↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「カーテン開けると異世界トリップで大儲け」  作者: 碧凛睡
第3章 未知の海へ!最初の商人と境界の秘宝
PR
110/135

第6話最初の商人・佐伯一郎!八百年前から続く一族の秘密

古代遺跡の中央。

俺のスマートフォンが、見たこともない光を放っていた。

【境界鍵:認証中】

【佐伯家の血統を確認】

【古代記録との接続を開始します】

「……何が始まるんだ?」

俺が呟いた瞬間。

遺跡の壁一面に、青白い光が走った。

そして――

目の前に、一人の男が現れた。

黒髪。

質素な服。

腰には革袋。

手には、見慣れない道具。

その男は、俺たちを見回してから口を開いた。

『ここまで来たのか。佐伯の子孫よ』

「あなたは……誰ですか?」

男は静かに微笑んだ。

『私の名は、佐伯一郎』

「……一郎!?」

ミリアが息をのんだ。

「佐伯家の記録にあった人物……!」

俺は慌ててスマートフォンを確認した。

【人物記録:佐伯一郎】

【佐伯家の歴史における重要人物】

【境界管理記録:複数あり】

【称号:最初の商人】

「やっぱり……」

俺は映像の男を見つめた。

「でも、あなたが最初に境界を発見したんじゃないんですよね?」

一郎は少し驚いた顔をした。

『よく気づいたな』

「え?」

『境界そのものを発見したのは、私ではない』

一郎は壁に手をかざした。

すると、遺跡の壁に新たな映像が浮かび上がった。

          ◇

そこに映っていたのは、八百年前の世界だった。

荒れた大地。

飢えに苦しむ人々。

そして、空間に走る奇妙な亀裂。

亀裂の向こうには、見知らぬ世界が広がっていた。

『八百年前、私たちの先祖は、世界と世界をつなぐ境界を発見した』

一郎の声が響く。

『最初は、ただの異変だった。人が消え、物が現れ、夜空に見たことのない星が浮かんだ』

「それが……境界の始まり?」

『そうだ。しかし、境界を見つけたからといって、誰もが向こう側へ行けたわけではない』

映像の中で、何人もの人々が亀裂に近づいていた。

だが、亀裂は不安定だった。

近づいた者が弾き飛ばされる。

物資が消える。

時には、黒い霧があふれ出す。

『人々は恐れた。そして、境界を封じようとした』

「それなら、どうして商売が始まったんです?」

俺の問いに、一郎は答えた。

『ある日、境界の向こうから、一人の旅人が現れた』

映像が切り替わる。

旅人は、傷ついた人々に水と食料を渡していた。

見返りは求めなかった。

その姿を見て、一人の少年が尋ねた。

『どうして、そんなことをするのですか?』

旅人は笑った。

『困っている人がいる。それだけで十分だろう』

俺は思わず息を止めた。

『その旅人が、最初に境界を通じて人々を助けた者だった』

一郎は続けた。

『だが、その旅人の名前も、どこから来たのかも、記録には残っていない』

「つまり……」

「境界を最初に発見した人と、最初に商売を始めた人は別なんですね」

ミリアが頷いた。

『その通りだ』

一郎は微笑んだ。

『そして私は、その旅人の行いに心を動かされた一人だった』

          ◇

映像の中で、若い一郎が初めて境界をくぐっていた。

手に持っていたのは、わずかな米。

向こう側にいた人々は、食料が不足して苦しんでいた。

一郎は米を渡した。

すると、一人の老人が、小さなパンを差し出した。

『これは、私たちの世界の食べ物だ。受け取ってくれ』

一郎は驚いた。

『私が渡した米に比べれば、こんなもの……』

老人は首を振った。

『価値を決めるのは、値段だけではない』

その言葉に、一郎は黙り込んだ。

やがて、二人は笑い合った。

米とパン。

それだけの交換だった。

しかし、その小さな取引が、後の佐伯家の商売の原点になった。

「……なるほど」

俺は呟いた。

「最初から大儲けを目指していたわけじゃないんだ」

ガルドがここにいたら、何と言っただろう。

たぶん、「利益も大事だが、信用はもっと大事だ」と言うに違いない。

一郎の映像が、こちらを向いた。

『商売とは、相手が本当に必要としているものを知ることだ』

『そして、自分も相手も無理をしないこと』

『欲をかき、必要以上に奪おうとすれば、境界は必ず歪む』

俺は静かに頷いた。

父さんから聞いた言葉と同じだった。

佐伯家が代々守ってきたもの。

それは、商品でも金でもない。

商売のやり方そのものだった。

          ◇

「でも……」

俺は気になっていたことを尋ねた。

「一郎さんは、どうして初代当主と呼ばれているんですか?」

一郎は、少しだけ表情を曇らせた。

『境界を通じた取引が増えるにつれて、問題も増えた』

映像の中では、商人たちが大量の鉱石や宝石を運び出していた。

必要な量をはるかに超える物資。

無理な取引。

奪い合い。

そして――

黒い霧。

『境界が不安定になり、二つの世界に亀裂が生じ始めた』

「それを止めたのが……一郎さん?」

『私一人の力ではない』

一郎は首を振った。

『私には弟がいた』

壁に、新たな人物が映し出される。

一郎によく似た男だった。

ただし、こちらは海辺に立っていた。

『兄は陸から境界を守る方法を探した。私は海から異変を監視した』

弟の声が、遺跡に響いた。

『陸だけでは、境界の変化をすべて把握できない。海だけでも同じだ。だから私たちは役目を分けた』

「それが……佐伯家の二つの役目」

ミリアが呟いた。

一郎が頷く。

『私は各地の商人と協力し、取引の規則を定めた。弟は海の向こうにある境界を監視する一族を築いた』

『そして、私たちの子孫が、その役目を受け継ぐことになった』

「だから一郎さんが、佐伯家の初代当主なんですね」

『そうだ。最初に境界を見つけたからではない』

一郎は、はっきりと言った。

『境界を守るための商売の仕組みを作り、佐伯家の役目を定めたからだ』

俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。

これまで、佐伯家の名前はただの家名だと思っていた。

だが違った。

何世代にもわたって、誰かが境界を見守り、誰かが取引を続けてきた。

その積み重ねが、今の俺につながっている。

          ◇

その時だった。

ガガガガガッ!

