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「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第3章 未知の海へ!最初の商人と境界の秘宝
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第18話 ブランデーボンボンの衝撃! 

旧交易所・地下区画。

目の前に現れた男。

長い外套。

古びた鞄。

そして、俺とよく似た顔。

スマートフォンの画面には、はっきりと表示されていた。

【記録人物:佐伯一郎】

【佐伯家・初代当主】

「……本当に、俺のご先祖様なのか」

思わず呟く。

すると、光の中の男が笑った。

『そうだ。私は佐伯一郎。お前の家系が、最初に境界を守った頃の人間だ』

「境界を守った……?」

『そうだ。だが、守るという言葉だけでは足りない』

一郎は、地下に並ぶ古い棚を見渡した。

『私たちは、異なる世界の人々が必要なものを交換できるようにした。食料を届け、道具を渡し、向こうの世界の品を受け取った』

「商売ですね」

『ああ。だが、ある時、問題が起きた』

一郎の表情が曇った。

『人々は便利な品を求めるようになった。そして、必要以上に品を持ち出そうとする者が現れた』

ミリアが尋ねた。

「それで、境界が不安定になったんですか?」

『そうだ。世界をつなぐこと自体が悪いのではない。欲望のままにつなぎ続けることが、境界を傷つけたのだ』

俺は静かにうなずいた。

父さんが教えてくれた商売の考え方と同じだ。

必要なものを届ける。

必要なものを受け取る。

相手を困らせてまで、利益を求めない。

『お前が商人であるなら、その意味を忘れるな』

「……はい」

一郎は満足そうに笑った。

ところが、その直後。

スマートフォンが鳴った。

ピコン。

【記録の一部が破損しています】

【重要記録:境界の最初の事故】

【追加調査が必要です】

「えっ、ここまで来てそれだけ!?」

思わず声が出た。

『すまんな。記録がすべて残っているわけではない』

「ご先祖様、そこは何とかしてくださいよ!」

『それもまた、商売と同じだ。足りないものは、自分で探すのだ』

「うまいこと言って終わらせないでください!」

狼王が横で笑った。

「蓮よ、ご先祖もなかなかの商人らしいな」

「今は感心している場合じゃない!」

すると、一郎の姿が少しずつ薄くなり始めた。

『次に調べるべき場所は、北方の山だ』

「北方の山?」

『そこに、最初の境界を閉じるために使った鍵がある』

ヴェルティアが顔を上げた。

「最初の境界を閉じる鍵……?」

『そうだ。だが、気をつけろ。鍵を探しているのは、お前たちだけではない』

その言葉を最後に、一郎の姿は消えた。

地下区画に静けさが戻る。

スマートフォンには、新しい地図が表示されていた。

【次の調査候補:北方山岳地帯】

【境界反応:確認】

俺は地図を見つめた。

「……北方に戻る必要がありそうだな」

リナがうなずく。

「以前、老人が話していた山ですね」

「ああ。佐伯家の人間が帰ってこなかったという場所だ」

セレナが俺の隣に立った。

「では、私も同行いたします」

「セレナさん、まだ決定したわけじゃ……」

「もちろん、妻として――」

「だから妻じゃありません!」

いつものやり取りだった。

ただし、今日はもう一つ問題があった。

「蓮様」

ヴェルティアが、じっと俺を見つめていた。

「……何でしょう?」

「チョコレートは?」

「はい?」

「今日は、チョコレートをお持ちではないのですか?」

「今は地下遺跡の調査中ですよ!?」

ヴェルティアは、心底残念そうに肩を落とした。

「そう……ですわね」

その落ち込みように、俺は思わず苦笑した。

「分かりました。地上に戻ったら、特別なものをお渡ししますよ」

「特別なもの……?」

ヴェルティアの目が輝いた。

「はい。日本から持ってきたお菓子です」

「……!」

その瞬間、彼女の表情が一変した。

「すぐに戻りましょう!」

「切り替えが早い!」

          ◇

王都に戻った、その日の夕方。

俺は店の奥で、保冷バッグとは別の小さな箱を取り出した。

中に入っているのは――

ブランデーボンボン。

チョコレートの中に、ブランデー入りのシロップが入った大人向けのお菓子だ。

もちろん、酒精を含むので、お酒に弱い人や未成年には渡さない。

ヴェルティアは成人していて、酒も問題ないと聞いていた。

「ヴェルティアさん、これをどうぞ」

「……これは?」

「ブランデーボンボンです」

俺は箱を開けた。

丸いチョコレートが、きれいに並んでいる。

「中にブランデーが入っているんですよ」

「ブランデー……?」

「お酒の一種です。普通のチョコとは違う味がします」

ヴェルティアは、息をのんだ。

「チョコレートと……お酒……?」

「はい。ただ、少しずつ食べてくださいね」

「分かりましたわ……!」

彼女は、まるで宝物を受け取るように箱を受け取った。

そして、一粒を口に入れる。

かりっ。

チョコレートの殻が割れた瞬間、中からブランデー入りのシロップが広がった。

「………………」

ヴェルティアの動きが止まった。

「……ヴェルティアさん?」

彼女の頬が、みるみる赤くなった。

「な、何ですの……この香り……!」

「ブランデーですよ」

「チョコレートの甘さの中に……大人の香りが……!」

彼女は口元を押さえた。

「これは……これは……!」

一歩、後ずさる。

そして、両手で胸を押さえた。

「蓮様……!」

「はい!?」

「あなたは……いったい、どれだけのチョコレートを隠し持っていらっしゃるのですか!?」

「隠してません! 日本にはいろんなお菓子があるんです!」

ヴェルティアは箱を見つめた。

その目には、驚きと感動、そして強い決意が宿っていた。

