日本のコンビニで売っている、鶏肉の揚げ物ですよ」
俺は袋を差し出した。
「食べます?」
狼王の目が光った。
「当然だ」
一個、口に入れる。
カリッ。
モグモグ。
狼王が動きを止めた。
「…………」
「狼王?」
「もう一個」
「え?」
「もう一個だ」
「気に入ったんですか?」
「いいから、もう一個!」
狼王が珍しく身を乗り出した。
俺は笑いながら唐揚げを渡した。
狼王は二個目を食べると、堂々と宣言した。
「これは肉料理の傑作だ!」
「大げさですよ!」
「大げさではない!」
そこへ、リナがやって来た。
「何の騒ぎ?」
「唐揚げです」
「私も食べたい!」
一個渡す。
リナは口に入れた瞬間、目を丸くした。
「なにこれ! 外はカリカリなのに、中はすごく柔らかい!」
「でしょう?」
「もう一個!」
「狼王と同じことを言ってる……」
ミリアも興味津々で手を伸ばした。
「では、私も一つ」
ひと口食べる。
「……おいしい」
ミリアの表情が緩んだ。
「この香ばしさ、魔法では再現できそうにありませんね」
「魔法で唐揚げを作ろうとしないでください」
「少しだけ研究してみたいです」
「やめて! 唐揚げは普通に食べて!」
店の奥で、ガルドが帳簿を閉じた。
「おい。そんなにうまいなら、俺にも食わせろ」
「ガルド、いつからいたんですか?」
「最初からだ」
「絶対、匂いにつられて来たでしょ!」
ガルドは唐揚げを一つ食べた。
そして、黙った。
「……なるほど」
「どうです?」
「これは売れる」
「感想が商人すぎる!」
ガルドは真剣な顔で続けた。
「酒のつまみにもなる。冒険者の食事にもなる。屋台で売れば行列ができるぞ」
「確かに……」
俺はスマートフォンを確認した。
コンビニの唐揚げ。
異世界で販売するなら、冷凍や保温の方法、衛生管理、価格設定も考えなければならない。
だが、需要はありそうだ。
「よし。まずは少量で試験販売してみるか」
「俺は毎日買うぞ!」
狼王が即答した。
「まだ売ると決めてないから!」
そのとき、店の入口から声がした。
「……何を召し上がっているのですか?」
振り向くと、セレナが立っていた。
「唐揚げです」
「唐揚げ……」
セレナは一つ受け取り、上品にひと口食べた。
次の瞬間。
「……蓮様」
「はい?」
「こちらも、妻として研究する必要があります」
「どうして妻が出てくるんですか!」
「蓮様のお好きな食べ物を知ることは、大切ですから♡」
「だから妻じゃないって!」
セレナは二個目に手を伸ばした。
「これは……危険ですね」
「何がです?」
「一度食べると、止まらなくなります」
「分かります」
結局、みんなで唐揚げを囲むことになった。
狼王は追加を要求し、リナは味付けの種類を尋ね、ミリアは調理方法を分析し、ガルドは販売計画を考えている。
セレナは、なぜか俺の隣を陣取っていた。
「……ただの唐揚げなのに」
俺は空になった袋を見つめた。
日本のコンビニ。
いつでも買える、何気ない食べ物。
それが異世界では、こんな騒ぎになる。
商売の可能性は、まだまだありそうだ。
◇
翌朝。
店に一通の手紙が届いた。
差出人は――ヴェルティア。
『蓮様へ。
私は本拠地へ戻ることにいたしました。
チョコレートの販売網を整え、こちらの世界に新しい商売を広げるためです。
ただし、チョコレートの新商品が出た場合は、必ず私にも知らせてください。
特に生チョコとブランデーボンボンについては、最優先でお願いします。
それから、婚約の件は引き続き前向きに検討しております。
ヴェルティア』
「……最後の一文、いらないだろ!」
俺は思わず叫んだ。
ミリアが手紙を覗き込む。
「本拠地へ戻るんですね」
「ああ。チョコレートの商売を本格的に始めるみたいだ」
「少し寂しくなりますね」
「そうだな。騒がしい人だったけど」
その瞬間、スマートフォンが鳴った。
ピコン。
【新規商業ルートの候補を確認】
【ヴェルティア商会・本拠地】
【交易提携の可能性:高】
「……商売のつながりは残るのか」
俺は笑った。
「よし。いつか新商品を届けてやろう」
セレナがすかさず隣に立つ。
「蓮様。そのときは私も同行いたします」
「まだ行くって決まってないから!」
「では、今から準備を始めますね♡」
「聞いてない!」
◇
その日の昼。
俺は店の前に小さな看板を出した。
『日本のコンビニ唐揚げ・試食会』
すると――
冒険者たちが集まり始めた。
「肉料理だって?」
「狼王様が絶賛したらしいぞ!」
「本当か?」
「俺はもう食べた! あれはすごい!」
口コミの力は恐ろしい。
気がつけば、店の前には長い列ができていた。
「お一人様、まずは一個ずつです!」
「二個目は?」
「試食のあとで販売分をご案内します!」
「買えるのか!」
「もちろん、準備できる数だけです!」
カリッ。
ジュワッ。
「うまい!」
「酒に合いそうだ!」
「冒険に持っていきたい!」
「家族にも食べさせたい!」
あちこちから歓声が上がる。
そして、最後尾に並んでいた狼王が腕を組んだ。
「蓮。俺の分は確保してあるな?」
「お客様と同じ扱いです!」
「俺は常連になるぞ」
「もうファンになってるじゃないですか!」
狼王は堂々と胸を張った。
「当然だ!」
俺は空を見上げた。
チョコレートに夢中のヴェルティアは本拠地へ帰った。
そして今度は、唐揚げに夢中な狼王たちが誕生した。
「……この世界、食べ物に弱すぎないか?」
ミリアが笑う。
「おいしいものは、世界を越えてもおいしいんですよ」
確かに、その通りだ。
俺は新しい商品リストに書き加えた。
『コンビニ唐揚げ――異世界販売、検討開始』
商人としての次の一手。
それは、魔法でも武器でもなく――
カリカリ、ジュワッとした唐揚げだった。
次回はもっと危険なチキン