遺跡全体が激しく揺れた。

「きゃっ!」

セレナが俺の腕をつかむ。

「蓮様、危険です!」

狼王が低く唸った。

リナの地図が、真っ黒に染まり始める。

「そんな……! 島の外側から、何かが近づいています!」

スマートフォンが警告音を鳴らした。

【警告】

【境界制御装置の不安定化】

【外部からの干渉を検知】

【島の沈降まで――残り不明】

「島が沈むってことか!?」

俺は一郎の映像を振り返った。

「どうすれば止められるんですか!?」

一郎は真剣な顔になった。

『中央制御装置を起動すれば、島の安定を取り戻せる可能性がある』

「なら、すぐに起動を!」

『待て』

一郎の声が強く響いた。

『制御装置を起動すれば、境界の向こう側にも影響が及ぶ。正しい手順を知らずに動かせば、二つの世界をつなぐ扉が一斉に開く恐れがある』

俺は動きを止めた。

「一斉に……?」

『世界中の境界がつながれば、何が起きるか分からない』

黒い霧が壁の隙間から染み出してきた。

ミリアが魔法で押し返す。

「蓮さん! 長くは持ちません!」

その時、遺跡の奥から声が響いた。

『そうだ。開けろ』

誰の声だ?

一郎の映像とは違う。

『境界をすべて開けばいい。商人なら、世界をつなぐことの価値が分かるはずだ』

「……誰だ、お前は!」

『お前の一族が隠してきた真実を知りたいのだろう?』

黒い霧の中に、人影が浮かんだ。

『ならば、制御装置を起動しろ』

セレナが俺の前に立つ。

「蓮様、その声に従ってはいけません!」

狼王も牙をむいた。

「罠だ。匂いが違う」

俺はスマートフォンを見た。

【境界鍵:使用可能】

【制御装置との接続を確認】

【起動しますか?】

画面には、二つの選択肢が表示されていた。

【YES】

【NO】

俺は、すぐには押さなかった。

商人として、商品を売る前には相手の必要を考える。

契約を結ぶ前には条件を確かめる。

そして今は――

世界をつなぐ前に、何が起きるのかを知らなければならない。

「俺は、誰かの命令で扉を開くつもりはない」

黒い霧の人影が笑った。

『ならば、島と一緒に沈むがいい』

床が大きく傾いた。

「蓮さん!」

リナが叫ぶ。

俺はスマートフォンを握りしめた。

「一郎さん! 制御装置の正しい起動方法を教えてください!」

一郎の映像が、一瞬だけ揺らいだ。

『……すまない』

「え?」

『その方法は、私の記録には残せなかった』

一郎は苦しそうに目を伏せた。

『正しい起動方法を知っていたのは、海を守る弟の一族だけだ』

俺は息をのんだ。

「じゃあ、弟の子孫がどこかに……?」

『いるはずだ。だが、最後に連絡が取れたのは、数十年前のことだった』

「数十年前……?」

その時。

俺のスマートフォンが、突然新しい通知を表示した。

【海側の境界監視者を検知】

【血統反応:一致】

【現在地:島の外周部】

俺は顔を上げた。

「外周部……?」

リナが地図を広げる。

すると、島の北側に、小さな光点が現れた。

「誰かいます!」

セレナが驚く。

「こんな島に、私たち以外の人が?」

その直後、遺跡の外から声が響いた。

「おーい! 中にいるのか!」

若い男の声だった。

「扉を開けろ! 島が沈むぞ!」

俺は一郎の映像を見た。

一郎は、驚いたように目を見開いていた。

『まさか……』

「知っている人なんですか?」

『いや……』

一郎は静かに呟いた。

『あの声は、私の弟によく似ている』

俺たちは顔を見合わせた。

八百年前から続く佐伯家。

最初の商人、佐伯一郎。

そして、海から境界を守ってきた弟の一族。

その子孫が、今、この島にいる。

だが――

その人物は、本当に俺たちの味方なのだろうか。

スマートフォンが最後の警告を鳴らした。

【島の安定率:41%】

【境界制御装置:起動待機中】

【海側監視者との接触が必要です】

俺は扉へ向かって走り出した。

「みんな、行こう!」

セレナが俺の後を追う。

「もちろんです、蓮様! 未来の妻として!」

「今それを言ってる場合じゃない!」

「非常時だからこそです♡」

「どんな理屈だよ!」

狼王が呆れたように唸った。

「……まったく、騒がしい一行だ」

崩れ始めた遺跡の中を、俺たちは走った。

扉の向こうにいる、海側の監視者。

その人物が握る、境界を安定させる方法。

そして、黒い霧の中で俺たちを見つめる謎の存在。

八百年の秘密は、まだ終わっていなかった。

むしろ――

本当の謎は、ここから始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。