「決めましたわ……」

「またですか!?」

彼女は立ち上がった。

「私、チョコレート専属商人になります!」

「……はい?」

店の中が静まり返った。

ミリアがゆっくり顔を上げる。

リナも目を丸くした。

セレナだけが、すぐに反応した。

「ちょっとお待ちください!」

「何でしょう、セレナ様?」

「蓮様は異世界の商品を扱う商人です! 専属になるということは、蓮様の商売を独占するという意味ですか!?」

「いいえ!」

ヴェルティアは力強く答えた。

「私はチョコレートを専門に扱いたいのです! チョコレートの魅力を、この世界の隅々まで広めたいのですわ!」

「それなら、販売協力という形でよいのでは?」

「専属がいいのです!」

「なぜです!?」

「蓮様のチョコレートを、一番近くで扱いたいからです!」

「それは商売の話ですか!?」

「商売の話ですわ!」

ヴェルティアは即答した。

俺は頭を抱えた。

「いや、ちょっと待ってください! そもそも、チョコ専属商人って何ですか!?」

「チョコレートの仕入れ、販売、宣伝を専門に担当する商人ですわ!」

「説明は分かりやすいけど、今ここで決めることじゃない!」

「では、いつ決めるのですか!?」

「ええっ!?」

ヴェルティアは、とうとう頬を膨らませた。

「蓮様は、私がこれほどチョコレートを愛しているのに、専属商人にしてくださらないのですか?」

「いや、愛しているのは分かりましたけど!」

「生チョコも、普通のチョコも、ブランデーボンボンも……!」

彼女は指を折りながら数え始めた。

「まだ、知らないチョコレートがあるのでしょう?」

「ありますけど……」

「それを、全部知りたいのです!」

ついにヴェルティアは、店の椅子に座り込んだ。

「専属商人にしてくださいませ!」

「ヴェルティアさん!?」

「お願いします!」

「駄々をこねないでください!」

「駄々ではありません! 真剣な商談ですわ!」

ミリアが吹き出した。

「蓮さん、これは商談らしいですよ」

「どこがだよ!」

狼王はポテトチップスを食べながら、うなずいた。

「欲しいものを求める。商人として間違ってはいないな」

「今は味方しないでくれ!」

          ◇

結局、俺はヴェルティアと話し合うことにした。

「いいですか、ヴェルティアさん」

「はい!」

「専属商人にするかどうかは、すぐには決められません」

「……どうしてですの?」

「商品の仕入れには費用がかかります。チョコレートは保存方法にも気をつけないといけない。ブランデーボンボンのようにお酒が入った商品は、販売する相手にも注意が必要です」

ヴェルティアは真剣に聞いていた。

「そして、何より大事なのは――」

俺は彼女を見た。

「チョコレートを独占しないことです」

「……独占?」

「はい。たくさんの人に楽しんでもらうための商品ですから。ヴェルティアさんだけが扱えるようにするのは、今は考えていません」

ヴェルティアはしばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりとうなずいた。

「……分かりましたわ」

「本当ですか?」

「はい。独占ではなく、まずはチョコレートの販売を手伝わせてください」

「それなら、ぜひお願いします」

俺が笑うと、ヴェルティアの顔もぱっと明るくなった。

「ありがとうございます!」

そして、すぐに付け加えた。

「では、販売協力者として、次のチョコレートを予約してもよろしいですか?」

「……予約はいいですけど、まだ次の商品は決めてませんよ!」

「では、次の候補を教えてくださいませ!」

「ええっと……」

俺は思わず苦笑した。

チョコレートへの情熱だけは、本物らしい。

セレナが腕を組んだ。

「……私も、蓮様の販売協力者として負けていられませんね」

「セレナさんまで!?」

「私もチョコレートを広めます♡」

「お二人とも、商売の協力はありがたいですけど、競争しすぎないでくださいね!」

二人は顔を見合わせた。

「もちろんですわ」

「ええ、もちろんです♡」

……その笑顔が、逆に不安だった。

          ◇

その夜。

俺はスマートフォンで、旧交易所の記録を整理していた。

佐伯一郎が残した言葉。

境界を守る商売。

そして、北方の山にあるという鍵。

画面に、新しい通知が現れた。

【過去の境界交易記録を更新】

【佐伯家・初代当主の追加記録】

『商人は、品物だけを運ぶのではない』

『その品物を必要とする者のもとへ、喜びを運ぶ』

俺は静かに読み返した。

今日、ヴェルティアはチョコレートを食べて、あんなにも喜んでくれた。

それは、ただ甘いものを食べたからではない。

知らなかった世界の味に出会ったからだ。

商売とは、そういうものなのかもしれない。

しかし、次のページには不穏な記録が残されていた。

『だが、喜びを求める者が増えすぎたとき、境界は悲鳴を上げた』

『我らは、一度すべての扉を閉じなければならなかった』

「……一郎は、何を経験したんだ?」

俺は画面を見つめた。

そのとき、外から声が響いた。

「蓮様ー!」

ヴェルティアだった。

「明日のチョコレートの販売計画を考えてまいりましたわー!」

「……もう計画を!?」

扉を開けると、彼女は分厚い書類を抱えていた。

表紙には、大きな文字でこう書かれていた。

『チョコレート販売事業計画書』

「本気すぎるだろ……!」

ヴェルティアは胸を張った。

「私は本気ですわ!」

そして、にっこり笑った。

「いつか、チョコレートをこの世界の名物にしてみせます!」

俺は思わず笑った。

「……それは、面白いかもしれませんね」

けれど、俺はまだ知らなかった。

チョコレートを広めるというヴェルティアの夢が――

やがて、佐伯家の境界を揺るがす大きな事件につながっていくことを。

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